自分が求めているサウンドを
そのままキャプチャーできるのがポイントです
ホーム・ユースから商業スタジオまで、Pro Toolsにおける音楽制作をカバーするPro Tools|Carbon。まずは自宅レコーディングを行うクリエイターにとっての魅力に迫ってみよう。Pro Tools|Carbonを使って楽曲制作を行った作編曲家/エンジニアのイロハに話を聞いてみた。
Photo:Takashi Yashima Cooperation:TAC SYSTEM
MP3に圧縮しても違いが分かる
明りょうさのあるサウンド
今回Pro Tools|Carbonで制作したのは、イロハがボーカル&ギター、そしてエンジニアも務めるバンド、さらばルバートによる楽曲「Do not yet?」。ジャジーな鍵盤とひずみたっぷりなギター・リフで見せるロック・サウンドに仕上がっている。歌とギター、ウッド・ベース、ドラムのレコーディング、そしてミックスまでPro Tools|Carbonで行われた。バンド録音におけるモニター作りのしやすさについて、イロハが語る。
「例えば、ドラムとベース、バッキング・ギターを一緒に録るという場合、モニター用のアウトプット・チャンネル数が結構必要になります。これまでは小型ミキサーを用意して、それでモニターの音作りをしていました。でも、Pro Tools|Carbonには独立したヘッドフォン・アウトが4系統も備わっていて、Pro Tools上でモニター・ミックスを作ることができます。わざわざミキサーを用意せずに、メンバーにヘッドフォンを渡すだけでいいというのは、とてもありがたい機能です。さらに、トーク・バック機能があることも魅力的で、モニター・コントローラーの機能が組み込まれたようなオーディオ・インターフェースになっています」
モニター音を聴き、Pro Tools|Carbonの音質にも驚かされたという。
「いつもと同じ環境で聴いてみましたが、明りょうさが感じられました。特にヘッドフォン・アウトの音は気に入りましたね。音量を上げてもひずみが起きにくく、余裕のあるサウンドです。また、メンバーにも録り音を確認してもらおうと思い、320kbpsのMP3ファイルで書き出して聴いてもらったところ、“音の奥行きを感じる”と話していました。クリアなサウンドだからこそ奥行きを感じたのかもしれません。MP3に圧縮された状態でも分かるほど違いがあるようです」
実際のレコーディングの流れも教えてもらった。ドラマーのyanuの録音では、Pro Tools|Carbonの8chのマイクプリをフルに活用。キックにAKG D112、スネアのトップとボトムにSHURE SM57、ハイハットにAKG C451、ハイ・タムとフロア・タムにSENNHEISER MD421、XY方式で立てたオーバー・ヘッドにC451を使ったそうだ。
「ほかにもルーム・マイクを立てたり、キックやスネア、ライド・シンバルにもマイクを追加して録音することもあります。そうなるとより多くのインプットが必要になるわけですが、Pro Tools|CarbonにはADAT入出力があるため、外部マイクプリを追加することも可能です。拡張性があるのはうれしいですね」
Pro Tools|Carbonに搭載されたマイクプリの印象については「ゲイン幅が広い」と話す。
「キックなどの場合、PADを入れないとすぐにピークを越えてしまいますよね。Pro Tools|CarbonのマイクプリはPADが付いていませんがピークまでの余裕があり、ゲイン調整がやりやすいです」
ギタリストのみねくんのレコーディングはギター・アンプを鳴らしてマイクで収録したという。ベーシストの千秋楽はウッド・ベースを使用し、ピエゾ・ピックアップからのアウトをPro Tools|Carbonへ直接入力。同じくイロハが弾くギターもライン入力で録音したそうだ。
「ライン入力でギターを録音するときは、インピーダンス設定を1MΩにしました。今回はすべて同じ設定でしたが、例えばFENDER Stratocasterの硬い音を録るときに低いインピーダンス設定にしてみるなど、音色を変える意識でVariable Z機能を使ってみてもよいかもしれませんね」
レコーディングの終盤でも
CPU負荷を気にせずプラグインが使える
ギター録音で活躍した機能の一つが、AAX DSPプラグイン。アンプ・シミュレーターのBRAINWORX BX_Rockrackを使って音作りをし、リアルタイム・モニタリングをしながらレコーディングしたという。
「DAWでバッファー・サイズを下げておけば、ネイティブ・プラグインでも遅延を感じることなく録ることはできます。しかし、僕のように作曲と録音を同時に進めるような音楽家の場合、終盤になってギターを追加したくなることもあるでしょう。そこで新たにアンプ・シミュレーター・プラグインを使って録音するとなると、トラック数も多くなっている段階なのでCPU負荷もかかってきますが、AAX DSPプラグインであればその悩みも解決できます」
AAX DSPについて、エンジニア目線での意見も語ってくれた。
「僕のスタジオのような環境であれば、良いアウトボードを常に使えるというわけでもありませんし、どうしてもプラグインに頼らざるを得ません。録音時の演奏者へのモニターは、やはり想定している音をしっかり返してあげたいですし、そういうときはプラグインで音をちゃんと作る必要があります。多くのトラックを一度に録ったり、高いビット数/サンプリング・レートで録音するときなどでも、AAX DSPプラグインであれば気兼ねなく挿して音作りができると思いますね」
ホーム・スタジオやいろいろな場所で録る人に
ぴったりなオーディオ・インターフェース
楽曲のミックスはサウンドインスタジオにて行われた。ミックス時も付属するAAXプラグインを幾つか使っている。
「コンプのBF-2AやPurple Audio MC77、EQのEQ Ⅲなどを使用しました。Pro Tools付属のEQ Ⅲは、好みの違いもあってこれまであまり使ってこなかったのですが、Pro Tools|Carbonの音質の影響なのか処理がしやすく感じましたね。ほかにもチャンネル・ストリップのBRAINWORX BX_Console NやMCDSP 6050 Ultimate Channel Strip HDも使っています。BX_Console Nはプリセットが少なめですが、音作りの幅が広く、自分で作り込むチャンネル・ストリップとして使いやすい印象。6050はドラムの処理でよく活用しました。さまざまなモジュールがあり、プリセットも豊富。はっきりと音が変わるタイプで、積極的な音作りに向いていますね」
Pro Tools|Carbonによって生まれた「Do not yet?」は、YouTubeでMVが公開されているほか、AVIDの音楽配信ディストリビューション・サービス=Avid Playでも配信。楽曲を聴いて、Pro Tools|Carbonのサウンドを自分の耳で体験してみてほしい。最後に、今回のレコーディングを通して感じたPro Tools|Carbonの魅力をイロハに教えてもらった。
「自分が求めているサウンドをそのままキャプチャーできるというのが大きなポイントです。例えばシンバルを録るとき、単にオーディオ・インターフェースを通しただけではバシャバシャした音になってしまうので、EQなどで補正して録音するということがこれまでによくありました。しかし、Pro Tools|Carbonではそのような調整の必要もなく、ただ内蔵マイクプリを通すだけで使える音が録音できます。その上でAAX DSPを使ったモニターやエディットが行え、さらにモニター・コントローラーやキュー・ボックスとしての機能も備えている。僕のようにホーム・スタジオで制作したり、いろいろな場所で録ったりする人にはぴったりなオーディオ・インターフェースだと思います」
Pro Tools|Carbonで制作された
「Do not yet?」のMVと制作解説動画を公開中!
特集「Pro Tools|Carbonのパワーをこの手に!」
『特別企画・Pro Tools|Carbonのパワーをこの手に!』は、サウンド&レコーディング・マガジン 2021年2月号でもお読みいただけます。