UAD-2プラグインの多くは有償で販売されているが、Apolloは買ってすぐにUAD-2プラグインが使えるように、スターター・キットとも言えるプラグイン群が付属している。この付属バンドルは、どれほどの実力を持っているのだろうか?Apolloを愛用する作編曲家/プロデューサーの益田トッシュ氏にラック・タイプのApolloに付属するRealtime Analog Classics Plus Bundleをテストしてもらった。氏が非常勤講師を務める、昭和音楽大学にて話を聞いていく。
Photo:Hiroki Obara
※Realtime Analog Classics Bundle:Apollo Solo/Apollo Twin
※Realtime Analog Classics Plus Bundle:Apollo x4、Apolloラック・モデル
存在感のある豊かな倍音感を持った
UA 610-B Tube Preamp and EQ
益田氏はラック・タイプのApolloとApollo Twinを初代モデルから愛用しており、現在はApollo X6をメインに使用している。そんな氏にApolloの良さについて聞いた。
「AD/DAとプリアンプ共に、シャープでありつつ温かい音がします。UNIVERSAL AUDIOは音楽的なサウンドを作るのがうまいですよね。そこが好きなんです。Apollo Twin MKIIは持ち運び用で購入しました。国内外でのレコーディングをはじめ、舞台でギターを弾くときも活躍しています。また、Apollo TwinをApolloラック・タイプと接続すれば、Apollo Twinがモニター・コントローラーとしても機能するので便利です。あと細かいことですが、ラック・タイプのApolloのつまみは1176を継承したデザインなんですよ。こういったこだわりも、愛おしいです」
まずはこのバンドル唯一のUnison対応プリアンプであるUA 610-B Tube Preamp and EQを、歌とアコギでテスト。そのサウンドについて氏の印象を伺った。
UA 610-B Tube Preamp and EQ
「UA 610-Bは標準のプリアンプでそのまま録るより圧倒的に存在感が出ます。初めてApolloを買った方は、常にUA 610-Bで録った方が良いと個人的には思うくらいです。倍音感も豊かで言うこと無しですね」
氏はその仕様の良さについても言及する。
「ゲインを3段階で調節できるのも良いですよね。多くのプリアンプでは入力ゲインと出力ゲインのバランスで倍音感をコントロールできるのですが、それをUA 610-Bで学べます。最上段にあるステップ式のノブで基本的なゲインを決めてからサウンドの温度感を中央のレベル・ノブで調節して、一番下のアウトプットで出力レベルを適切にすると、プリアンプでの積極的な音作りが理解できるはずです」
Unison対応プラグインは、ほかにもギター用のMarshall Plexi Classic AmplifierとRaw Distortion、ベース用のAmpeg SVT-VR Classic Bass Ampが用意されている。氏はこれらのクオリティにも太鼓判を押す。
「Marshall Plexi Classic Amplifierは、MARSHALL特有のチリチリした感じが出ていて最高です。硬質なプレゼンスもリアルですね。実はMarshall Plexi Classic AmplifierはAC/DCの『バック・イン・ブラック』や『地獄のハイウェイ』をレコーディングしたエンジニア、トニー・プラット氏が50種類もプリセットを作っています。ビギナーなら使わない手は無いですよね? 加えて、ペダル・エフェクトのRaw Distortionが付属されているのも、よく考えられているなと思いました。これくらいひずむペダル・エフェクトがあれば、MARSHALLでもハイゲイン・サウンドまで作ることができます。そして、Ampeg SVT-VR Classic Bass Ampは“エレキベースと言えばこれ”という、ふくよかな低域を表現できるベース・アンプです。インプットにノーマルとブライトの2種類を用意していて、低域と高域をブーストするウルトラ・ハイ/ウルトラ・ロー・スイッチを設けています。さらに2バンドEQや2種類のキャビネットも用意しているので、シンプルながら細かな音作りができるんです」
Marshall Plexi Classic Amplifier
Raw Distortion
Ampeg SVT-VR Classic Bass Amp
王道ビンテージ・コンプ3種類で
動作タイプによるサウンドの違いが学べる
UAD-2と言えば、ハイクオリティなビンテージ機器をエミュレートしたプラグイン。Realtime Analog Classics Plus Bundleにも先ほど登場したUA 610-Bを含め、複数のビンテージ機器を再現したプラグインが収められている。コンプレッサーは1176SE/LN Classic Limiting Amplifiers(Legacy)とTeletronix LA-2A Classic Leveling Amplifier(Legacy)、Fairchild 670(Legacy)を用意。このセレクションが実に素晴らしいと氏は語る。
「Apolloを買った瞬間にこの3つが使えるのは、もはやレコーディング/ミックスの教材です。それぞれFET、オプト、バリアブル・ミューと動作タイプが異なるコンプなので、コンプの違いを使いながら学ぶことができます。まずはこの3種類のコンプを使い込んで、耳を育ててほしいですね。それぞれのバージョンにはよりクオリティの高い有償版も存在するので、気に入ったものがあったらアップグレードしてみると、さらにUAD-2の良さを感じられますよ」
2種類ある1176のテストでは、ブラック・パネルの1176LNを使用。そのサウンドについて氏が解説する。
「アタックの処理に優れていますよね。ピークを適切にとらえながら、トランジェントの残り方も素敵。1176特有の濃いキャラクターが付くので、実機と同じ傾向で音作りがしっかり行えます」
1176SE/LN Classic Limiting Amplifiers(Legacy)
Teletronix LA-2A Classic Leveling Amplifier(Legacy)
Fairchild 670(Legacy)
EQも、ビンテージ真空管モデルのPultec Pro Equalizers(Legacy)を収録。今回のテストでは低域と高域の2バンド仕様であるEQP-1A(Legacy)を使用したと氏は言う。
「Pultec Pro Equalizers(Legacy)は、音楽的なEQカーブが素晴らしいです。PULTECのEQはブーストとアッテネーションのカーブが重ならないように作られているんですけど、それもしっかりと再現されていますね。例えば上げ過ぎたときにBOOSTノブを戻すのか、ATTENノブを上げるのかでサウンドが変わってきます。通すだけでも音に違いが出てくるので、見た目より選択肢の多いEQだと思いますね」
Pultec Pro Equalizers(Legacy)
UAD-2プラグインの素晴らしさは
もはや文化事業の領域に達している
UAD-2プラグインのことを話していると、つい実機を触っているかのように語ってしまうのは、高品位な音色にユーザーが信頼を寄せるからだろう。ビンテージ機器を再現し続けるUNIVERSAL AUDIOの魅力について氏が語る。
「今は多機能な機材が多くあるじゃないですか? そんな中、一台一役のビンテージ機材が使われることにロマンを感じます。実機は驚くほど高額ですが、UAD-2なら手の届く金額で入手できる。UAD-2プラグインの面白いところって、調べているだけでレコーディングの勉強になるんですよ。特に取扱説明書は最高。通がしびれるマニアックな情報がたくさん書かれています。UNIVERSAL AUDIOがUAD-2プラグインでやっていることは、もはや文化事業の領域に達していますよね。付いていきたいと思わせてくれる、素敵な思想を持ったメーカーです。ちなみに今一番気に入っているUAD-2プラグインはCapitol Chambers($349)。最高に美しいチェンバー・エコーが得られます」
わざとらしさが全く無いエンハンサー
Precision Enhancer Hz
UAD-2には実在する機材をエミュレーションしたもの以外に、オリジナルのプラグインも存在する。Precisionシリーズもその一つで、氏も普段から使用していると言う。
「ビンテージ機器ではできないことをかなえるプラグインですね。どれも落ち着いたサウンドで、汎用的に使えます。Precision Mix Rack CollectionにはEQ/コンプのチャンネル・ストリップや空間系エフェクトが収録されているので、DSPパワーが許せばUAD-2プラグインだけでミックスを完結することもできます。Precisionを冠するプラグインの中でもPrecision Enhancer Hzは抜群に良い出来です。エンハンサーって付け足した帯域が分離しているように感じることがあるんですけど、そういったわざとらしさが全く無い。原音にエンハンスした音が奇麗にくっ付いてきてくれているように聴こえますね」
Precision Mix Rack Collection
Precision Enhancer Hz
UNVERSAL AUDIO独自のアルゴリズムが投じられたリバーブのRealVerb Proに関しては「1990年代のデジタル・リバーブのような懐かしい音がする」と評する。
「RealVerb Proは原音の後ろで残響が鳴っているというよりも、アトモスフェリックな別の音色が鳴っているようなイメージ。実体感が強いんです。最近のハイファイなリバーブに加えて、こういったタイプのリバーブもあると重宝します。例えば生音のスネアには最適ですよ」
RealVerb Pro
作編曲家/プロデューサー
益田トッシュ
【Profile】さまざまなアーティストの作編曲、プロデュース、マニピュレートを行う。映画や舞台の音楽を手掛けたり、歌唱指導も行うなど、マルチに活躍している。昭和音楽大学のサウンド・プロデュース・コースで非常勤講師を務める。
本特集の続きは近日公開予定です。
『特別企画・Unisonプリアンプ搭載のオーディオI/O UNIVERSAL AUDIO Apollo大全』は、サウンド&レコーディング・マガジン 2020年12月号でもお読みいただけます。
UNIVERSAL AUDIO Apollo X 製品情報
【特集】UNIVERSAL AUDIO Apollo大全
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