「ZPLANE Retune / Ppmbatch」製品レビュー:ピッチ・シフト/ノーマライズに特化したユーティリティ・ソフト2種

ZPLANERetune / Ppmbatch
ピッチ・シフトとタイム・ストレッチは今やDAWには欠かせない機能。そのアルゴリズム開発のトップ・メーカーであるZPLANEが、自社の最も得意とする技術を生かして開発したのが、今回紹介するRetuneとPpmbatchという2つのソフトウェアです

補正から大胆な音作りにも使える
ピッチ・シフト・プラグインRetune

実は多くのDAWユーザーが意識することなく、このZPLANEが開発した技術に接していたりするのです。というのは“élastique”(エラスティック)という同社のタイム・ストレッチ/ピッチ・シフトのアルゴリズムが、STEINBERG CubaseやABLETON Liveをはじめとする多くのDAWやサンプラーなどにライセンス供給されており、その数はWebサイトで確認できるものだけで軽く50を超えています。つまり、タイム・ストレッチ/ピッチ・シフトに関してスペシャリストと言えるデベロッパーなのです。基本的にはライセンス供給を事業の中軸とする同社ですが、ここ最近自社ブランドのソフトウェアを幾つかリリースして注目を集めています。それらの中から今回は、得意のピッチ・シフト技術によるRetuneと、サウンドの正確な解析技術を活用したPpmbatchをチェックします。

まずRetuneですが、入力された信号のキーとスケールを設定すれば、それに基づき任意のキーとスケールに変更してくれるAAX/VST/Audio Units対応のプラグインです。操作ウィンドウはインプットされたオーディオのスケールを横軸、アウトプットを縦軸に表示した“ピッチ・マッピング・マトリクス”を中心に分かりやすくまとめられています。例えば入力ソースがCメジャーであれば、画面上部のインプット・キーを“C”と“major”に設定し、画面下部のアウトプット・キーのスケールを“minor”とすれば、Cメジャーのフレーズや和音がCマイナーとなります。また音程を上げ下げする“Trans”を“−3”にしてスケールを“minor”にすれば、いわゆる“下3度のハモ”が簡単に作れます。

画面の右側に並んでいるのは、ピッチの変換感度や異なる音程のつながり具合、エフェクトと元音のバランスなどサウンドの調整用のパラメーターです。また入力ソースのキーやスケールが不明の場合は、“Learn key”というボタンをクリックして再生すれば自動的に分析してくれます。ただこの機能は少しせっかちなところがあり、“キーを判断するためにはこの音まで聴かなければならない”というポイントが来る前に答えを出してしまったり、長い音価の音をルートもしくは5度でとらえる頻度が少し高過ぎるところがありました。

プリセットされているスケールは、7種類のダイアトニック上のチャーチ・モード以外にハーモニック・マイナーや2種類のジプシー・スケール、クロマチックなどが用意されています(画面①)。またピッチ・マッピング・マトリクスは自由に設定できるので、プリセットに無いスケールや、入力された音をすべて同じ音程にするなどの実験的な使い方も可能です。試しにハープのグリスに対してその設定を試してみたところ、サスペンス映画などで使われるウォーターフォンにも似た、何とも不思議なサウンドになりました。

▲画面① Retuneは11種類のスケール・プリセットを用意。ピッチ・マッピング・マトリクスをカスタマイズすることで、プリセットに無いスケールを適用することもできる ▲画面① Retuneは11種類のスケール・プリセットを用意。ピッチ・マッピング・マトリクスをカスタマイズすることで、プリセットに無いスケールを適用することもできる

気になるピッチの変換精度ですが、ボーカルなどのモノフォニックな素材に対しては完ぺきとも言えるほどの結果が得られます。さすがにギターやハープのアルペジオのようなリリースが長く音の重なりが多い素材では若干音質変化が目立つところもありますが、トラッキング・エラーっぽい感じが逆にエフェクティブで面白く、“これはもしかしたら早く使ったもの勝ちかも”と思ったりしました。

主要なラウドネス規格を網羅した
ノーマライズ用ソフトPpmbatch

正確にピッチ・シフト/タイム・ストレッチを行うためには、まず対象となるソースを正確に解析しなければなりません。ZPLANEのアドバンテージはこの解析技術にもあります。Ppmbatchは、精度の高い解析技術に基づいて近年規格として制定され放送業界などで運用が始まったラウドネス値を測定し、さまざまな規格に沿ってノーマライズのバッチ処理(複数のファイルを一括処理)が可能なスタンドアローンのアプリケーションです(Mac/Windows対応)。音声フォーマットは、読み込みがWAV、AIFF、MP3に加えOGGやFLACにも対応しており、ノーマライズ後の書き出しはWAVのみとなります。ラウドネス規格は、日本で制定されているARIB TR-B032はもちろん、ヨーロッパのEBU R.128、アメリカのATSC A-85など主要なものはすべて網羅(画面②)。これらのパラメーターは変更できませんが、複製することで任意の設定のプロファイルを作成できます。この機能を使えば、同カテゴリーの効果音の聴感上の音量をそろえるといった用途にも使えるでしょう。

▲画面② Ppmbatchの対応ラウドネス規格は、本文にあるもののほかにITU-R BS.1770-3、FreeTV OP-59を用意。プリセットを複製することで、任意のプロファイルも作成できる ▲画面② Ppmbatchの対応ラウドネス規格は、本文にあるもののほかにITU-R BS.1770-3、FreeTV OP-59を用意。プリセットを複製することで、任意のプロファイルも作成できる

現時点では、基本的に放送などに携わる人向けの業務用アプリケーションという感もありますが、今後放送業界だけでなくゲーム業界など、ラウドネス管理の波は確実に広がる気配があります。インターネットも含め各種メディアの音効などにかかわる人たちにとっても、このようなラウドネスのバッチ処理に対応したソフトのニーズは高まっていくのではないでしょうか。

今回チェックした2製品に共通するのは、使い心地に信頼性や安定感があることで、さすが長年オーディオ・エンジンの開発という基礎分野で実績を重ねてきたZPLANEが作っただけのことはあると感じました。

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)

ZPLANE
Retune / Ppmbatch
Retune:18,940円、Ppmbatch:33,209円(価格は7月12日現在。為替相場によって変動)
REQUIREMENTS ●Retune ▪Mac:OS X 10.8以降、INTEL Core 2 Duo以上のCPU、2GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7以降、INTEL Co re 2 DuoもしくはAMD Athlon 64 X2 以上のCPU、2GB以上のRAM ▪対応フォーマット:AAX、VST、Audio Uni ts(Macのみ) ●Ppmbatch ▪Mac:OS X 10.8以降 ▪Windows:Windows 7以降 ▪対応フォーマット:スタンドアローン