『ラウドネス・ノーマライゼーションの誤解を解く』by David Shimamoto〜サンレコ クリエイティブ・ラウンジ2021 アーカイブ

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再生ボリュームを決める権限は
リスナーにあるということを忘れてはいけません

 Apple MusicやSpotify、TIDAL(日本未展開)などの音楽ストリーミング・サービスや、YouTubeやニコニコ動画などの動画サービスで使われているラウドネス・ノーマライゼーション。“ラウドネス”という指標を基準に音量を整える仕組みだ。これに関して“音が悪くなる”“圧縮される”といった意見も散見されるが、果たして本当なのだろうか? この問題に詳しいDavid Shimamoto氏とオンラインでつなぎ、詳しく聞いた。

 

【動画連動】『ラウドネス・ノーマライゼーションの誤解を解く』
by David Shimamoto

 

過度なマキシマイズがダイナミクスを損なう

 まず前提として、2010年前後からテレビ放送のデジタル化とタイミングを同じくして、“ラウドネス”という体感音量を示す基準が作られた。それまで番組間やチャンネル間、あるいは番組とCMの間に音量差があることで、視聴者/聴取者が頻繁に再生音量を調整しなければいけないという不便があり、それを解消する目的でラウドネス基準が世界的に導入された。動画ストリーミングでも同様の理由でこの基準が導入されている。

 

 「音楽ストリーミング・サービスに関して言えば、プレイリストやシャッフル再生が導入されたことで、いろいろな曲がランダムに再生されることになります。そこで音量差があると、急に大音量が来てびっくりしたり、曲の変わり目で小さ過ぎて聴こえなくなったりする。ですので、より一貫したリスニング体験を提供したいという考えが背景にあります」とShimamoto氏。一方、CDマスタリングでは長年、0dBFS=デジタル・ピークのギリギリまでRMS(平均音量)を高めていくようなマキシマイザーの使われ方がされており、これは“音圧戦争”と呼ばれ、各国でも是非が問われてきた。

 

 「リミッティングとゲイン増を同時に行うタイプのマキシマイザーは、平均レベル……つまり体感音量を上げながらピークを押さえつけます。すると、瞬間的なアタックを表現できるための余白がどんどん少なくなっていきます。過度にマキシマイズされた音源は、この“余白”が減少するとともに、アタックやダイナミクスも物理的に制限されます。ラウドネス・ノーマライゼーションは、RMSに近い体感音量を、楽曲間でそろえる音量調整のこと。ラウドネス・ノーマライゼーションによってインパクトが弱くなったと感じられる音源はたいてい、元よりダイナミクスを欠いているだけです」

 

 Shimamoto氏はさらに、ピークがならされることによって、音源が本来持つ空間情報が損なわれる点も指摘した。

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『とーくばっく〜デジタル・スタジオの話〜』
David Shimamoto
ラウドネス以外にもPCM解像度やM/S処理などのトピックを扱う、Shimamoto氏の著書。Webサイトで購入可能

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『とーくばっく』より。左の2つはカエルのジャンプ=ピークがそのまま表現されている。右のように平均音量(RMS)を過度に上げると、カエルのジャンプが抑制される。この後、平均音量が一定に整えられると、ページ・トップ画像の図のようにピークが抑制されたままの状態で下がってしまう

ノーマライズは再生機での音量調整と同じ

 では、ストリーミング・サービスが勝手に音を変えているのか? Shimamoto氏は明確に否定する。

 

 「これまでも、CDを入れ替えて再生したときに“ちょっと音が大き過ぎるぞ”と思ったリスナーは自分でボリュームを下げていました。ラウドネス・ノーマライゼーションで行っていることは、再生機のボリューム調整と変わりはないのです。“ラウドネス・ノーマライゼーションによって、音像が小さくなった”とおっしゃる方は、もともとその再生音量で聴くと音像が小さくなるようなマスターを作っていたと言えます。究極的には、再生ボリュームを決める権限はリスナーにあるということを忘れてはいけません」

 

 また、ラウドネス基準導入以前も、局のエンジニアが音量を調整した上で放送に乗せていたと氏は指摘する。リスナーが聴きやすいようにという努力自体は常に行われており、ラウドネス・ノーマライゼーションも、大きなパラダイム・シフトではあるが、あくまでその一環に過ぎない。一方、ストリーミング・サービスで音が変わるという声もある。これはラウドネス・ノーマライゼーションと別の理由があると氏は続ける。

 

 「AACなどの非可逆圧縮であるという点がまずありますが、非可逆圧縮の圧縮→伸長でピーク・レベルが上がります。各ストリーミング・サービスはこの“トゥルー・ピーク”を考慮した入稿ガイドラインを設けていますから、それを無視しないことも大切です」

 

 では、ラウドネス・ノーマライゼーション時代のミックスで、留意すべき点はどこか? Shimamoto氏はこう結んだ。

 

 「制作側も、音量差にだまされないことですね。パッと聴いたときの印象で、音が大きい方がいいと感じてしまうという人間の特性は、リスナーに限ったことではありません。例えばEQで特定の周波数帯域をブーストすると、そのトラックのレベルが上がった分、良くなったと勘違いしてしまう。どんな処理をするにしても、その処理前後でレベルをそろえた上で、本当にその処理が楽曲にとってプラスに作用してるのかということを、慎重に見極めながらミックスやマスタリングを進めていくべきだと思います」

 

David Shimamoto

David Shimamoto

【Profile】Studio Gyokimae / Vocal-EDIT.com代表。California Institute of the Arts卒。ボーカル補正を業務として行う傍ら、音楽制作/録音にまつわる情報をまとめた書籍『とーくばっく〜デジタル・スタジオの話』を自主制作。京都府在住。https://pspunch.com/pd/index_ja.html

 

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