
所有欲をそそる質感のボディ
256ものプリセット音色を搭載
スタジオに到着した梱包を早速開けてみると、本体はさすがの存在感。操作子の数(40個のノブと74個のスイッチ)、木製のサイド・パネルとアルミ製のリア・パネルの質感が所有欲を刺激します。37鍵(オクターブ・シフト・ボタンを装備)化されたことで、“手弾き派”のクリエイターも満足できる仕様となっています。
本機はパラフォニック(ポリフォニックではなく、オシレーター1/2で個別の音程を演奏可能)ですが、基本的にはSub Phattyと同様の音源を搭載しています。構成は2オシレーター+1サブオシレーター+ノイズ・ジェネレーターで、それに加えてDAHDSR/ループなどを装備した高機能なエンベロープ・セクション、外部オーディオ入力とフィルター出力をミキサーに再入力してひずませるフィードバック機能、2基のLFOを装備。フィルターもスロープを6、12、18、24dB/Octの4段階で設定可能。何と言ってもMOOG独特の強烈で太いレゾナンスは、ソフトには無い“さすが実機”という存在感のあるサウンドです。
Sub 37はアルペジエイターも搭載しており、UP/DOWN/ORDR(弾いた順番で演奏)/RND(ランダム)に加え、内蔵シーケンサーを選択することも可能。最大64音までのステップ・シーケンスを作れる上、MIDIでDAWとシンクできるので、オートメーションを使っての曲展開にも容易に対応できます。また、ミキサー・セクションは、実際の音作りの際に便利なオシレーターのON/OFFボタンや、自由にモジュレーション先を選択できる“MOD DEST”ボタンなどを装備。いずれも気が利いており、実用的です。
左側のサイド・パネルには接続端子を装備しており(写真①)、

MIDI IN/OUTはもちろん、CV/Gate入力(フィルターCV、ピッチCV、ボリュームCV、キーボード・ゲート)、USB MIDIにも対応。DAWベースのコンパクトなセットアップにも適した仕様となっています。またトップ・パネルの各操作子はMIDI出力に対応。本機をフィジカル・コントローラーとしても使用できます。
256と充実したプリセットのブラウジングはトップ・パネル左上のディスプレイで行い、操作はPRESET/BANKボタンでもCURSORボタンでも可能。カテゴリーを選択して呼び出すこともできるので、欲しい音色に手早くたどり着けます。さらに“COMPARE”ボタンを使用すれば、プリセットをエディットした後に元の音色と比較できるなど、通常のアナログ・シンセサイザーには無い便利な機能も搭載しています。
多彩な音作りに対応するサチュレーター
“MULTIDRIVE”を搭載
トップ・パネルには見慣れたMOOG系のパラメーターが並んでおり、ゼロから音を作ることも容易ですが、今回はせっかくなのでプリセットの音色をチェックしてみました。クラシックな“Lead”はもちろん、モダンで攻撃的な“Bass”から複雑なモジュレーションを駆使した“Effect/Sequence”まで、実に多彩な音色が用意されています。
肝心の出音ですが、クラシックなMOOGサウンドを基本としつつ、現代的なレンジ感にアップデートされている印象。新しいスタイルのプロダクションでもすぐに導入できそうです。
個人的に気に入った機能は、フィルター・セクションにある“MULTIDRIVE”。激しくひずませた音色も作れますが、通常はEQとコンプで行うような“オケ中で存在感を出す”といった微妙な調節も可能で、非常に使いやすい、単体製品としても欲しくなるようなサチュレーターとなっています。MULTIDRIVEのみでもさまざまな音作りに対応しますが、“FEEDBACK”を組み合わせればさらに幅広いひずみも手に入ります。
まず低音パートから作ってみようと思い、いろいろと試してみました。プリセットには“SubBass”などそのままベース・ライン/キックの補強用に使える即戦力の音色を収録。これを基本にMULTIDRIVEなどで微調整すれば、ベース・ミュージックで“使える”音色が容易に得られます。
次にもう少しオシレーターの素性の良さを生かした音色を作ってみました。まずはシンプルにオシレーター1で三角波をセレクトし、レゾナンスを切った状態でフィルターをやや抑え気味に調整。エンベロープはアタック速め/サステイン長め/リリース短めで、補強用のサブベースなのかメインの音色なのかによってMULTIDRIVEを調節すれば、すぐに強力かつ使いやすい音色の出来上がりです。オシレーター自体の音が太いため、特に複雑な処理をしなくとも、問題無く曲の重心を支え、フロアを揺らせる音色が手に入ります。ここからさらにオシレーター2で三角波を足し、“BEAT FREQ”ノブで少しだけデチューンを施せば、古くからドラムンベースなどで使われているような、揺れつつ広がり感のある(モノラルですが……)ベース・サウンドの出来上がりです。シンプルですが、Sub 37は音を揺らした際の太さ/存在感がやはり別格に感じました。
トラックのメインで使いたくなるような
太い音色が容易に得られる
もう少し踏み込んで音作りしてみましょう。まずフィルター・エンベロープを利用してフィルターを開く設定にし、MULTIDRIVEとFEEDBACKを高めに設定。その上でレゾナンスをやや持ち上げれば、すぐにドラムンベースで聴く機会の多い、中域が張り出した動きのあるベース・サウンドが得られます。古くからUKのダンス・ミュージックのプロデューサーがMOOG MinimoogやSEQUENTIAL Pro-Oneなどをアナログ卓に過入力して得ていたサウンドを、本機ではほかの機材を使用することなく作れてしまうのです。過入力に付きもののノイズも少なく、クリアでモダンな音色にアップデートされており、トラックのメイン・パートに使いたくなるような太い音色が、容易に手に入ります。ここでLFOをフィルターにアサインすれば、ダブステップで聴かれるウォブル・ベース化も可能。クラシックな雰囲気を残したままワイド・レンジで埋もれないサウンドにでき、とても好印象でした。
ソフト・シンセではもっと複雑な動きのある音色を作れますが、シンセの音色感はプロデューサーの個性に直結する部分でもあるので、今だにUKやヨーロッパではアナログ・シンセを使って細かなニュアンスを追求する人が多いです。昨今のモジュラー・シンセの流行もあり、このSub 37でもフィルターのレスポンスやエンベロープ・カーブ、オシレーターの微調整など、一歩踏み込んだニュアンスと質感を追及できます。
個人的にはもう少し実験的な音を作ることが多いので、“パラメーターが少ないのかな?”と思っていましたが、LFOセクションにある“HI RANGE”ボタンを押すことによってLFO周期を可聴帯域に上げられるので、FM系シンセとは一味違うザラついた倍音を多く含む音色も作れます。さらに先述したMULTIDRIVEとFEEDBACKでひずみを足せば、“壊れた”音やドローンにも対応しますし、エンベロープ・セクションにある“LOOP”機能を3つ目のLFOととらえ、2基のLFOと同時に使用した複雑なパーカッション・ループなど、最近ヨーロッパで流行しつつあるサウンド・デザイン的なアプローチにもしっかりと対応してくれました。
Sub 37は一見するとシンプルなMOOGスタイルのシンセサイザーですが、実際に触ってみると、伝統的な技術に1アイディアを足すだけで、一気にモジュラー・シンセのような自由度を持たせたMOOGのセンス/技術に脱帽しました。かわいげのある一生モノのシンセになりそうです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年3月号より)