KREVA インタビュー【後編】〜長年愛用するMPCシリーズの魅力とKREVA流サンプル管理術

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普段からたくさんあるキットの中で使いたいサンプルの目星を付けておく
自分が好きなスネアやキックの基準を作っていくことは大事です

 インタビュー後半では、KREVAが長年愛用するMPC3000やMPC4000独特の“ノリ”と“鳴り”、サンプルの管理方法、パッドの強みなどについて語ってもらった。

Interview:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima
Styling:Daisuke Fujimoto(tas)
衣装協力:stein、URU(ENKEL 03-6812-9897)

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一拍一拍に独特のノリが存在するMPC3000
ランダマイズが欲しいならベスト

ー長年愛用されているMPC3000やMPC4000について、以前、ラジオで“独特のノリと鳴りがある”と話されているのを聞きました。

KREVA ノリに関しては、以前サンレコでTsutchieさんの“MPCにはノリがあるのか解明してみよう”って記事を読んで(編注:2009年9月号特別企画『音にまつわる噂を検証! サンレコ実験くん』「MPCのシーケンスは本当に揺れているのか?」※Web会員はバックナンバーでご覧いただけます)。自分もMPC3000には独特のノリがあると感じていたので、実際にMPC3000とMPC4000とDAWで数値化して比べたんですが、やっぱり一拍一拍に独特のノリは存在しました。最近ABLETON Live 11でRandomizeボタンが追加されたりしましたけど、ランダム性ってみんなが結構求めてるところだと思うんです。機械的過ぎないけど人間的過ぎない。ヒューマナイズじゃなくてランダマイズが欲しいとすると、MPCが独自で持っているノリはベストなんじゃないかなと思います。例えばMaschineで作った音も1回MPC3000に取り込んでMPCでシーケンスするとか。それでレコーディングしてDAWで調整して使ったりしますね。

 

ー古いMPCを現代の音楽に取り込むことによる良さもあるのでしょうか?

KREVA その話で言うと、例えばMaschineのサンプラー内のEngineにも、MPC60を模したMP60っていうモードがあるんです。これを実際にMPC60でサンプリングした音とDAW上で録った音で聴き比べているのを見たことがあるんですけど、だいぶ似てました。現代のモデリング技術はえげつないところまで来ているので、そこまで古い機材を取り入れるメリットは無いかなって気もするんです。でも、MPC3000は波形が見られないので、サンプリングするときもどこで切るか耳でチェックしなきゃいけない。それによってサンプルの先頭にノイズや空白が残ることで生まれる面白さがありますね。画面で波形を見ながらサンプル・エディットするときに、この波形の先頭を余分に残せる勇気ってあまり無いんですよ。

 

ー目で見るとどうしてもぴったり切りたくなりますよね。

KREVA 絶対やってしまいますね。だからMPC3000時代に培った、パッドをたたいて耳で確認しながらサンプルの先頭を探るような、機械任せじゃない切り方ができるのは面白いです。目で見てずらすよりもフレッシュなずれ方をするんじゃないかな。その間をどのくらい残すかによって生まれるノリがあるから、そういう偶然性は今に生かせる気がします。

 

AKAI PROFESSIONAL MPC3000

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1994年発売で、16ビット/44.1kHzに対応。KREVAは1995年に購入。CUEZEROとのBY PHAR THE DOPESTやKICK THE CAN CREWの楽曲、ソロでは『嘘と煩悩』(2017年)や『AFTERMIXTAPE』(2019年)の制作に使用された。『完全1人ツアー』では本機のサウンドをDJ TECHTOOLS MIDI Fighter 64で演奏するなど、パフォーマンスでも活用する。ghostinmpcによるKREVAオリジナル・カスタム・モデル

 

ー今でもMPC3000やMPC4000を使っているのはサウンド面の良さに魅力を感じているというのもあるのでしょうか?

KREVA そうですね。特にMPC3000はちょっと位相が変なんですけど、それがちょうど良い。それを使って名盤が作られているから、そういう“名盤っぽいサウンド”になることもあるんですよね。カセット・テープっぽい音もすごくはやっていますけど、それに近い雰囲気もMPC3000にはあると思います。MPC4000はエフェクトをかけながらサンプリングできるんです。そのディストーションがすごく使えますね。最近では「One feat.JQ from Nulbarich」でKREBandのドラマー白根(佳尚)がたたいたドラムを、MPC4000でディストーション・モードをかけて録って、その音を使いました。最近はノリよりもエフェクターとしての“鳴り”を求めている感じが強いと思います。

 

 

ーそのほかのMPC各機のサウンドについてはいかがでしょうか?

KREVA 熊(熊井吾郎)が最初MPC2000を使っていて、そのとき自分はMPC4000を使っていたので、サウンドを聴き比べたんです。当時はCDが基準で、MPC4000は24ビット/96kHzまで録れるパリッとした鳴り。対して、MPC2000はこもった感じの音で、すぐ熊もMPC4000に買い替えました。でも今となっては音を少しこもらせたいとか、変な位相にしたいとか考えると、逆にMPC2000が欲しいですね。独特の小さくまとまった感じがあるんです。あのショボさがちょうど良い。だからメルカリで“うちにあったこの箱いらないんで”って200円くらいで出品する人が居ないか探してます(笑)。

 

ー最近のMPCシリーズで良かったものはありますか?

KREVA MPC Oneはサイズが良いですね。あのパッドの小ささで良いんだっていう発見がありました。あまりにも最初のMPCの衝撃が強過ぎてそこからなかなか脱却できなかったところを、いろいろ少しずつ変えたのが自分的にはどれも良かった。操作ノブも多くてすごく気持ち良いです。

 

AKAI PROFESSIONAL MPC4000

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最高24ビット/96kHzに対応したモデル。KREVAは発売年の2002年に購入。KICK THE CAN CREW「アンバランス」『GOOD MUSIC』をはじめ、「希望の炎」(2004年)、「音色」(2004年)、アルバム『GO』(2011年)など多数の楽曲制作に使用している。そのほか、ライブ『K-ing武道館ノン・ゲスト・デー』(2007年)、『完全1人武道館』(2014年)や『完全1人ツアー』でも使用した。こちらもghostinmpcによるKREVAオリジナル・カスタム仕様

 

自分で16個にレギュレーションを定める
枠にはめることで発揮されるクリエイティビティ

ー4×4のパッド・スタイルは今では広く普及していますが、その強みは何か感じますか?

KREVA 8×2の機材もあるじゃないですか? あれは両手を横に広げるミュージシャン的な発想だと思うんですけど、自分はあまりうまく使えた試しが無いですね。ロジャー・リンは横並びを提唱してきてますけど、彼がインストゥルメント・プレイヤーだからなんだと思うんですよね。やっぱり4×4の方が“ビート・メイカーの発想のグリッド”っていう感じがします。

 

ーKREVAさんはMaschineとMPC以外のパッド機材だと、ABLETON Pushなども使われていますよね。

KREVA Pushは64個配置できるのが良いですね。俺の中で5×5でもいいんじゃないかって話があるんです。コードって4音で構成されることが多いですけど、それに加えてベースを置きたい。一番左(低音)のパッドのオクターブ下の音を足して5個。でも8×2の2列じゃ足りないんです。だからライブ・パフォーマンスでPushでコードを縦に積み上げて弾くときはあります。パッドではないですけど、同じようにDJ TECHTOOLS MIDI Fighter 64を使うこともありますね。

 

ー制作でもライブでも使う中で、鳴りを良くするためにしていることは何かありますか?

KREVA 普段からたくさんあるキットの中で使いたいサンプルの目星を付けておくのが大事な気がします。例えば良いと思ったサンプルにタグを付けておいて、曲を作ろうと思ったときにそこから選ぶとか。自分だったら16個にまとめるとか、鍵盤全部に良いと思ったスネアを並べておいたりするんです。そうやって自分はこういうのが好きなんだって分かっておくと、後々の作業に生きてくると思います。自分が好きなスネアやキックの基準を作っていくことは大事ですね。

 

ーサンプルを毎回選ぶのに悩む人も居ると思います。

KREVA 毎回同じでもいいから16個くらいにまとめればいいんじゃないですかね。“もう俺これしか使わない”みたいな。“もうこの音一生聴きたくない”ってくらいまで毎日使い続けて、飽きたらその音をハードウェア・サンプラーとかカセット・テープに録って戻してみるとか、そうやって使い倒す。それで飽きたら新しいのを買って、その中からまた良いのを選ぶとか、そういうのが大事じゃないかなと思います。

 

ー最近のサンプル入手はどうされていますか?

KREVA Spliceとかから持ってくることが多いです。後は自分でシンセとかを弾いたものをサンプリングすることもありますね。素材としてチョップするのがやっぱり好きなんです。ABLETON LiveのSimplerとかで切って鍵盤でも鳴らすんですけど、サンプルからサンプルへパッとフリップしたいときはパッドの方が移動しやすいですよね。鍵盤を押して沈んだまま待ってるのと、パッドを押したはじけるような感覚は全然違います。波形で並べていくよりも手で遊んでる中で生まれたものの方がノリも出やすいです。

 

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ーKREVAさんにとってパッド機材の魅力とは?

KREVA KREBand Extremeに参加してくれているギタリストの田中義人さんが、MPC3000とABLETON Liveを使っていて、“最近MPCで作ってるんだよね”って言っていた時期があったんです。DAWってあまりにも何でもでき過ぎてしまって、逆に曲が完成に向かわないことがあると思うんです。そんな中で16個にレギュレーションを自分で定めて、“1個にまとまっているこれだけで作るぞ”とか、“自分が選んだ16個の中から選ぶぞ”とか、そうやってイマジネーションを発揮するのは一つの良い方法かなと思います。枠にはめたり規制をかけることで発揮されるクリエイティビティがあるという意味ではパッドは良いと思いますね。

 

ー今後は、パッドを使ってどのようなサウンドを作りたいですか?

KREVA サンレコ読者であればたくさんサンプル・パックを買ったり、フリーで使える音源のサイトとかに登録していろいろな音を持ってると思うんです。それで、例えば“Cメジャー”ってタグが打ってあるサウンドを集めてきて、DAW上で並べて、波形で盛り上がっているところだけ切って適当に並べてみる、みたいな。スケールが同じだからそれで曲になるんですよ。それで波形をたくさん並べて良いと思ったやつを演奏するにはパッドがすごく強いと思うので、そういう使い方をしてみたいかな。というか、やります(笑)。思いも寄らないものが出てくるので面白いです。

 

インタビュー前編では、パッドを使うことのメリットや、Maschineでの制作方法について語っていただきました。

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【特集】パッドで生み出す極上のグルーブ

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