☆Taku Takahashiが語るダフト・パンク 〜セオリーからの逸脱が生んだ荒々しき個性

f:id:rittor_snrec:20210528133703j:plain

新旧を問わず数多くのダンス・ミュージックにアンテナを張り続け、そこから得たインスピレーションを自らの音楽だけでなく、主宰するインターネット・ラジオblock.fmなどでもアウトプットしているDJ/プロデューサーの☆Taku Takahashi。言わずもがなダフト・パンクにも影響を受けたという彼は、一体どのような部分に魅了されたのだろう? 独自の視点で語ってもらったところ、現代の音楽制作に還元できる“ダフト・パンク観”が見えてきたので、トラック・メイカー諸氏にはぜひとも参考にしていただきたい。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara

 

☆Taku Takahashi
【BIO】DJ/プロデューサー。1998年にVERBAL、LISAとm-floを結成。ソロでもカルヴィン・ハリスやCrystal Kayら多くのアーティストのプロデュースやリミックスを担当。またBeatportでのチャート・アクションなどで、その実力を世界にも知らしめている

 

音質は決して良くないけれど比類なき“格好良さ”がある

ー☆Takuさんは、どの時代のダフト・パンクが好きなのですか?

☆Taku 『ホームワーク』や『ディスカバリー』の辺りですね。サンプリングとシンセが同居しているところに共感するし、そもそもサンプリングでああいう高揚感を作り出せるのがすごいなと。サンプリングを用いたハウスって、例えばアーマンド・ヴァン・ヘルデンやボブ・サンクラーなどいろんなアーティストがやっていたんですけど、ダフト・パンクのやり方ってどこか独特なんですよ。素材の崩し方によるものなのか、ちょっとヒップホップ的でもあって。“ワンループにフィルターをかけて変化させていく”という手法自体がヒップホップっぽいと言えますが、そういう“格好良いこと”をやって、なおかつポップに仕上げているのが素晴らしい。サンプリングで選び出す部分が良いのかもしれませんね。ミニマルにループする曲でさえポップに聴かせる説得力があるし、ド派手に作っているわけじゃないんだけど華やかに聴こえる……一体どうなっているんでしょうね?(笑)。

 

 ☆Taku Takahashi's Favorite Album 

f:id:rittor_snrec:20210528134259j:plain

『ホームワーク』

1997年にリリースされたダフト・パンクの1stアルバム。「ダ・ファンク」「アラウンド・ザ・ワールド」「バーニン」といった名曲を含み、ダーティなトーンと中低域のエネルギーが際立つシンプルなプロダクションが特徴。ファンク~ソウル~ディスコ・テイストの素材をフィルター・ワークで展開させる手法は、その後のダンス・ミュージック・シーンに影響を与えた

 

f:id:rittor_snrec:20210528134348j:plain

『ディスカバリー』

ポップ・ミュージックのリスナーにも広く知られることとなった「ワン・モア・タイム」を収める2ndアルバム。2001年にリリースされ、全14曲が松本零士×ダフト・パンクのコラボレーション・アニメ『インターステラ 5555』のサウンドトラックとなった。「デジタル・ラブ」や「ハイ・ライフ」などポップな曲が目立つものの、サウンドはやはり独特の汚れた質感

 

ー近未来的な雰囲気も特徴だと感じます。

☆Taku そうですね。実はそこに一番影響を受けたかもしれません。僕、未来っぽいものが好きだから。未来っぽいのに、欧米のラジオ局によく入っていたDRAWMERの安いコンプを使っていたりするのがダフト・パンクの面白さですよね。LX20という機種なんですが、block.fmのマスターに同じものを入れているんですよ。海外のラジオみたいに聴かせたかったからで、ダフト・パンクの影響です。

 

ーラジオのサウンドが好きだったから、局のコンプを音作りに用いたという話を聞いたことがあります。

☆Taku 詰まった感じの音ですよね……少なくともフロア映えするコンプレッションではないと思います。ダフト・パンクの曲って、DJでかけると“曲のパワー”で持っていけるんですけど、フロア・ユースにフォーカスして作られたものに比べると抜けが良くないんです。特に『ディスカバリー』はそうで、なんかモコモコしている。でも格好良さはダントツなんです。BBCのラジオとかを聴いていると、音質が良いわけでもないのに、なぜか音楽が格好良く聴こえる瞬間があったりして。それと似ているのかもしれません。

 

ークラブでかけたときの低域のプッシュ感などは?

☆Taku 弱いと思います。でも格好良いんですよ。“腰に来る低音がダンス・ミュージックの大前提”みたいなのは、ダフト・パンクにとって関係無かったんじゃないですか? 描きたいものがある、以上!みたいな感じというか、誰にどう思われてもいいというか、そんな感じがするんですよ。

 

ーアーティスティックですね。

☆Taku うん。名前の通り、本当にパンク。さっきのコンプしかり、間違ったことをいっぱいやっていると思うし。間違うって良いことだし、大事なんですよ。『ホームワーク』や『ディスカバリー』のころは、今みたいにみんなが同じシンセを持っている時代じゃなかったから、とりあえず手持ちの機材で好きなアーティストの音を再現しようとする。で、全然違うものになるんです(笑)。でもまあ、それもアリだよね、っていう時代。僕も再びハードウェアのサンプラーを使い始めたんですよ。味のある音がするし、工程が多いと間違いが起こりやすいからね。実機のサンプラーを持っていない人は、DAWの編集画面でオーディオ・エディットするところを、あえてソフト・サンプラーでやってみるといいかもしれません。自分の想定を超えた何かが生まれやすいと思います。そういうヒューマン・エラーが、ダフト・パンクとか周辺の時代の音楽には詰まっている気がするんです。でもそれに飽きたのか、違うフェイズに行くためだったのか、誰がどう聴いても完成度の高いものを作るべく完成させたのが『ランダム・アクセス・メモリーズ』だったんじゃないかと。当時、あれはすごいと思いましたね。

f:id:rittor_snrec:20210528135240j:plain

☆Taku Takahashiが近ごろ再び使い始めたというハードウェア・サンプラー。写真上の赤い機材はARMEN 1200 Sound(E-MU SP1200のラック・マウント・モデル)で、その下にE-MU E4 Platinum、SP-12が設置されている

わざと汚しているのかそうでないのか判然としないところも魅力的

ー『ランダム・アクセス・メモリーズ』は、具体的にどのような部分が素晴らしいのでしょう?

☆Taku まず、めちゃくちゃ音が良くなっているじゃないですか? 一つ前の『HUMAN AFTER ALL~原点回帰』は過渡期のアルバムというか、それまでの作風から違うところに行きたいという願望が見えるんですよね。で、その願望を振り切った形で実現したのが『ランダム・アクセス・メモリーズ』だと思っていて。“中途半端なところに居るんだったら思い切りハイクオリティな音楽をやってやろうぜ”という意気込みを感じます。その潔さも、また格好良いんですよね。しかも世界的に大ヒットした曲が入っているのもすごい。ただ、制作の観点からすると浮世離れした面もあって……アナログのマスター・テープに空港の金属探知機が悪影響を与えないよう車で長距離輸送するとか、まるで貴族の発想ですよね(笑)。(編注:詳細は近日公開予定の「ミック・グゾウスキー&ピーター・フランコ インタビュー」の記事を参照)

 

 

ー『ランダム・アクセス・メモリーズ』以上に最初の2枚が好きなのは、サウンドの荒々しさからですか?

☆Taku そうですね。“家で作った感のある乱暴な雰囲気”みたいなのが好きなんです。でも家で作ること自体が正義ではないですよ! 手法はどうでもいいんですけど、あのころのサウンドに出ている雑さみたいなものは魅力ですね。

 

ー当時はROLANDのハードウェア・サンプラーS-760やDATデッキをメインに使っていたそうです。

☆Taku わざと音を汚しているというよりは、そうならざるを得なかったのかもしれませんね……と言いつつも、わざとなのかそうでないのか判然としないのも魅力的です。なんかね、どういう機材を使ってうんぬんと言う前に、音から反抗的な感じがするんですよね。ダンス・ミュージックならダンス・ミュージックで、みんながやっていることとは違う角度から攻める。なのに王道、みたいな。『ホームワーク』の時点で既にそうで、スターダストの「Music Sounds Better With You」で完成したスタイルだと思います。もっともスターダストは、ダフト・パンクのトーマ・バンガルテルが別でやっていたユニットですけどね。で、『ディスカバリー』にも同様のスタイルが引き継がれるという流れ。

 

 

たとえ音が悪かったとしても新鮮なインパクトのある曲が聴きたい

ーダンス・ミュージックは“踊らせる”という機能を果たさなければならないので、“低域はこれくらい出ているべき”といったバランスの取り方のようなものが確立されているかと思います。しかしダフト・パンクは、そういったセオリーから逸脱していたのかもしれませんね。

☆Taku ダンス・ミュージックの音作りのフォーミュラは確立されていますよ、徹底的に。で、ハングリーな人になればなるほど、そこを突き詰める。だからダフト・パンクは、決してハングリーではないと思うんです。お作法を守っているわけではないから。ダンス・ミュージックは人を踊らせるためのツールにもなればアーティスティックな作品にもなるけど、お作法を気にし過ぎるとツールになりがちで。そこに対してアンチな方向性を提示し続けたのが、ダフト・パンクだったんじゃないでしょうか。ただ、アンチっぽいキャラを作るためにやっていたわけではないと思うんです。周りに優秀なマーケッターは居たんでしょうけど、本人たちとしては“やりたいことしかやらない。それがアンダーグラウンドであってもポップであっても”という感じだったと思います。

 

ー現在のトラック・メイカーが、ダフト・パンクに習うべきことというのはあるのでしょうか?

☆Taku DAW世代の人たちも、みんな好きに作っていると思うんですよ。ただ、ちょっと現代特有の“制作スピード重視”みたいな価値観とか世の中全体の速さに引っ張られているような気がしていて。もう少しゆとりを持って制作してもいいんじゃないかと思います。クオリティは軒並み高いんですけど、どことなく自ら消費されに行っているような曲が多い印象で。トレンドが次々に移り変わる世の中だから、それに対応すべく努力しているんでしょうけど、あまり生き急がなくてもよいのかなと。

 

ー確かに、ヨーロッパ圏の現行ハウス・シーンなどを観察しているとリリース量やスピードが尋常ではなく、その反面、似たような曲がとても多いように感じます。

☆Taku お作法に寄ったものが多いかもしれませんね。一方で、日本のクリエイターには良い意味で力の抜けた人が増えている気がするんですよ。マイペースながら試行錯誤が見えるというかね。それがもうちょっとグローバルに評価されてもいいんじゃないかなと思います。あと、個人的には“何じゃコレ!?”っていうものが聴いてみたいですね。クオリティは大事だけれど、音が悪くても興味を引かれる新鮮なインパクトがあるものです。もちろん、そういう曲とプロフェッショナルな音楽の両方を作れることに越したことはないんですが、ダフト・パンクとまではいかなくても、彼らの制作の姿勢や方法は参考になるんじゃないかと思います。

 

f:id:rittor_snrec:20210528140334j:plain

「〝ダンス・ミュージックのお作法〟みたいなものは
ダフト・パンクにとって関係無かったんじゃないかな」

 

【特集】ダフト・パンク 1993-2021

www.snrec.jp

www.snrec.jp