☆Taku Takahashi × E-MU E4 Platinum & ARMEN 1200 Sound【後編】〜手間だからこそ生まれるクリエイティビティに刮目せよ!

☆Taku Takahashi × E-MU E4 Platinum & ARMEN 1200 Sound【後編】〜手間だからこそ生まれるクリエイティビティに刮目せよ!

 愛用のハードウェア・サンプラーで新曲「You You You」を制作してくれた☆Taku Takahashiだが、現代のソフトのように便利で簡単にいかないからこそ、生まれる面白さがあると示唆する。人と違うサウンドを作りたい人、必見のインタビューだ!

Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara

☆Taku Takahashi × E-MU E4 Platinum & ARMEN 1200 Sound【前編】はこちら:

ピッチ・チェンジが引き起こす音色変化

 先のコメントの通り、E4 PlatinumにはSP12やSP1200でサンプリングした音も格納していたそうだが、それは内蔵ストレージの余裕だけが理由ではなかった。

 

 「SP12もSP1200も大好きなサンプラーで、独特のザラついた音がするんですけど、何せサンプリング・タイムが短くて。例えばSP1200は、本体のパッド1つに割り当てられるサンプルが最長2.5秒。5台くらい集めて同期させれば、楽曲の全パートを一度に鳴らせるのかもしれないけど、それは現実的じゃないからE4 Platinumで扱っていたんです」

 

 そもそもSP1200へのサンプリングそのものが、現代の感覚からするとハードルが高い。

 

 「8小節とかのフレーズをサンプリングするには、2.5秒に収まるよう事前に尺を縮めておく必要がありました。やり方としては、DJミキサーからE4 Platinumにサンプリングし、ピッチを+7や+8にします。ピッチが上がる分、尺が短くなるからです。それを再生してSP1200にサンプリングし、-7や-8のピッチでプレイバックすると元の尺に戻るので、ReCycle!で編集してからE4 Platinumへ戻していました。尺を縮めるときにターンテーブルの回転数切り替えスイッチなどを使わなかったのは、戻すときにピッチの復元が困難になるからですね」

 

 ピッチ・トランスポーズに伴うタイム・ストレッチを2回経て、AD/DAも繰り返すわけだが「そうするうちに音色が変化していくという楽しみがあるんです」と☆Taku。

 

 「シンセ・パッドをザラつかせたいときにはピッチをいじり過ぎない方がいい、みたいなTipsもあって。その際は±3くらいのトランスポーズにとどめるんですが、+3したくらいではSP1200に収まり切らないから、何度かに分けてサンプリングして、DAWで一本にしてからE4 Platinumに戻すとか、そういうことをやっていましたね」

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かつての☆TakuがSP1200へのフレーズ・サンプリングの際に実践していた手法。SP1200は1サンプルが最長2.5秒なので、例えば8小節などのフレーズをサンプリングするなら事前に尺を縮める必要がある。☆Takuは、E4 Platinumでピッチを7~9半音上げて尺を短くしてからSP1200へ取り込み、今度はピッチを7~9半音下げて再生し、ReCycle!で編集した後にE4 Platinumへ戻していたという。“上げた(=縮めた)分だけ下げる(=伸ばす)”という2台のサンプラーの合わせ技で、ストレッチやAD/DAの繰り返しにより独特の音色変化が得られる

 “必要は発明の母”ということわざのように、たとえ手間がかかったとしても、作りたい音楽を作るべく工夫に工夫を重ねていたというわけだ。

 

 「昨今は市販のサンプルのクオリティが高く、キックひとつにしてもよくできたものばかりですが、その反面、似通った音が多いという気もしていて。ある程度のバリエーションはあるにせよ、明らかな差を感じないというか、並べて聴いたときに“このキックはほかと全然違うね”っていうのが滅多に無いと思うんです。現代のプロデューサーは“ヘンテコで面白い音がする”といった視点よりも、ダンス・フロアできちんとパンチを効かせられる音、という見方でサンプルを選ぶ傾向にあるんじゃないでしょうか。DJツール的な感覚が強いというかね。ROLAND TR-909やTR-808を軸とするバリエーション、もしくはその作法の中でどうするか?っていうこだわりは皆さんお持ちなんでしょうけど、それは“全く別の音色で面白い音楽を作る”みたいな価値観とは違うものだと感じていますね」

 

 作品の個性は、曲作りに対する考え方や制作の方法によって形成される部分が大きいのかもしれない。

 

 「壁にぶち当たったら“面倒だけどハードのサンプラーに入れてみるか”って。そしたら意外に速くたどり着けるんですよ。で、そのたどり着きたいものって何かと言うと、周りとはちょっと違う音なんです。自分自身では“☆Takuらしさ”ってのが何なのかは、よく分かっていませんよ。でも人に聴かせると“☆Takuっぽいね”と言われる。もしかしたらハードを使って今回みたいな作り方をすると“らしさ”が出やすいのかなと。クリエイションに個性を出すのには、いろんな方法があると思うんです。特定の領域を突き詰めるというのも一つだし、周囲とは違った方法を選ぶってのもある。僕の場合はハードのサンプラーを取り入れることが、自らの個性の一端になっているんじゃないかと思いますね。そもそもハード・サンプラー人口が少ない時代だし、ソフト・シンセの音だってハードを通せば変わるから、おのずとユニークな結果が得られやすいのかもしれません」

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E4 Platinumを操作する様子。APOGEE Ensemble Thunderbolt(オーディオI/O)やTUBE-TECH MEC 1A(チャンネル・ストリップ)などとともに、ラック・マウントして使用している。E4 Platinumの上に収納されているのはAPPLE PowerBook G3

現代的な低音に1200 Soundで味付け

 ソフト・シンセと言えば、「You You You」ではXFER RECORDS Serumで作ったシーケンスを1200 Soundにサンプリングし、音の質感を変化させたそう。

 

 「1200 Soundをメインで使ったのはドラムなんです。例えば、4つ打ち部分のキックやスネア。まずはブレイクビーツのフレーズをピッチ・アップしてからサンプリングし、元のピッチでプレイバックしつつABLETON Liveに録音しました。それをSimplerというLiveのサンプラーにインポートして、ReCycle!のようにアタック検知でワンショットに分割し、Liveのドラム・サンプラーDrum Rackで鳴らしています。現在もReCycle!を使うことはあるんですが、今回はドラムのスライスだし、リリースが伸びなくてもよかったので、Simplerを使いました。キックに関しては、1200 Soundの音にSpliceで入手したサンプルを重ねて、ローエンドを補正しています。つまりキック全体で見ると、味付けの部分を1200 Sound、現代的なロー感をSpliceで賄っている。近年のプロデューサーは、TR-808系のキックをプラグイン・エフェクトでひずませたりして味付けするじゃないですか? その手法違いという感じですね

 

 「You You You」で、往年のハードウェア・サンプラーへの新たな解釈を見せてくれた☆Taku。実は今、画策していることがあるという。

 

 「APPLE PowerBookからE4 Platinumにオーディオを転送するシステムを作ろうとしているんです。目的は、SpliceとかのサンプルをE4 Platinumで鳴らすこと。PowerBookに対応したE4 Platinumのドライバーさえ手に入れば実現できるので、あと一息ですね!」

 

 

☆Taku Takahashi × E-MU E4 Platinum & ARMEN 1200 Sound【前編】では、 E4 Platinum、1200 Soundの解説とともに、今回の制作で使われたハードウェア・サンプラー+DAWのシステム・セッティングを詳しく紹介!

 

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☆Taku Takahashi

DJ/プロデューサー。1998年にVERBAL、LISAとm-floを結成。ソロでもカルヴィン・ハリスやCrystal Kayら、数多くのアーティストのプロデュースやリミックスを担当。ハウスからR&B、ヒップホップまで、あらゆるジャンルを自らの作品に落とし込み、Beatportでのチャート・アクションなどで、その実力を世界にも知らしめている。インターネット・ラジオ局block.fmの主宰も務めている

 Recent work 

『Shining One』
BE:FIRST
(BMSG)
☆Taku Takahashiがプロデュースを担当

40周年記念特集|温故知新〜今よみがえる”あのころの機材“

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