「ZPLANE Peel」製品レビュー:任意の周波数帯域をリアルタイムかつ視覚的に抽出可能なプラグイン

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 ドイツのデベロッパー、ZPLANEからPeelというプラグインが登場。画面のスペクトログラムを見ながら、特定の周波数帯域や定位の音を“リアルタイム”で抽出できるとのことです。私はCMや映像音楽の制作を仕事としているため、日ごろからさまざまな音声編集ソフトで音声と背景音を分離する作業を行っています。このPeelはどれくらい実力があるのか、早速試してみましょう。

ステレオ音源をスペクトログラムで表示
特定の周波数帯域をソロ/ミュートできる

 PeelはMac/Windows対応でAAX/AU/VSTに準拠。また、後述するマルチアウトプット機能はABLETON LiveやIMAGE-LINE FL Studio、AVID Pro Toolsなど主要なDAWで使用可能です。

 

 Peelは一つの画面内ですべての操作が行えるという、シンプルなプラグイン。一見オシロスコープのように見えますが、ステレオのスペクトログラムとなっています。よく見ると画面の横軸はL/C/Rに、縦軸は周波数帯域に対応しているのが分かるでしょうか? Peelに入力された音声信号は、周波数帯域およびL/C/Rの定位に合わせて表示され、画面内の丸の大きさは音量に比例しています。

 

 操作方法は至ってシンプルで、抽出したい周波数帯域と定位をフレームで囲むだけ。するとフレームの左上に“EQ”ボタンが現れ、囲われた範囲内の音のみが再生されます。EQボタンをオフにすると元に戻り、右隣にある四角い“反転”ボタンを押すと、今度は囲われた範囲の音が除去された状態で音源が再生されるのです。なお、Peelにはこれら以外にノブやボタンはありません。

 

2系統の出力が行えるマルチアウトプット機能
CPU負荷は軽いため複数使いも可能

 それでは、通常のステレオ・ミックスから歌のみを抜き出して、カラオケを作成してみましょう。結果は、残念ながら完ぺきなカラオケとまでは至りませんでした。それもそのはず、他社ソフトのカラオケ作成機能は、一度曲を停止し、その状態でステレオ・ファイルを分析して処理するため精度が高いのです。しかしPeelはリアルタイムで音声を瞬時に処理しているため、これには無理があると言えるでしょう。

 

 次にドラムとベースが一緒になったループ音源を再生し、“この辺りかな?”と、ベースを表すであろう画面中央の下部分をフレームで囲んでみます。すると、見事にループ音源からベースのみを奇麗に抽出することに成功。また、うまく除去することもできました。通常のEQプラグインの場合だと、ベースの周波数帯域をまるごとカットすることになると思いますが、Peelではセンターにある低域成分だけを“ピンポイント”で抽出可能です。そのため、処理の前後においてL/Rの低域成分はほとんど変わっていません。結果としてドラムのみとなったループ音源はとても自然に聴こえ、ドラムの低域成分は全く影響されていないように感じるのです。

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ドラムとベースのループ音源をPeelで読み込み、ベースに該当する思われる部分をフレームで囲んで抽出したところ

 同様に、Peelを使って別のドラム・ループ音源からスネアや、Lchだけで鳴っているシェーカーの音を抽出してみたところ、こちらもうまく行きました。ここで私は、任意の音を抽出するだけではなく“さらにそこから音量や音色の調整ができたらいいのにな”と思ったのですが、そういったノブやボタンはPeelには一切見当たりません。

 

 ここで説明書をじっくり読んでみたところ、何とPeelには抽出した音を2系統に出力するマルチアウトプット機能を搭載していることが判明。メインとは別にAUXトラックを作成すれば、パラレル・アウトして2本のフェーダーでバランス調整も自由自在です。2trも使用するのは“ちょっと場所取って嫌だな”なんて思わないでください。例えば抽出した音のみにコンプ、あるいはディレイをかけるなど、お気に入りのエフェクトを挿してやりたい放題にできるのです。

 

 早速私はドラム・ループからキックを抽出し、コンプをかけて、元の音とミックスしてみました。すると、見違えるように迫力のあるドラム・サウンドを作ることができたのです。

 

 さらに使い進めると、フレームの移動やサイズ調整、反転ボタンはすべてDAWのオートメーション機能を適用できることも分かりました。例えばドラム・サンプルのスネアに、一瞬だけディレイをかけるというような使い方も可能です。あるいはステレオ音声における特定のピーク成分だけを抜き出し、ピンポイントにコンプでたたくこともできます。

 

 またシンセ・パッドにおいては、片方のフレームをオートメーションでリアルタイムに移動させて不思議なフィルター・エフェクトを施し、もう一方ではディレイをかけて複雑な響きを足したりなど、無限にアイディアが広がります。Peelは視覚的に音を把握してコントロールできるため、イメージ通りの音作りを可能にするでしょう。

 

 PeelはシンプルなプラグインのためCPU負荷は軽く、さまざまなチャンネルに気兼ねなく使えるのも魅力的。抽出した音はお気に入りのプラグインで加工できるなど、使い勝手の良い優良なものだと感じました。私のミックスにおいても、これからガンガン使っていきたいと思います。 

 

Nagie
【Profile】レコーディング・エンジニア/プログラマー/作編曲家。aikamachi+nagie、ANANT-GARDE EYESとしても活躍。Vocaloid『IA-ARIA ON THE PLANETS』の開発に携わる。

 

ZPLANE Peel

4,550円(価格は為替レートによって変動)

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.7〜macOS 10.15、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8、10(32/64ビット)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション
▪共通:1.5GHz以上のCPU、1,280×800ピクセル以上のディスプレイ解像度
▪マルチアウトプット機能対応DAW:ABLETON Live、IMAGE-LINE FL Studio、AVID Pro Tools、COCKOS Reaper、REASON STUDIOS Reason

 

製品情報

sonicwire.com

 

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www.snrec.jp