『歌を際立たせるプロのミックス技法』by 渡辺省二郎〜サンレコ クリエイティブ・ラウンジ2021 アーカイブ

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ミックスでは木と森の両方を見ること
ボーカルと聴きながら各トラックを作っていくのが大切

 なかなかお目にかかれないプロ・エンジニアのミックスを実際にレクチャーいただくプログラムが『歌を際立たせるプロのミックス技法』だ。井上陽水や東京スカパラダイスオーケストラ、星野源など、数多くのアーティストを手掛けている渡辺省二郎氏に、テクニックを解説いただいた。

『歌を際立たせるプロのミックス技法』
by 渡辺省二郎

KORG Live Extreme(高音質)版 ※前半

※Live Extreme版の動画を96kHzの高音質再生をするには、PCにハイレゾ対応DACを接続し、OSのオーディオ設定を変更していただく必要がございます。再生方法の詳細はLive Extreme 公式サイトをご覧ください(iPhoneでの再生には対応しておりませんのでご注意ください)。

後半の動画は下記ページで閲覧できます。

www.snrec.jp

 

YouTube版

EQすることを怖がってはダメ

 題材楽曲は、京都出身のシンガー・ソングライター/サウンド・クリエイターである湧の「スプートニク6号」。実際のミックスは音響ハウスにてコンソールなどのハードウェアを取り入れながら作業しているが、今回はDAWとプラグイン・エフェクトのみでミックスの再現を行っていただいた。

 

 渡辺氏が最初に仕上げることが多いというのがボーカル・トラック。「まずは大まかにボーカルの音作りを行い、それに合わせてほかのトラックを調整していきます」と氏は語る。トラックにはPLUGIN ALLIANCE BX_Console SSL 4000 E、SLATE DIGITAL VMRのFG-2A、UNIVERSAL AUDIO UADプラグインのPrecision De-EsserとAPI 560といったプラグインをインサートした。渡辺氏はEQで高域を大きくブーストするなど、大胆に調整を行っていく。

 

 「EQすることを怖がってはダメです。ガンガン使ってイメージの音に仕上げていきます。前段のEQで音の質感を調整し、後段のAPI 560で微調整するやり方が多いです」

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ボーカル・トラックにインサートしたBrainworx BX_Console SSL 4000 E。渡辺氏いわく、EQは怖がらずにガンガン使ってOKとのこと。画面のシーンでは7.5kHzをシェルビングで9.2dBほどブーストしている。後段にはUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのAPI 560を挿しており、そこで微調整を行う

 調整したボーカル・トラックは少し音量を下げて再生しつつ、楽器のトラックを作っていく。まずはドラムの音作りに進んだ。渡辺氏が必ず行っているのが位相の調整だと言う。

 

 「SOUND RADIX Auto-Alignを使い、Lch側のオーバー・ヘッドを基準にほかのドラム・トラックの位相を合わせます。位相が合うことで正しい低域、高域が出てくるんです」

 

 スネアの音作りでは、EQやコンプのほか、ディエッサーのIK MULTIMEDIA T-Racks De-Esserを使用。「サビなどで強くたたいているときはアタックが強過ぎることがあります。ディエッサーでアタックを抑えることで、相対的にスネアのボディ部分が前に出てくるんです」と渡辺氏は解説した。

 

 ベースはピック/フィンガー/シンセ×2trと、計4trで構成されている。シンセ・ベースに対してはUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのMoog Multimode Filterをインサートし、ひずみを加えていた。その理由をこう語る。

 

 「ソフト・シンセはアナログ・シンセに比べてダイナミック・レンジが広く、音高や音色によって低域が暴れやすい。ひずみを足すことである程度まとまりが出ます」

 

 ギターはアルペジオやミュート、ディストーション、ファズのトラックが用意されている。EQやコンプでそれぞれの音作りを行った後、各ギター・トラックはAUXチャンネルにセンドされ、そこでデチューンやステレオ・イメージャー、テープ・シミュレーターで広がり感を演出していた。

 

 キーボード系のトラックでは演奏者の左手側、ルート音をEQでブーストするのが好みだと言う渡辺氏。ピアノではサチュレーションできらびやかさを足したり、ストリングス音色のトラックでは6〜7kHzのピーキーになりやすい帯域をEQで抑える処理を施した。

 

丁寧にボリューム・オートメーションを作り込む

 ここで各トラックの音作りがひとまず終わり、全体を鳴らしてサウンドをチェック。各トラックの音量やコンプ感などを相対的に確認し、調整していく。全体の調整を終えたら、次に行うのがボーカルのボリューム・オートメーションだ。渡辺氏は歌詞の1文字ずつを確認してオートメーションを描いている。

 

 「丁寧にオートメーションを作り込んでおけば、後から“歌をもうちょっと上げたい”とオーダーされたときも、フェーダーを上げるだけで全体が破たんしないんですよ。ボーカル・トラックにインサートしたコンプはダイナミクスをそろえるためというよりも、質感の調整用です」

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全トラックの音作りをしてバランスをチェックした後、ボーカル・トラックのボリューム・オートメーションを描いていく。歌詞の1文字ずつを確認し、メイン・ボーカルだけでなくハモリのトラックも含め、すべてに描き込むそうだ

 ここまで来れば、あとはマスター・トラックの設定だ。渡辺氏はIZOTOPE Ozone 9を愛用していると言う。

 

 「トータルEQは理屈でなく、感覚的にポイントを探していきます。リミッターはVintage Limiterを使いますが、質感を得るためであって、あまりリダクションしない設定です」

 

 こうして完成したミックスを、実際にスタジオでミックスしたものと比較。多少の違いはあるものの、今回のミックスもしっかりと渡辺氏のサウンドとしてまとめ上げられていることに驚く。最後に、渡辺氏にミックスのコツを語っていただいた。

 

 「木と森の両方を見ることです。一つのトラックを聴きながら作ると、結果として音楽と成立しないということになりがち。そのため、ボーカルを常に流しながら各トラックのブライトさや低域の出方、コンプ感を探っていくのが大切なんです」 

 

渡辺省二郎

渡辺省二郎

【Profile】現在の国内シーンを代表するレコーディング/ミキシング・エンジニアの一人。これまでに井上陽水、坂本真綾、佐野元春、sumika、東京スカパラダイスオーケストラ、ビッケブランカ、星野源、moumoon、湧など数多くのアーティストの作品を手掛けてきた。

 

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