音質面がさらに進化した次世代オーディオI/O UNIVERSAL AUDIO Apollo X Part①:徹底解剖編

2012年に登場したUNIVERSAL AUDIOのオーディオ・インターフェース=Apolloは、デジタル・レコーディング界に衝撃を与えた。有名なスタジオ・レコーディング機材をモデリングしたUAD-2プラグインが動作するDSPを内蔵。低レイテンシーかつ高音質での録音が行えるとのことで、多くのミュージシャンやエンジニアに愛用されることとなる。その後、デスクトップ・モデルのApollo Twinもリリースされ、ベッドルーム・プロデューサーたちも導入しやすいラインナップを展開。そして2015年にはラックマウント・モデルのApolloが第2世代となり、AD/DAやモニタリング性能の向上が施された。それから3年がたち、突如発表されたのが第3世代となる“Apollo X”だ。AD/DAやクロックが見直され、DSPのコア数も増加。新たにトークバック・マイクやサラウンド・モニター機能を実装するなど、全面的に改良が行われている。今回、Apollo Xの性能を解き明かすため、作編曲家の益田トッシュが項目ごとにチェックを行ってくれた。

Apollo X全ラインナップ

Apollo X6

Apollo_x6_front

Apollo_x6_back

オープン・プライス:市場予想価格225,000円前後

【SPECIFICATIONS】
アナログ入力:マイク・イン(XLR)×2、ライン・イン(フォーン)×6、Hi-Zイン(フォーン)×2
デジタル入力:ADATイン(S/MUX時は2ポート使用)、S/P DIFイン(コアキシャル)
アナログ出力:ライン・アウト(フォーン)×6、モニター・アウト(フォーンL/R)、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)×2
デジタル出力:ADATアウト(S/MUX時は2ポート使用)、S/P DIFアウト(コアキシャル)
クロック:ワード・クロック・イン、アウト(BNC)
ダイナミック・レンジ:129dB(A-Weighted、モニター・アウト)
サラウンド・モニター:最大5.1ch(2018年11月に対応)

Apollo X8

Apollo_x8_front

Apollo_x8_back

オープン・プライス:市場予想価格282,000円前後

【SPECIFICATIONS】
アナログ入力:マイク・イン(XLR)×4、ライン・イン(フォーン)×8、Hi-Zイン(フォーン)×2
デジタル入力:ADATイン((S/MUX時は2ポート使用)、S/P DIFイン(コアキシャル)
アナログ出力:ライン・アウト(フォーン)×8、モニター・アウト(フォーンL/R)、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)×2
デジタル出力:ADATアウト((S/MUX時は2ポート使用)、S/P DIFアウト(コアキシャル)
クロック:ワード・クロック・イン、アウト(BNC)
ダイナミック・レンジ:129dB(A-Weighted、モニター・アウト)
サラウンド・モニター:最大7.1ch(2018年11月に対応)

Apollo X8P

Apollo_x8p_front

Apollo_x8p_back

オープン・プライス:市場予想価格338,000円前後

【SPECIFICATIONS】
アナログ入力:マイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)×8、ライン・イン(D-Sub、8ch)、Hi-Zイン(フォーン)×2
デジタル入力:ADATイン(S/MUX時は2ポート使用)
アナログ出力:ライン・アウト(D-Sub、8ch)、モニター・アウト(フォーンL/R)、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)×2
デジタル出力:ADATアウト(S/MUX時は2ポート使用)
クロック:ワード・クロック・イン、アウト(BNC)
ダイナミック・レンジ:129dB(A-Weighted、モニター・アウト)
サラウンド・モニター:最大7.1ch(2018年11月に対応)

Apollo X16

Apollo_x16_front

Apollo_x16_back

オープン・プライス:市場予想価格395,000円前後

【SPECIFICATIONS】
アナログ入力:ライン・イン(D-Sub、8ch)×2
デジタル入力:AES/EBUイン(XLR)
アナログ出力:ライン・アウト(D-Sub、8ch)×2、モニター・アウト(フォーンL/R)
デジタル出力:AES/EBUアウト(XLR)
クロック:ワード・クロック・イン、アウト(BNC)
ダイナミック・レンジ:133dB(A-Weighted、モニター・アウト)
サラウンド・モニター:最大7.1ch(2018年11月に対応)

【REQUIREMENTS】
Mac:macOS 10.12 Sierraまたは10.13 High Sierra、Thunderbolt 1/2/3のいずれかの端子(Thunderbolt 1/2はThunderbolt 3-Thunderbolt 2変換アダプターが必要)
Windows:Windows 10 Fall Creators Update(64ビット・エディション)、Thunderbolt 3端子
共通:6GB以上のハード・ディスク空き容量、INTEL I7以上のクアッドコア・プロセッサーを推奨、8GB以上のRAMを推奨、インターネット接続環境(ソフトウェアのダウンロード、製品登録と追加プラグイン購入のために必要)

【問合せ】
フックアップ ☎03-6240-1213  www.hookup.co.jp

益田トッシュがApollo Xを徹底解剖!

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Text by 益田トッシュ
【Profile】映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』の挿入歌の作編曲や、映画『猫は抱くもの』のエンディング・ソング・プロデュース、NHKオンライン『みいつけた!』のエンディング曲「グローイングアップップ」の編曲などを手掛ける。ミュージカルでの歌唱指導も担当。

作編曲家の益田トッシュにApollo Xの性能を5つの項目に分けてチェックしてもらった。Apollo、そしてUADプラグインのヘビィ・ユーザーだという益田の耳にはApollo Xのサウンドはどう響くのだろうか?

①デザイン&操作感〜洗練されたフロント・パネル

本体デザインは第2世代(ブラック・フェイス)から大きく変わってはいませんが、第2世代はフロント・パネルのディスプレイの中央にUNIVERSAL AUDIOマークがあったのに対し、この第3世代はディスプレイ部分から、本体左側にエンブレムとして移動しています。ラック・タイプのApolloはフロント・パネルのロータリー・エンコーダーを用いてレコーディング時などに本体だけで素早い操作が可能。今回のアップデートにより、ディスプレイ上の情報がコンパクトに集まることで視認性が高まり、さらに使いやすくなった印象です。また、トークバック・マイクがフロント・パネルにビルトインされました。大切なI/Oのチャンネルを使うことなくトークバックを使えます。フロント・パネルのFCNスイッチにトークバックをアサインし、オン/オフの操作が可能です。

また、I/Oの設定をリモート操作できるソフトウェア、Console(Mac/Windows対応)はApolloシリーズの大きなアドバンテージです。Consoleでは低レイテンシーのモニタリングとUADプラグインを使ったエフェクトのかけ録りが行えます(モニター回線のみのエフェクト使用も可能)。

▲Apolloシリーズをコンピューターから操作できるソフトウェアのConsole(Mac/Windows対応)。低レイテンシーでのモニタリング、UADプラグインのかけ録りも設定できる ▲Apolloシリーズをコンピューターから操作できるソフトウェアのConsole(Mac/Windows対応)。低レイテンシーでのモニタリング、UADプラグインのかけ録りも設定できる
▲UNIVERSAL AUDIOのエンブレム上部にトークバック用マイクが備わっている(赤枠)。マイクのオン/オフはConsole、またはフロント・パネルのFCNスイッチにアサインして操作可能だ ▲UNIVERSAL AUDIOのエンブレム上部にトークバック用マイクが備わっている(赤枠)。マイクのオン/オフはConsole、またはフロント・パネルのFCNスイッチにアサインして操作可能だ

②AD/DA〜ワイド・レンジ/高解像度を実現

第2世代からそれほど時間を置かずに第3世代に至った事実こそが、今回のアップデートの重要性を物語っていると思います。サウンドの進化が素晴らしいのです。落ち着きがありながら、タイトでクリア。モニター・スピーカーからの音が目前に迫って来るイメージです。第2世代より高域がおとなしくなっている感じなのですが、それによって突出した部分を感じさせず、自然なサウンドで聴かせることに成功しています。高域を誇張せずにワイド・レンジ、高解像度を成し遂げていることが本当に素晴らしいと思いますね。ヘッドフォン・アウトもD/A部が変わったためか、とても良いサウンドになっています。周波数バランスと音の細部をしっかり聴き取ることができ、より音楽の中に入っていけるようなフィーリングを得られました。リスニング的にも楽しくなるサウンドです。

A/D部のチェックとして、エレキギターを録音してみました。Apollo X8Pからのモニター・アウトと、普段自分が使っている外部DAコンバーターの両方でモニタリング。同じセッティングで第2世代とも比べてみます。第2世代の高域の出方やスッキリ感も捨てがたかったのですが、第3世代はファットで密度のあるサウンド、音そのものの存在感があり、クオリティの高さを感じました。

▲Apollo Xのテストを行った筆者のプライベート・スタジオ。A/D部の比 較テストの際には、第2世代との聴き比べのために外部のDAコンバーターを使ってD/A部のサウンドを統一した。また、内部D/Aも使ってそれぞれのAD/DAのコンビネーションも比較 ▲Apollo Xのテストを行った筆者のプライベート・スタジオ。A/D部の比 較テストの際には、第2世代との聴き比べのために外部のDAコンバーターを使ってD/A部のサウンドを統一した。また、内部D/Aも使ってそれぞれのAD/DAのコンビネーションも比較

③マイクプリ〜音のニュアンスを的確にキャッチ

マイクプリのテストもしてみました。シリアルが連番のコンデンサー・マイクを2本用意し、近い距離でセッティングして第2世代のApollo 8と第3世代のApollo X8Pにボーカルを同時レコーディング。同じ音量で録れるように歌う位置を注意深く確認しながら作業したところ、ほぼ同じ波形の音が録音できました。サウンドを聴き比べると、Apollo 8は子音や歌の倍音感が若干強調された、バイト感のある派手めな音です。Apollo X8Pは落ち着いたサウンドですが、音の芯をとらえており好印象。エレキギターの録音時も思ったのですが、もし第2世代のエッジ感が第3世代でも欲しい場合は、Unison機能や後段でUADプラグインを使って高域を強調してあげればよいでしょう。

第3世代は素直な音で、録音やミックス時に本来の音が出てくる印象です。ナチュラルな音の方がよりUADプラグインやUnison機能での音のカラーリングを楽しめると思いました。AD/DAが新しくなった第3世代のマイクプリは、音の細かなニュアンスや押し出し感などを的確にとらえ、録った音にさらなる表現力を与えてくれます

▲Apollo X8P(写真下の上段のラック)とApollo 8(写真下の下段のラック)へ、ボーカルを同時に録音。上下のマイクの音質差が出ないように、ケーブルを入れ替えてのテストも行った ▲Apollo X8P(写真下の上段のラック)とApollo 8(写真下の下段のラック)へ、ボーカルを同時に録音。上下のマイクの音質差が出ないように、ケーブルを入れ替えてのテストも行った

④UADプラグイン〜DSPが6コアに増強

マイク・プリアンプの項で触れたUnisonという機能。これこそApolloシリーズの大きな特徴の一つです。内蔵された6コアのDSPのパワーを使って、低レイテンシーでプラグインをモニタリング、かけ録りできるのはもちろんのこと、この機能はデジタル領域だけでなく、その前段の制御も同時に行います。例えば、Consoleのチャンネル・ストリップにあるUnisonインサートにUnison対応のマイクプリUADプラグインを挿すと、モデリング元の実機が持つインピーダンス特性までが入力部で再現されるのです。ちなみに、Consoleのプリアンプ・コントロール部のインプット・ゲインは、マイクプリUADプラグインのゲインと連動するので二重に設定する必要がなく、大変使いやすいのも魅力。UADプラグインとConsole、そしてApolloというハードウェアの三位一体のコンビネーションこそが現代のレコーディングに革命を起こしていると言ってよいでしょう

マイクプリ機能はもちろんのこと、エレキギターやエレキベースの録音においてもこれ以上のサウンドと自由度を持つシステムは無いと思います。使用するDAWとConsoleのコンビネーションで、音作りを録音前に行うことも録音後に行うことも可能(どちらでも同じUADプラグインを使用できることも素晴らしいです)。低レイテンシーでモニタリングしつつ演奏できるので音の遅れによるストレスが無く、さらにアンプ系のUADプラグインが充実しており、作れるサウンドのバリエーションはほぼ無限大と言ってもいいと思います。

Apollo Xには“Realtime Analog Classics Plus Bundle”という16種類以上のUADプラグインが詰まったバンドルが付属していますが、そのほかにも数多くのUADプラグインがリリースされているので、好きなものを導入していくのもよいでしょう。自分がよく使うUADプラグインは、API 2500 Bus Compressor、SSL G-Master Bus Compressor、Empirical Labs EL8 Distressor、Vertigo VSM-3 Mix Satellite、Lexicon 224 Classic Digital Reverb、Neve 1073など、ここに挙げるだけでも悩むくらいあります。ギター・アンプ系では、作れるサウンドの幅がとても広いFuchs Overdrive Supreme 50 Ampliferを使うことが多いです。空間系ではOcean Way Studios。通常のリバーブの域を超えた空間表現が可能で、このサウンドはトラッキングの際の書き出しにも入れることが多いです。コンプ系では1176。よく使う実機のコンプも1176タイプなので、一番慣れ親しんだ効き方をしてくれます。

◀Unison機能に対応しているUADプラグインのUA 610-B。UNIVERSAL AUDIOのコンソール、610のプリアンプをモデリングしている。Apollo Xに付属 ▲Unison機能に対応しているUADプラグインのUA 610-B。UNIVERSAL AUDIOのコンソール、610のプリアンプをモデリングしている。Apollo Xに付属
▲Consoleのチャンネル・ストリップ上部にあるプリアンプ・コントロール部にプラグイン・スロットがある(赤枠)。ここにUnison機能に対応したUADプラグインを挿せば、実機のインピーダンス特性を再現した状態でプリアンプやギター・アンプ・シミュレーターのかけ録りが可能だ ▲Consoleのチャンネル・ストリップ上部にあるプリアンプ・コントロール部にプラグイン・スロットがある(赤枠)。ここにUnison機能に対応したUADプラグインを挿せば、実機のインピーダンス特性を再現した状態でプリアンプやギター・アンプ・シミュレーターのかけ録りが可能だ
▲Unison機能に対応しているUADプラグインのベース・アンプ・シミュレーター、Ampeg SVT-VR Classic Bass Amp。Apollo Xに付属する

⑤Apollo Xの新機能〜サラウンド・モニターに対応

サラウンド・モニター機能が2018年11月に実装されるというアナウンスがありました。個人的にはすごく楽しみな機能です。筆者は映画用に楽曲を提供したりすることもあります。その際、サラウンド環境を想定した音作りの必要性をより強く感じていました。通常の楽曲スタイルであれば問題ないのですが、劇中音楽では映画の中のシーンに合わせた音作り、ミックスをすることも多く、特殊な残響や空間演出などもときには必要です。最終的なイメージはダビング・ステージでの作業にお任せするにしても、その前の精度を高めたいと思っていたので、サラウンド・モニター機能が付くのはうれしいですね。サラウンド・モニター・コントローラーは高価な物が多く、接続も煩雑になり、通常のモニター・システムとどのように混在させるのかという点でも少し悩む部分がありました。Apollo XはConsole上でモニターのコントロールができるようになるため、別途コントローラーを用意する必要がありません。今後のアップデートがとても楽しみです。

また、Apollo Xでは外部の業務用レコーディング機器とのレベル・マッチングがしやすい、+24dBuのオペレーションが可能になりました。これはConsole Settingsの中のHEADROOMで設定できます。

▲2018年11月に実装されるサラウンド・モニター機能。Apollo X6は5.1ch、Apollo X8/X8P/X16は7.1chまで対応可能だ。スピーカー・キャリブレーション、マルチチャンネルを2chへ変換して再生するフォールドダウン機能も用意されている ▲2018年11月に実装されるサラウンド・モニター機能。Apollo X6は5.1ch、Apollo X8/X8P/X16は7.1chまで対応可能だ。スピーカー・キャリブレーション、マルチチャンネルを2chへ変換して再生するフォールドダウン機能も用意されている

テストを終えて

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内蔵クロックのクオリティが格段に向上
Apollo Xだけでどんどん制作ができる

筆者はUADのヘビー・ユーザーで、所有するUAD-2 DSPのコア数は合計32を超えています。高品位なUADプラグインはDSP使用率も高いのですが、そういったUADプラグインもDSPパワーを気にせず使えるということと、Console上でさまざまなUADプラグインを挿したインプットの状態をキープしたいのでこの数をそろえています。プラグインはやはりアルゴリズムが命。UADプラグインを使う10年ほど前はDAW内蔵プラグインのクオリティがあまり高くなく、変化の差も分かりにくかったのですが、UADプラグインを導入後、自分自身の音のとらえ方も変化し、音楽家としても成長させてくれたように思います。そういった意味でも今回の第3世代へのアップデートによるAD/DAのサウンド向上は、一番うれしいニュースです。また、Apollo Xは内蔵クロックのクオリティが格段に向上した印象があります。今回、Apollo X8Pに外部クロックをつないでみたのですが、明らかな音質向上には至りませんでした。つまり、それだけ素性が良いのです。第2世代のApolloは外部のクロックを使ったり、Apollo Xをマスターにするとガラリと表情が変わります。外部AD/DAや外部マスター・クロック・ジェネレーターが無くても、Apollo Xだけでどんどん制作を行える!という印象を受けました

デジマートでApollo Xをチェック!

サウンド&レコーディング・マガジン 2018年12月号より転載