「LEAPWING AUDIO Al Schmitt」製品レビュー:アル・シュミット氏が完全監修したミックス用マルチエフェクト・プラグイン

f:id:rittor_snrec:20210409180950j:plain

 LEAPWING AUDIOが興味深いプラグインを発売しました。その名もAl Schmitt。著名エンジニア、アル・シュミット氏の名前を冠したシグネチャー・プラグインです。

ソース別に6種類のプロファイルを用意
EQ/コンプやエコーを併装

 Al Schmittは、シュミット氏の使うプロセッサーの定番設定&組み合わせをプラグイン化した製品。6種類のプロファイル(ボーカル、ピアノ、ベース、ブラス、ストリングス、ミックス・バス)からソースに合うものを選んで使います。デフォルトではボーカル用のプロファイルがロードされ、挿すだけで歌がわずかに前へ来る印象。パラメーターは入出力レベルを除いてたったの6つで、以下のようなラインナップです。

  • BODY LEVEL:のどの鳴りや存在感のコントロール
  • AIR LEVEL:空気感やプレゼンス、または“くちびるの動く感じ”を調整
  • AIR TYPE:AIR LEVELの中心周波数。5/8/16kHzの3種類から選択
  • COMPRESSION:スライダー1本でかかり具合を変えられるコンプレッサー
  • ECHO TYPE:エコーの種類。A〜Cの3種類から選択
  • ECHO LEVEL:エコーの音量

 BODY LEVELは緩やかなローシェルフEQ。AIR LEVELの特性も加味すると、このプラグインにはPULTEC系のEQが入っている模様です。上げていくと、わずかにサチュレートしていくさまもハードウェア的な質感。作り込むためのEQではなく、オケ中でどう聴かせるかを調整する用途ですね。

 

 COMPRESSIONは、細かい調整はできませんが的を射た押し出し感のある設定で、ゆったりとした歌、おおらかに歌い上げるボーカルなどにベスト・マッチでしょう。またメイクアップ・ゲインが自動調整されるので、効果の具合が分かりやすい。ジャンルによっては“張り付き具合”を調整するものと解釈してよいかもしれません。シュミット氏のボーカル・コンプはFAIRCHILD 660だそうで、そのモデリングでしょうか。

 

 3種類のECHO TYPEは、Aが初期反射の少ないプレート・タイプ、Bが濁りの少ないエコー・チェンバー、Cが最も深みの感じられるホール・タイプと聴き取れます。どれもリバーブ・タイプが長めでリッチですが、原音を邪魔しないよう設定されています。個人的にはBが好みで、氏のゴージャスなミックスの一端を見るような心地。ボーカル・プロファイルは全6種類の基本となるプロファイルで、アコースティック・ギターや木管楽器のメロディ、ソロ楽器などとも相性が良さそうです。

 

各プロファイルでエフェクトの種類や挙動が変化
総じて自然でジェントルなかかり具合

 次にベース用プロファイル。パラメーターはCOMPRESSIONとBODY LEVEL、AIR LEVELの3つです。ボーカルから切り替えるとやや引っ込んで聴こえ、わずかな高調波ひずみが付加されているように感じます。BODY/AIR LEVELのEQはやはりPULTECタイプですが、Q幅がナローで、前者については“音量感の調整”ととらえると分かりやすいでしょう。COMPRESSIONも挙動が変わり、アタックが抑えられてより平らになる印象。キックとも好相性だと思います。

 

 続いてはブラス。パラメーターはECHO TYPEとECHO LEVELのみです。デフォルトの状態では、自分には音色変化が聴き取れませんでした。氏からすると“何もしていないよ”ということでしょうか。ECHO TYPEは3つとも似た印象ながら、よりダークな印象。金管楽器の派手さを邪魔しない自然な余韻を付加するためと考えられます。

 

 ストリングス・プロファイルもECHOの2つのパラメーターのみ。ブラスと同様に、デフォルトでは効果が分かりづらいです。ただECHO LEVELを上げていくと、ECHO TYPEがアタックを邪魔しない設定になっていると分かります。つまり“余韻を付加するプロファイル”ということでしょう。

 

 ピアノ・プロファイルではエッジが強調されます。パラメーターはCOMPRESSIONとECHO TYPE/LEVELのみ。COMPRESSIONで打鍵感が強調され、パッセージがはっきり聴こえるようになるので、アタックを強めたいラップやロック・ボーカル、エレキギターなどにも良いかもしれません。ECHO TYPEは低音弦を濁らせないためか最もライトな響きです。

 

 最後にミックス・バスのプロファイル。5バンドEQと3バンド・コンプから構成されています。EQの一つ、SUB BOOSTは楽曲の土台となる超低域を調整するもので、ブースト設定のみ。“化学調味料感”の無い自然な効果が得られ高級感の演出にも使えるでしょう。LOW LEVELは効果の分かりやすいローシェルビングEQで、MID LEVELは上げ下げすると“楽曲の主役”の聴こえ方が変化。HIGH LEVELでは硬い成分をハイシェルビングEQで調整でき、AIR BOOSTを用いれば緩やかに空間をコントロール可能。3バンド・コンプはAl Schmittの中で最も自然なかかり具合なので、オールマイティに使えます。このミックス・バスのプロファイルは扱いやすく、各楽器にも積極的に使えるでしょう。

f:id:rittor_snrec:20210409181345j:plain

ミックス・バス用のプロファイル。画面下部パラメーター群の上段は5バンドEQ、下段は3バンド・コンプとなっている

 総じて、演奏やパフォーマンスを音楽的により自然に聴かせるための“最小限の調味料”という印象を受けました。従来の他社シグネチャー製品とは違い、音が激変することはありません。極めてジェントルな効果です。今回の試用で、録音や素材の大切さという当たり前のことを再認識しました。エンジニア向けの仕事道具として使えるプラグインだと思います。

 

星野誠
【Profile】レコーディング・エンジニア。クラムボンの楽曲を多数手掛けたことで知られ、近年もsumika、FLYING KIDS、竹内アンナ、the chef cooks me、toconomaなど一線のアーティストに携わる。

 

LEAPWING AUDIO Al Schmitt

19,085円(価格は為替レートによって変動)

f:id:rittor_snrec:20210409180950j:plain

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10〜macOS 11、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8/10(64ビット)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション
▪共通項目:200MB以上のディスク空き容量(インストールに必要)、インターネット接続環境