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演出家との対話からの気付き〜ヌトミック+細井美裕『波のような人』【第10回】realize〜細井美裕の思考と創発の記録

学生時代からの盟友とあらためて対峙
カフカ『変身』を原案に音でベストを尽くす

 次に発表する新作は、マルチチャンネル・スピーカーと俳優のための演劇作品、ヌトミック+細井美裕『波のような人』(原案:フランツ・カフカ『変身』)です。

  

 2019年11月に山口情報芸術センター[YCAM]にて発表した細井美裕+石若駿+YCAM「Sound Mine」以来の劇場での滞在制作。本番3週間前から東京の森下スタジオにて、2週間前から会場の愛知県芸術劇場にて制作を予定しています。

 

 ヌトミックは演出家の額田大志君が主宰する、音楽劇と口語演劇の間を行ったり来たりしている攻めた劇団。今回はさらに作品を演劇から拡張したいとのことで、額田君にお誘いいただき、共作となりました。実は額田君とは大学のときからの友人で、彼の主宰するミニマル・ミュージック楽団、東京塩麹にボイスとして誘ってもらってから、今も仲良くしてもらっている石若駿君や江﨑文武君、常田大希さんなどとつながって今に至ります(大希さんは出会った当初10歳上くらいだと思っていたので今でもさん付け)。以来、石若君とはコンサート・ピースを発表、江﨑君にはアルバムの1曲を書いてもらい、大希さんはmillennium paradeのライブのテック・チームのプロデュースを頼んでくれたり、あらためて考えるとジーンときます。六本木Super Deluxeで一緒にイベントを企画していたときからやっていることはほとんど変わっていないけど、それぞれの道で突き進んでもう一回ぶつかれるのって最高です。もう3周くらいするので皆さん見ていてください。そんな人生に影響を与えてくれた額田君との共作、本気でやるしかないので、これまでお世話になってきた人たちにわがままを言ってお付き合いいただいています(後ほど紹介)。

 

 今回は共作といっても演劇作品であることが軸になっていて、脚本/演出は額田君、サウンド・デザインが私です。既にかなりの時間、ディスカッションをしていますが、それぞれの発言量もバランスが取れていて(重要だと思っている)、メディア・アートで頻出する議論も共有できたり、お互いの分野についてはお互いの意見を信頼して進めていけているので個人的にはとてもすがすがしい気持ちで進められています。

 

 原案の候補は幾つかありましたが、最終的には額田君の選択に任せたいと思っていました。理由はシンプルで、私は演劇やパフォーミング・アーツについて少し知っているけど、少ししか知らないからです。もし自分の分野で攻めたいと思ったら、私だったら自分で決めたいですね。自分が一番考えてるから!くらい思い込まないと攻めたことなんてできないから、そこは譲ったらだめだと思ってます。額田君に主導してもらう中で、私の分野でできることをやっていく。それがあふれそうだったら相手の意図を理解して最大化できる選択をしていくのが、演劇作品である今回はベストだと思っています。そういうことを考えていたので、原案がフランツ・カフカ『変身』と聞いたときは、“これ本気のやつだ……”と覚悟しました。

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愛知県芸術劇場小ホールの下見。仮に、22.2chでシステムを組み「Lenna」を鳴らして空間をチェックした

演劇は現実とつながっている世界?
3次Ambisonicsから会場へデコード予定

“⾒えない。しかし、確かにそこにいる。
「⾳」に変⾝した⾝体が語る、⼈間の進化と退化を巡る不条理劇。”(公演概要より)

 

 男はデータになる。これは普段多重録音で“データになる”機会が多い私の実体験からくる感情とリンクすることが多いと思っています。ディスカッション初期は私が一人称で、データとして扱われること、データの一人歩き、再現、改変、身体性についての議論などを語っていく時間がありました。額田君がどう思っていたのか分かりませんが、私が共作としてうまくいきそうと思ったのは、私がなんともないと思っていることを額田君は興味深いと言い、その逆も同時に起きていたことです。最近、メディア・アート×〇〇〇〇というパラメーターの組み合わせ違いのような、予定調和なものが多い印象なのですが、それを裏切ることができるんじゃないかと期待しています。

 

 所感として、メディア・アートは夢の中にいても夢の中の世界として受け止められるけれど、演劇は現実とつながっている必要があるかも……ということを感じたりもしています。ロマンティック度と現実味のバランスでしょうか。私の普段活動する世界と、演劇の世界の見方の違いは、滞在制作を通して発見があり、歩み寄っていくものだと思っているので、稽古が楽しみです。いつも現場といえばマシンとスピーカーと向き合う日々だから……と思いつつ、今回もシステムはしっかり組むので、現状のプランを記録しておきます。

 

 前提として、私は普段エンジニアリングに関して多重録音の際に必要なことのみやっているので、今回のようなマルチチャンネル・システムを一人でさばき切れません。ですが今回は滞在制作ということもあり、時間も場所もあるので自分の脳みその中を聴覚化したいなと思っています。AVID Pro Tools|Ultimateへの再課金から始まり(笑)、飛澤正人さんの記事(編注:2020年12月号特集バイノーラルで作る音楽の未来)を見てAmbisonicsミックス環境を整え……「Lenna」制作時の機材に近いセットでサウンド・デザインをします。方法は少し異なりますが今回は聴き慣れたHPLでモニタリングできるNOVONOTES 3DXでデザインして3次Ambisonicsにエンコード。その3次AmbisonicsからPLOGUE Biduleに組んだIEM PLUG-IN SUITEのAllradecoderを使って会場のスピーカー・レイアウトへデコードしDanteで接続、というのが大きな流れです。「Lenna」音響チームの久保二朗さんにシステムと機材を、葛西敏彦さんに使用する音源の録音でサポートしていただき、メインの音源の録音場所として小野測器さんの残響室をお借りしています(最初は巨大な無響室でSTRADIVARIUSの収録、残響室ではアルバム『Orb』の録音とArs Electronicaのパフォーマンスでお借りしているので、今回が通算4回目!)。そういえば、最初はevalaさんが見学に連れて行ってくれたのでした。evalaさんありがとう!

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音響システム設計をする久保二朗氏(アコースティックフィールド)。CODA AUDIO D5-Cubeで囲まれた立方体の中に仮想スピーカーを設定して、実採用するシステムをシミュレートする

 収録の準備中、自分が、どういうデータを録ったら作品が強くなるかを考えるのが結構好きなことに、気付きました。舞台は4月27、28日に愛知県芸術劇場で発表なのでお近くの方は是非いらしてください。次回は劇場下見からシステム/舞台設計について記録します。ではまた〜!

 

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ヌトミック+細井美裕『波のような人』
マルチチャンネルスピーカーと俳優のための演劇作品

愛知県芸術劇場
4月27日(火)19:30〜、28日(水)13:00〜、19:00〜
メイン・ビジュアル ©タカラマハヤ

 

細井美裕

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【Profile】1993年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業。大学在学中からボイス・プレイヤーとして数々の楽曲やサウンド・インスタレーションに参加。2019年、サウンド・インスタレーション作品「Lenna」とこの楽曲を含むアルバム『Orb』をリリース。同年、細井美裕+石若駿+YCAMコンサート・ピース「Sound Mine」を発表。メディア・アート作品の制作やオーディオ&ビジュアル・プロデュースも多数手掛けている

miyuhosoi.com

 

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