一部の環境において、会員限定記事の表示がうまくいかない場合が報告されています。その場合、まずはブラウザを最新にアップデートした上、WindowsではCtrl+Shift+R、Macではcommand+shift+Rでの再読み込みをお試しください。また、ほかのブラウザの利用もご検討いただけましたら幸いです。

「WAVES NX Ocean Way Nashville」製品レビュー:ナッシュビルの名スタジオの音場をヘッドフォン上に再現するプラグイン

f:id:rittor_snrec:20210409130050j:plain

 近年のWAVESは、独自の“NXテクノロジー”に基づいたバイノーラル技術を用い、ヘッドフォン上にスピーカーでのモニター環境を再現するプラグインを手掛けています。そして今回、米ナッシュビルの名レコーディング・スタジオOcean Way Nashvilleのコントロール・ルームの環境をモデルにした新製品=NX Ocean Way Nashvilleが登場。監修には、スタジオの設立者で巨匠エンジニアのアレン・サイズ氏が参加しています。

ラージ&ニアフィールド環境をモデリング
Webカメラなどの併用でイマーシブ音響に

 NX Ocean Way Nashvilleは、機能を絞ったシンプルなプラグインです。画面の下半分に主要な操作系が集約され、その左上部のSTUDIO MONITORSセクションではスピーカー・モデリングを選択可能。カスタム設計のスピーカーHR5(ニアフィールド)とHR1(ラージ)を切り替えて使えます。もちろん実際の配置に即したスタジオの反響なども再現。中央のROTATE STUDIOセクションでは首を回したときの聴こえ方をシミュレートでき、音はもちろん画面内のスタジオの画も追従。その右にあるAMBIENCEはルーム・リバーブの量、LEVELは出力レベルを調整するものです。

f:id:rittor_snrec:20210409130149j:plain

ROTATE STUDIOセクションのレバーをRch側に回してみると、音とともに画面上半分のスタジオのグラフィックも追従。コンソールの前で右側を見たときの聴こえ方と視野が再現される

 LEVELの下にあるHEADPHONE EQには数種類のヘッドフォン用EQプリセットが収録され、HEAD MODELINGセクションに自分の頭のサイズを登録すれば、さらに精密なバイノーラル環境が得られます。画面左下のHEAD TRACKINGセクションでは、コンピューターの内蔵カメラや別売のWAVES NX Head Trackerを介して頭の位置情報を検知することができ、いわゆるVR状態となります。NX Head Trackerはヘッドフォンに装着して使うBluetoothデバイスで、頭の位置情報をNXテクノロジーのプラグインへ送信するためのもの。今回、NX Ocean Way Nashvilleと併用してみたところ初期設定がある程度自動化されているので、手間取るようなことは全くありませんでした。

f:id:rittor_snrec:20210409130237j:plain

WAVES NX Head Tracker(12,100円)。ヘッドフォンのヘッド・バンドに装着して使うBluetoothデバイスだ

 ではプラグインの実用性について。まずは“なぜこれを使うのか”に言及します。単一のモニター環境のみでミックスを行うと、そこでは問題無く聴こえたはずが、ほかで再生したときに違った印象に感じられてしまうなどの問題が起こりがちです。特にヘッドフォンは少し特殊な環境なので、ヘッドフォン・ミックス特有の問題点が頻繁に発生します。“結果的にヘッドフォンの使用時間が長くなった”というのは構わないのですが、やはりメインのスピーカーで音作りを始めて、ヘッドフォンや小型スピーカーも使用しつつ、複数のモニターを使い分けて問題点を洗い出していくのが一般的なミックスのアプローチだと思います。ですが、自宅などでの作業を想定するといかがでしょう?スピーカーを十分に音を鳴らせない場合があると思うので、中〜大型のスピーカーが担うであろう役割を擬似的ながら提供してくれるこのNX Ocean Way Nashvilleが役に立ちそうです。

 

定位/位相感や低音の余韻の表現力から
スピーカーで作業するときの感覚に近付く

 使用感については、正直なところ、実際にスピーカーを鳴らすのと全く同じ体験にはなりません。あくまでヘッドフォンをプロセッシングした音です。ただ、ミックスに使ってみたところ確実に“スピーカーで作業するときのモード”になれました。特に低音が余韻を伴って聴こえ、通常のヘッドフォン・モニターとは明らかに違う判断が可能になります。また、定位がスピーカーで聴くときのように自然に感じられるのも特徴。HEAD TRACKINGセクションを活用すればより立体的なサウンドになり、スピーカーで作業している感覚に近付きます。個人的にはHEAD TRACKINGありで使いたいと思います。

 

 プラグインをオン/オフしながらミックスを進めてみると、例えばルーム・マイクの音量バランスなどは確実に判断が変わりました。また、脳内で鳴る感じがしないので、精神的な圧迫感が薄いような気がするのも好印象です。

 

 2種類のスピーカーの切り替えについては、さすがに実際のスピーカー切り替えほどの変化はありませんが、低音の量感や部屋で響く感覚、また定位感や位相感の表現において“切り替え確認する意味”があるものになっていると思います。ハイエンドなヘッドフォンを使った方が、この切り替えの表現力は高いようです。AMBIENCEの影響でボーカルにだけ少し不自然な響きが出てしまうように感じましたが、パラメーター値を下げることで改善可能。逆に低音は、ある程度の響きを感じられる方がイメージの湧くところもあるので、ミックスのステータスに応じて切り替えるのもありかと思います。

 

 最後になりますが、もちろんこのプラグインを通した音が必ずしも正解というわけではありません。ヘッドフォンの性能が強化されるような感覚はありませんし、どのモニター環境をどう使うと良いミックスができるかは自分で探すしかないのです。ただ、NX Ocean Way Nashvilleは商業スタジオ以外の環境では得がたい種の役割を提供してくれて、しかも数々のエンジニアが“ここでミックスすると仕上がりが良い”と判断した名スタジオのアコースティックをモデリングしているわけですから、モニター環境に制限のある方にとっては大変心強い選択肢になるのではないかと思います。

 

檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、現在はフリーランスで活動するレコーディング/ミキシング・エンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。

 

WAVES NX Ocean Way Nashville

26,290円

f:id:rittor_snrec:20210409130050j:plain


REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6/10.14.6/10.15.7/11.2.1、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon
▪Windows:Windows 10(64ビット版/バージョン2004以上)、INTEL Core I5/I7/I9/XeonもしくはAMDのクアッド・コアCPU
▪共通:8GBのRAM、8GBのディスク空き容量、解像度1,024×768pix以上のディスプレイ(1,280×1,024または1,600×1,024を推奨)

 

製品情報

www.minet.jp