JUVENILE - Beat Makers Laboratory Japanese Edition Vol.30 〜“ヒットするかどうか”ということに“音楽のトレンド性”はあまり関係無いんだと思います

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 東京出身の気鋭プロデューサー/DJ/トークボックス・プレイヤーのJUVENILE。オリエンタルラジオ率いるユニット=RADIO FISHの「PERFECT HUMAN」をはじめ、さまざまな国内外アーティストの楽曲を手掛けている。また、昨年12月には☆Taku Takahashi、TeddyLoid、藤森慎吾、福山潤などを迎えたアルバム『INTERWEAVE』をリリース。シンセウェーブや2ステップ、ハウス、R&Bなど多様性にあふれた彼の音作りや、ツールについての話を聞いた。

Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki

 

音楽制作は作業スピードが命
MIDIは必ず手弾きで入力します

ビート・メイキングを始めたきっかけ

 小学生のときに坂本龍一さんの「energy flow」を学校で弾いていたら、音楽の先生にYELLOW MAGIC ORCHESTRAを薦められ、そのときにシンセやテクノという言葉を知りました。その後音源内蔵シーケンサーのYAMAHA QY100を購入して打ち込みを覚えたんです。中学校に上がるとウェッサイ系ヒップホップが好きになるんですが、なかなかQY100でそのサウンドを表現できなくて……。いろいろ調べてみると、どうやらサンプラーという機材が使われているらしく、AKAI PROFESSIONAL MPC1000を購入したんです。高校になると、中田ヤスタカさんの影響でSTEINBERG Cubaseを導入し、スピーカーのFOSTEX PM0.4NやPRESONUSのオーディオI/Oなど、DAWセットを一式そろえました。

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SHINSEKAI STUDIOのメイン・デスク。DAWはSTEINBERG Cubase、オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo X6、ニアフィールド・モニターはREPRODUCER AUDIO Epic 5を使用している。デスク右手にはDAWコントロール・サーフェスのICON Platform Nano、同左手にはモニター・コントローラーのPRESONUS Central Station CSR-1と、開放型ヘッドフォンのAKG K712 Proが置かれている。写真手前に見えるのは、MIDIコントローラーのYAMAHA KX49だ

現在のモニター環境について

 一人で作業するときはヘッドフォンのAKG K712 Proをよく使います。耳の近くで音が鳴るため、集中して作業ができますね。コライトするときなどは、ニアフィールド・モニターのREPRODUCER AUDIO Epic 5を使うことが多いです。部屋の内装はInstagramに投稿された海外スタジオを参考にしました。本格的に音を良くしたいなら、電源周りの見直しや防音工事が必要だと思うのですが、始めると切りが無いと思ったので、この部屋に見合ったルーム・チューニングをしつつ、あとは見た目を重視しています。スタジオの居心地は曲作りのテンションに直結するので大事なんです。

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ニアフィールド・モニターのREPRODUCER AUDIO Epic 5。JUVENILEは「底面にあるパッシブ・ラジエーターのせいか、低域がとても豊かに鳴ります。パキッとしたシャープなサウンドも好きです。Teddy君(TeddyLoid)のスタジオでも使っていて、印象が良かったので購入しました」とコメントしている

ビート・メイキングのこだわり

 音楽制作は作業スピードが命。MIDIの打ち込みはマウスではなく、必ずMIDIキーボードで入力するようにしています。マウスを使うのは、速いパッセージなど絶対手では弾けないフレーズのときのみ。そのほか既存プリセットを活用したり、プラグインやソフト音源、ルーティングなどをあらかじめセットしたオリジナル・テンプレートを用意するなどして、より早く曲を作り上げるための工夫をしているんです。

 

ドラムやベースに使用する音源

 ドラムには、WebサービスのSpliceから気に入ったサンプルを引っ張ってくることもありますし、リズム・マシンのROLAND TR-8の音を録音することもあります。以前はWebサイトのSONICWIREでサンプル・パックをジャケ買いしていましたね(笑)。また、派手なウォブル・ベースにはXFER RECORDS Serum、MOOG系のベースにはNATIVE INSTRUMENTS Monark、トラップのキック・ベースや単音にはREVEAL SOUND Spire、スラップを多用するようなエレキベースにはIK MULTIMEDIA Modo Bassといったソフト音源を用いています。たまにアナログ・シンセのBEHRINGER Model Dを使用することも。ソフト音源に比べて、音と音のつながりが滑らかに聴こえる気がするんです。

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上段には、左からコンパクト・アナログ・ミキサーのYAMAHA MG10XU、モニター・スピーカーのFOSTEX PM0.4N、リズム・マシンのROLAND TR-8、下段にはアナログ・シンセのBEHRINGER Model D(左)とKORG MS-20 Mini(右)が並べられている

上モノに使用する音源

 RHODESやピアノに用いるのは、ソフト音源のSPECTRASONICS Keyscape。同社のOmnisphere 2も持っていますが、SPECTRASONICS製品はどれも高音質なので好きです。そのほかストリングスやブラスには、NATIVE INSTRUMENTS Session Strings Pro 2やSession Horns Proを使います。ストリングス専用ソフト音源AUDIO MODELING Swam Violinもリアルなので、これでトップ・ラインを弾いたりもしますね。

 

使用プラグイン・エフェクト

 サチュレーション・プラグインのBRAINWORX Black Box Analog Design HG-2が大好きで、よくドラムのバスに使っています。ドラム全体にかけると音がにじんでまとまり感が出せるんです。リバーブはUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのEMT 140。最近はIZOTOPE Neoverbも用います。両者の使い分けとして、センド&リターンにはEMT 140、リード・ボーカルやシンセ・リードなどちょっと浮き立たせたいものにはNeoverbを使用するという感じです。

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デジタル・シンセのNOVATION MiniNova。その奥には、アンプ内蔵のトークボックス・ドライバー、TALKSTAR Talk Boxがスタンバイする

僕らビート・メイカーやクリエイターは
トレンドの先端を行き過ぎていることが多い

☆Taku Takahashiとのセッション

 「Into U feat. sheidA」(『INTERWEAVE』収録)では、☆Takuさんとセッションしました。僕はDAW上に直接サンプルを並べて制作するタイプなのですが、☆Takuさんは後から音色を差し替えられるようにMIDI中心で作業されていたんです。しかも一つ一つのノートをグリッドから微妙にずらしていて、その細かさにとても衝撃を受けました。僕はどちらかというとグリッドにぴったり合わせるタイプだったので、☆Takuさんとのセッションはとても勉強になりましたね。

 

 

ビート・メイカーとしての信念

 以前は“今こんな音楽がはやっているからやりたい”というふうに考えていたのですが、近年はそれってどうなんだろう?と思うようになりました。というのも、僕らビート・メイカーや音楽クリエイターは良くも悪くも世の中のトレンドの先端を行き過ぎていることが多く、一般リスナーの目線に立てていないことがあるのです。RADIO FISH「PERFECT HUMAN」がヒットしたのは2016年。当時は初期のアゲアゲなEDMからカイゴなどのトロピカル・ハウスにトレンドが移行していた時期でした。だから僕はチル系のEDMを作りたいと中田(敦彦)さんに提案したのですが、彼は“いや、まだ俺が全然アゲアゲなEDMだから、世間もきっとそうだよ”って言ったんです。とりあえず中田さんの意見を取り入れて「PERFECT HUMAN」をリリースしてみたところ、NHK紅白歌合戦に出場できるまでヒットしたので、あまりトレンドにこだわる必要は無いんだなと思うようになりました。

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スタジオ内に設置されたボーカル・ブース。マイクはNEUMANN U 87AIやASTON MICROPHONES Spiritなどを主に使用する

「After Rain(feat. claquepot)」(『INTERWEAVE』収録)について

 こういう経緯もあったため、「After Rain」ではTeddy君(TeddyLoid)と相談し、“あえて今トロピカル調のEDMをやろう”となったんです。その結果、現在この曲がアルバムの中で一番再生されているんですよ! だから“ヒットするかどうか”というのは、必ずしも“最先端のトレンドに乗っていなければいけない”ということではないんだなって思いますね。

 

若いビート・メイカーへのメッセージ

 いろいろな楽曲を聴きましょう。“自分は才能がある”と思う人は別ですが、そうでない人は他人の楽曲を参考にしたり、インスパイアされたりしてビート・メイキングするとよいです。それをパクリだとか言う人も居ますけれど、そこで自分のカラーを出して行けばいいんですよ。“あの曲とこの曲をうまくミックスしたのは自分しか居ない”って思えればOK。それが自分の“オリジナル”となるんです。

 

JUVENILEを形成する3枚

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『Y.M.O. Best Selection』
YELLOW MAGIC ORCHESTRA
(アルファ)

 「シンセを好きになったきっかけはY.M.O.。どの作品も素晴らしいため“この1枚”を挙げるのは難しいのですが、このベスト盤は僕が小学生のころに聴いていたものです」

 

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『V.I.P. プレゼンツ・ウエストサイド・クルージン』
V.A. 
(ユニバーサル/現在この商品は未発売)

 「中高生のとき、ウェッサイ系のヒップホップに傾倒する機会となったアルバム。収録曲『アイ・ラヴ・カリ』では、イントロからフィンガズのトークボックスが炸裂します!」

 

『GAME』
Perfume
(徳間ジャパン)

 「作曲からレコーディング/ミックスまでを一人でこなす中田ヤスタカさんのスタイルにあこがれて、今の自分があります。中でも、この作品はよく聴いたものの一つです」

 

JUVENILEのNo.1プロデューサー
ドクター・ドレー

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Photo by Scott Council

 ラッパー/実業家など複数の顔を持つ、カリフォルニア生まれのヒップホップ・プロデューサー。上モノとビートのバランス感が素晴らしく、低域の存在感も別格です。彼が手掛けたヒット曲は2パックの「カリフォルニア・ラブ」をはじめ、枚挙にいとまがありません。どの曲も極限まで音数がシンプルなためか、それぞれのパートの音作りが素晴らしいです。そういった意味では、僕の制作した「PERFECT HUMAN」は彼のスタイルを参考にしたと言えます。

『2001』
ドクター・ドレー
(ユニバーサル)

 

JUVENILE

【Profile】東京出身の音楽プロデューサー/DJであり、エレクトロ・ユニットOOPARTZのメンバー。RADIO FISH「PERFECT HUMAN」のほか、韓国のバンドCNBLUEや声優の福山潤などの楽曲を手掛ける。フィンガズの来日公演では、トークボックス・プレイヤーとして共演も果たす。

【Release】

『INTERWEAVE』
JUVENILE
(HPI Records)