「WAVES CLA Epic」製品レビュー:巨匠クリス・ロード=アルジ氏が監修するディレイ&リバーブ・プラグイン

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 WAVESから、久しぶりにシグネチャー・プラグインが発売されました。クリス・ロード=アルジ氏と言えば、思い切りの良いEQ/コンプがたびたび話題になりますが、“作られた空間演出”にもかなり特徴のあるエンジニア。そんな彼が監修したのが、今回レビューするCLA Epicです。

ロード=アルジ氏の愛用ギアを基にした
ディレイとリバーブを4種類ずつ搭載

 CLA Epicは、ロード=アルジ氏お気に入りのスタジオ・ギアを基盤にした4種のディレイ(TAPE/THROW/SLAP/CROWD)と、4種のリバーブ(PLATE/ROOM/HALL/SPACE)を搭載する複合プラグイン。それぞれが何の機種をモデリングしたのかは正式にアナウンスされていませんが、WAVESが公開するロード=アルジ氏のミックス解説動画には、そのヒントが隠れています。

 

 画面左側には先述した4種のディレイ・モジュールが1〜4に、右側には4種のリバーブ・モジュールがA〜Dに割り当てられ、それぞれハイパス/ローパス・フィルター・ノブ、ソロ/ミュート・ボタンを備えています。

 

 また画面の左端には、これら8種のモジュールのミュート・ボタンとインプット・フェーダーを、右端にはドライ/ウェット・ノブとアウトプット・フェーダーを搭載。それぞれ4種のディレイとリバーブによるコンビネーションで空間をクリエイトするというコンセプトでありながら、素早い処理に対応できるシンプルな操作性を実現しています。

 

 ここからは、各モジュールを一つずつ見ていきましょう。まずは画面左側にある4種のディレイから。

 

●ディレイ1:TAPE

 テープ・エコーを模したようなディレイ。サチュレーションがかったディレイ音は元音の輪郭を崩さず、厚みや奥行きを演出するのに向いています。

 

●ディレイ2:THROW

 いわゆる一般的なデジタル・ディレイですが、程良いローファイ感がハードウェアをほうふつさせます。こちらは聴かせるディレイとして、ボーカルやギターの浮遊感を担う役割で使えるでしょう。

 

●ディレイ3:SLAP

 ショート・ディレイです。テープ・マシンで行っていたエフェクトをデジタルで再現したもので、テープ・スピードやディレイ・タイムを設定できます。7.5/15/30の値を切り替えると、テープ・マシン同様に周波数特性も変わるので“フィルター”と考えるとよいでしょう。ディレイ・タイムは同じでも、ここの値を切り替えることでかなりサウンドが変わります。もちろんプラグインならではのテンポ・シンクも可能。ロング・ディレイまでカバーできます。

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ディレイ3:SLAPの画面。仮想テープ・スピード=ディレイ・タイム、フィードバックなどの設定が行える

●ディレイ4:CROWD

 ショート・ディレイに特化し、ステレオ感をコントロールできるモジュール。ダブラーやコーラスに近い効果でしょうか。ボーカルやアコギ、キーボードなどをさりげなくワイドにしたいとき、またコーラスやクラップなどに厚みを出したいときなどに使えそうです。

 

 CLA Epicのディレイでユニークなのは、青色の画面の下部に配置されたルーティング機能。それぞれのディレイ音を右隣にあるリバーブA〜Dに送ることができるというもので、スライダーも用意されているためセンド量を調整することができます。この機能があることによって、CLA Epicはより高度で複雑なエフェクトを生み出すことができるのです。

 

ダークな音色かつビンテージ感のあるサウンド
著名エンジニアによるプリセットを300以上収録

 次は、画面右側にある4種のリバーブを見てみましょう。

 

●リバーブA:PLATE

 デジタル・プレート・リバーブの代表的実機と言えば“あれ”です。自分がイメージする実機の音よりもダークなサウンドですが、これはロード=アルジ氏の設定によるものなのでしょう。輪郭を損なうことなく余韻を付加できる、オールマイティなリバーブです。

 

●リバーブB:ROOM

 リバーブAよりも初期反射の量が多く、サラッとした残響音が印象的。解像度が高く、にごりにくい音色です。短いタイムに設定し、エレキギターや速いテンポのドラムに施して“音抜け効果”を狙うのがよいでしょう。

 

●リバーブC:HALL

 リアルというよりバーチャルな質感のホール。リバーブAの余韻とリバーブBの反射の要素を併せ持つイメージです。強めにかけると輪郭があいまいになり、距離感を生み出します。歌やピアノをオケ中に配置する際に、使用してみてください。

 

●リバーブD:SPACE

 アンビエンスとでも言えましょうか、リバーブBのようでありながらも質感は粗めで、余韻というよりも広がり感を演出します。パラメーターにはディケイが備わっているため、設定によってはゲート・リバーブも可能です。

 

 CLA Epicのディレイとリバーブの画面に共通するのは、右上に備えられたモジュレーション・ノブ。4つの範囲に区切られており、場所によってLFOの周期が変わります。遅めに設定することで、深みや広がりを得られるでしょう。筆者はこの手法をよく使います。

 

 CLA Epicは全体的にダークな音色かつ、音の粒子が粗い印象。“エフェクト・ボード感”が強く、自然な残響を付加するタイプの空間系エフェクトとは正反対のキャラクターです。まさに、ビンテージ感たっぷりのデジタル・ディレイ/リバーブ・エフェクト! 各モジュールのパラメーターはどれも最小限となっていますが、きちんとエフェクトのツボを押さえているので効果的です。フェーダー操作だけでも音像が作れるため、あまり詳しくないビギナーでも割とすぐに扱えるでしょう。

 

 さらにロード=アルジ氏をはじめ、多くの著名エンジニアによるプリセットを300以上収録。まるで教科書のようなプラグインです。CPU負荷はとても軽く、上モノの大胆な演出を狙って複数のチャンネルにインサートしても問題無いと思います。CLA Epicは写真より絵画的、リアルよりファンタジーな世界観を演出する際、大いに役立つディレイ/リバーブ・プラグインと言えるでしょう。

 

星野誠
【Profile】ビクタースタジオでキャリアをスタートし、現在はフリーで活躍するエンジニア。sumika、鬼束ちひろ、toconomaなど、生楽器を含むセッションを数多く手掛けている。

 

WAVES CLA Epic

23,900円

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6、10.14.6、10.15.7、11.0.1(INTELのみ)、INTEL Core I5/I7/I9/Xeonいずれかのプロセッサー、AAX/AU/VST/VST3に準拠
▪Windows:Windows 10(64ビット)、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon/AMDクアッド・コアいずれかのプロセッサー、AAX/VST/VST3に準拠
▪共通:8GB以上のRAM、8GB以上のディスク空き容量、1,024×768ピクセル以上のディスプレイ解像度(1,280×1,024または1,600×1,024を推奨)

 

製品情報

www.minet.jp

 

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