アンダーグラウンド寄りのテクノやハウスの音を
ヒップホップに取り込んでみる面白さがありますね
長年にわたりNATIVE INSTRUMENTS MaschineやAKAI PROFESSIONAL MPCなどのパッド機材を愛用してきたヒップホップ・アーティストのKREVA。制作ツールとして使うのみならず、機材にフィーチャーしたライブを企画し、楽曲制作工程を解説しながらパフォーマンスを行うなど、クリエイターたちにも大きな影響を与えてきた。インタビュー前半では、KREVAにパッドを使うことのメリットや、Maschineでの制作などについて語ってもらった。
Interview:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima
Styling:Daisuke Fujimoto(tas)
衣装協力:stein、URU(ENKEL 03-6812-9897)
鍵盤で打ったときのベロシティの付き方を超える
パッドの感圧を利用したハイハットのグルーブ
ーKREVAさんはこれまでにMPCシリーズやMaschineシリーズを数多く使われていますよね。
KREVA MPCはMPC3000×2台、MPC4000×2台、MPC1000、MPC500、MPC2500SE、MPC Renaissance、MPC Touch、MPC One。MaschineはMK1、MK2、Mikro MK2、Studio、MK3、Mikro MK3、Maschine+が自分のパッド履歴ですね。
ーその中でもパッドの好みなどはあるものでしょうか?
KREVA 以前はMPC3000のパッドが柔らかさとかを含めて好きだったんですけど、今はMaschine MK3のたたきやすさがベストですね。パッド同士の間隔の狭さとフィーリングが良くて、柔らかさやゴムの表面の質感も良い。最近よく使うMaschine+は、さらにノブの質感まで良くなりましたね。
ーパッドを使うことのメリットはどう考えますか?
KREVA ハイハットの打ち込み、特に最近っぽいNOTE REPEAT機能を使った連打とかができるのは強みじゃないですかね。NOTE REPEATを使うと思いも寄らないものが出てきたり、遊んでいるうちにできたりするので結構使います。Maschineのパッドでハイハットを打つときのベロシティの付き具合も好みです。強く押したら強く鳴るという感覚がすごく自分に合っています。昔から、ハイハットは鍵盤で打ったときのベロシティの付き具合が最強だと思っていたのですが、それを超えてきたのがMaschineのパッドの感圧を利用したハイハットのグルーブで、これは手放せないですね。あとは、音色を16個ごとに管理できるのは大きいかなと思います。限定した方が制作で迷わないですね。これはMPC4000からやっていることで、DAWのドラム・ラックとかでもできるんですけど、例えばバンクDは16個全部スネアで、Eは全部キック、Fは全部ハイハットというようなキットを作っています。良いと思ったものを集めておいて、その中から選んで打ち込む。そうすると違うグループ同士のキック、スネアとかが選ばれて単調になるのを避けられるのでお勧めです。MPC4000は、マルチ→プログラム→サンプルというツリー構造になっているんですけど、バンクA~Hに全部スネアのサンプルが入ったプログラムを作る。同じようにキック、ハイハット、パーカッションとかのプログラムも作って、それをマルチ1、2、3へ入れた“KREVA Kit”を用意して曲を作っていました。同じブレイクビーツの中の音だけ使うとあまり立体感が出なかったりするんですけど、いろいろなところから引っ張ってきたドラムを使うことで色が付きやすいんですよね。俺が最初にMPC4000の使い方を教わったDJ TATSUTAがそうやって管理していたので、その影響です。それ以降あまりそういう管理をしている人に会ったことはないですけど。キット内が全部スネアなら、打ったMIDIノートを上下にトランスポーズするだけで別のスネアの音色に変えていけるのが良いと思います。
Maschineで完結させるのではなく
ラフ・スケッチを描く感覚がうまく使える
ーサンプルの配置はどのようにして使っていますか?
KREVA Maschineに関してはドラムの位置とか基本的な設定は全部デフォルトです。自分でプレイしたいときには並び替えますけど、曲を作るときは全部基本的にそのままですね。ただ、タムはデフォルトだと左から右のパッドに向かってピッチが高くなっていくように配置されていますが、配置を逆にして低くなっていくようにすると良い感じで打てます。配置の話とはちょっと違うかもしれないですけど、Maschineで一番使うのはピアノです。MaschineソフトウェアをABLETON Liveのトラック上に立ち上げて、バンクAにNATIVE INSTRUMENTSのピアノ音色Alicia’s Keysをアサインしています。作る曲のキーをKEYBOARDモード(編注:パッド16個を使って音階が演奏できるモード)でチェックしたり、簡単なメロディをパッドで探したりしますね。音階の上がり方はパッドならではだと思うし、スケール・モードでキーを決められるのも良い。ディスプレイが2つあるMaschine MK3やMaschine+は画面にキーやコード名が表示されるので、鍵盤が弾けない自分にとってはすごくありがたいです。
NATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3
2017年発売(写真はghostinmpcによるKREVAオリジナル・カスタム)。Maschine初のオーディオI/O搭載機種で、それまでMaschine Studioのみに採用されていたフルカラー・ディスプレイ×2が装備された。KREVAは『存在感』(2018年)、「Fall in Love Again feat.三浦大知」(2020年)などの制作に使用するほか、ライブ『完全1人ツアー』(2018)やYouTube Liveなどで本機を使って解説しながらトラック・メイクを行ってきた
ーMaschineソフトウェアは単体で使うのではなく、Liveの中でプラグインとして立ち上げて使うのですね。
KREVA やりたいことを考えるとABLETON Liveの方が速くできるんですけど、キットの管理をしたり、パッとドラムを打つのはMaschineの方が速かったりするので、そのためにこうやって使っています。Maschineの中でシンプルにハイハットとかを打って、すぐにDAW上にドラッグ&ドロップで張り付けていくんです。
ーMaschineを初代から使ってきて、その変遷はどのように感じますか?
KREVA デザインが洗練されて画面の情報が見やすくなってきたし、2画面になって完成形を迎えた気がします。昔はMPCでできることをMaschineでやろうとし過ぎていたので、“できない!”って思うことが多かったんです。MPCの感覚だと1台で完結させていたので、Maschineもこれだけで完結させようと思っていました。もちろん最後までできるように設計されていますけど、シンプルにラフ・スケッチを描くとか、骨組みを作るという感覚で行くとうまく使えるというのが自分の印象ですね。
ーMaschineを導入することのメリットは?
KREVA 普通に曲を作ろうと思ったら、今はまず買うものってDAW一発だと思うんです。そうじゃない何かを求めているとしたら、Maschineが良いんじゃないかなって気がしますね。鍵盤やギターの人が思っているのと違う音階の進み方をするのでみんな面白がる。ちょっと演奏したい人にはお薦めです。手癖からの解放にもいい気がします。ソフトとしても優秀だし、使い方が分からなくても音が良いな、みたいな。シンプルにパッドだけ欲しい人は、パッドは同じなのでMaschine Mikroでも問題無いと思います。ただ、Maschine上で細かい調整をしたい場合は、Maschine MK3やMaschine+がお薦めです。2画面ある強さは何ものにも代えられないですね。
ーMaschineにはいろいろな音色も付属しますが、そのサウンドの特徴はどのように考えていますか?
KREVA そうですね……“真面目”。音がしっかり作られている感じ。Maschineの良さは一個一個のキットがよく作り込まれているところだと思います。Expansion(拡張音色)の充実度や質も高い。自分は違うジャンルのものをドラムで無理やりヒップホップにするのが好きなんです。そこにヒップホップを感じるというか。NATIVE INSTRUMENTSの本社はベルリンにあるので、テクノとかハウスとかアンダーグラウンド寄りのクラブっぽいサウンドの質がすごく高いんです。それをヒップホップに取り込んでみる面白さがありますね。
NATIVE INSTRUMENTS Maschine+
2020年発売のスタンドアローン対応モデル。MK3同様のパッドに加え、金属製になったノブの感触も好印象だという。「今までのMaschineはノブでのパラメーター値の微調整がすごく難しかったんですけど、Maschine+は0.1単位の調整もしやすくて、細かい調整もしっかりやろうと思える。“ノブが変わっただけでこんなに変わるのか”っていう驚きはありましたね。あまりにも良かったから、熊(熊井吾郎)を呼んで触ってもらったら“買います!”ってなったから、あいつは俺に感謝しなきゃいけない(笑)」とKREVA
≫≫≫後編に続く(会員限定)
インタビュー後編(会員限定)では、長年愛用するMPC3000やMPC4000独特の“ノリ”と“鳴り”、そしてパッドの魅力について語っていただきました。
【特集】パッドで生み出す極上のグルーブ
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