『Pro Tools|Carbonで実践!R&Bボーカルの上手な聴かせ方』 by グレゴリ・ジェルメン〜サンレコ クリエイティブ・ラウンジ2021 アーカイブ

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あまり考えないようにグルーブに合わせてミックスする
そのためには自分の使うツールをよく把握しておく

 Mrs. GREEN APPLE、パスピエ、大比良瑞希、AAAMYYYなど、さまざまなアーティストの作品を手掛けるエンジニア、グレゴリ・ジェルメン氏。ジャンルを問わず、端正なサウンドが氏の持ち味と言えよう。中でも最も得意とするR&Bボーカルの聴かせ方について詳しく聞いた。

 

『Pro Tools|Carbonで実践!R&Bボーカルの上手な聴かせ方』
by グレゴリ・ジェルメン

 

オフライン処理で適切なディエッシング効果を

 今回の題材曲は、ジェルメン氏自身が最近の自信作の一つというaimi「The Wave feat. Furui Riho」。英語で歌うaimiと日本語で歌うFurui Rihoという、同一楽曲で2人のボーカルを聴けるが、その処理の違いにも注目したい。

 

 今回ジェルメン氏が持ち込んだオーディオI/OはAVID Pro Tools|Carbon。1Uサイズに多数の入出力と、DSPによるプロセッシング・パワーをもたらす人気の新製品だ。ジェルメン氏は自宅用に購入したが、「スタジオのPro Tools|HDXシステムへセッションを移すときに、どのプラグインがDSPだったか、ネイティブだったかを気にしなくていい。出音もPro Tools|MTRXに迫るクオリティです。また、僕はハードウェアでのパラレル・コンプレッションを多用するので、なるべくレイテンシーが無いのがいいんです」と語る。

 

 また、手元には8フェーダーのコントローラー、AVID S1も置かれている。

 

 「僕はバランスを取るときに、フェーダーが無いとすごくやりづらい。画面の情報に頼らないでバランスを決めたいんです。S1を一度借りてみたらEuCon接続でスムーズに動くので気に入って、2台買って普段は左右に置いています」

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グレゴリ・ジェルメン氏が持ち込んだシステムは、AVID Pro ToolsをインストールしたAPPLE MacBook Proに、オーディオI/OのPro Tools|Carbon(写真奥)、フィルジカル・コントローラーのS1(同手前)という組み合わせ

 さて、「The Wave〜」のトラックを見ていくと、まず特徴的なのはサビ部分。リード・ボーカルとコーラスをバスでまとめて処理している点だ。

 

 「R&Bでは、サビはコーラスも含めて、全体のボイスとして、壁みたいな感じでとらえています。メインの歌+バック・ボーカルというふうに見せると、R&Bというジャンルに聴こえなくなるんです」

 

 では実際のボーカル処理を見てみよう。手始めに、ジェルメン氏はAudioSuiteプラグインのディエッサーを使って、ピークとなる子音の調整をしているそうだ。

 

 「リアルタイム処理だと、ピークに処理が追いつかないんです。だから深めにディエッシングしがちで、そうすると歌がどんどん暗くなってしまう。子音の種類によってパラメーターも変わるので、一つ一つ先にオフラインで処理しておきます」

 

 続いてローカット、「歌っているタイミングやグルーブに合わせて持ち上がる帯域を抑える」という狙いでのマルチバンド・コンプ、さらに太さを加えるコンプなどを追加していく。

 

 ここでaimiとFurui Riho、二人の声質のマッチングを図る作業に。

 

 「エアリーな声のaimiさんに対して、Rihoさんはボディが強く出る。そこで、PLUGIN ALLIANCE Maag Audio EQ4の650Hz固定のバンドで、aimiさんの方を上げています。Maag Audio EQ4はAIRバンドとこの650Hzのためだけに使っているんです」

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aimiのエアリーなボーカルにボディ感を加え、Furui Rihoの声の持つ周波数バランスに寄せるために使用したPLUGIN ALLIANCE Maag Audio EQ4。赤いノブの650Hzが1dB上がっている。こうしたわずかな調整を積み上げていくのが氏のミックスの特徴

パラレル処理した音から不要な帯域をカット

 その後別のEQで処理。さらにバスではコンプでレベルをならした後、トラックに埋もれないようエッジを出すためにわずかにサチュレーションを加える。またその後でコンプやEQで質感を少しずつ加えていった。

 

 そこから原音とミックス音を混ぜるパラレル処理を行う。特徴的なのは、コンプで処理した後に大胆なEQを加える点だ。

 

 「例えば、シルキーな声にコンプをかけると、高域が持ち上がり過ぎてしまいます。なので、コンプで処理した音の中から欲しい帯域だけを原音に混ぜるんです」

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原音と混ぜる、パラレル・コンプレッションの例。高めのレシオでSOFTUBE Tube-Tech CL 1Bでコンプをかけた後、それによって持ち上がった高域が強くなるのを回避するため、AVID EQIIIで6kHzより上を大胆にカット。これを原音と混ぜてバランスを取る

 実際にはこうしたプロセスにハードウェアを使うことも多いというジェルメン氏。こうして氏の作業を見ていくと、使っているプラグインの種類こそ多いが、それぞれで処理していることはシンプルだ。さらに、平歌とサビではトラックを分け、コンプレッションの具合を変えたり、下支えするために1オクターブ下の音を重ねたり、丁寧にリバーブやディレイで演出するプロセスを経て、ボーカルが映えるミックスが仕上がった。

 

 「僕はどちらかと言えばあまり考えないようにしていて、グルーブや曲の雰囲気に合わせてミックスしています。どのプラグインのどの設定でどういう効果が得られるかは、自分の中に染み付いている筋肉のようなものなんです。“これをやってみよう”と思ったら、これとこれをこう組み合わせるとできる、ということは考えなくてもできる。瞑想に近いような感じです。もちろんそれにはどうすればどうなるか、自分の使うツールをよく把握していないとできないんですよね」

 

グレゴリ・ジェルメン

グレゴリ・ジェルメン

【Profile】レコーディング・エンジニアになるべくパリから来日し、専門学校卒業後スタジオグリーンバードを経てDigz Inc, Groupに。2021年より独立しSonic Synergies Engineeringを設立。バンドものからR&BまでのJポップ、Kポップなど多岐にわたって活躍
https://www.gregory-germain.com/

 

aimi オフィシャルWebサイト

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