Linn Mori - Beat Makers Laboratory Japanese Edition Vol.24 〜対旋律は脇役のような扱いをされがちですが 自分は“ 両方主役” だと考えているんです

音楽プロデューサ Linn Mori

【Profile】音楽プロデューサー。STUTSやAru-2らが在籍したイベント、EN-TOKYOに初期より参加する。2014年フランスのCascade Recordsからアルバム『Sail To The Moon』でデビューし、自身の作品以外にも野田洋次郎のソロ・プロジェクトillionのリミックスなどを手掛ける。

Release

Ria - Single

Ria - Single

  • haruka nakamura x Linn Mori
  • エレクトロニック
  • ¥255

  エレクトロ/チル/ローファイ・ヒップホップなどを得意とする気鋭のビート・メイカー、Linn Mori。今年5月に最新作『Digital Church』を発表し、9月2日にはポストクラシカルを代表する音楽家haruka nakamuraとのコラボ・シングル『Ria』をリリースするなど幅広く活動している。今回は、彼のミックス/マスタリングを長年手掛けるエンジニア、野口良太氏が有するRiverside Studioにて話を聞いた。

Text:Susumu Nakagawa

他人の楽曲の一部だった音が
最終的にオリジナルの一部になる面白さ

キャリアのスタート

 小学5年生くらいのときに、BUMP OF CHICKENがきっかけで音楽を好きになりました。それから洋楽に興味が湧いてエイフェックス・ツインやオウテカにハマり、エレクトロニカやIDMなどの音楽ジャンルも聴くようになったんです。同時に中学1、2年生のときからギター教室にも通い出し、ニルヴァーナなどオルタナティブ・ロックのコピー・バンドもやっていました。バンドは高校卒業後に解散し、そこから自分はヒップホップへシフトしていくんです。確か当時のサンレコに“プレフューズ73がサンプリングしている”と書いてあり、サンプリングについて調べていくうちにJ・ディラやザ・ノトーリアス・B.I.G.などのヒップホップ・アーティストを好きになっていったように思います。

千葉県にあるRiverside Studio。スタジオのオーナー/エンジニアである野口良太氏は、ここでLinn Moriの2nd『Invisible Vision』のマスタリングと、3rd『Digital Church』のミックス/マスタリングを手掛けている。DAWのSTEINBERG NuendoをWindowsマシンに立ち上げて使用する。写真の中央手前に見えるのは、専用プラグイン・コントローラーのSOFTUBE Console 1だ。Nuendoの操作にも使っている

サンプリングの醍醐味

 初めてザ・ノトーリアス・B.I.G.「 SKY'S THE LIMIT」という曲を聴いたとき、“ヒップホップってこんなにメロウな曲もあるんだ!”と驚きました。この曲の上モノはマリンバやギターのサンプリングだったのですが、これらがとにかく優しいサウンドで、一発で好きになったんです。それからサンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLを買い、サンプリングのやり方を勉強していきました。サンプリングで面白いのは、もともと他人の曲の一部だった音が、最終的には自分の曲の一部になっているところ。最初はただのワン・ループなんですが、それにドラムやベースなどを足していくと、最終的にオリジナルの曲になるのが面白いんです。また曲のどの部分をサンプリングするのかもセンスが問われますし、サンプリングしたオーディオをスライスして再構築したり、ピッチを変えたりすることもできます。そういった部分が意外とクリエイティブで楽しくて、ビート・メイキングにのめり込んでいったんです。

ターニング・ポイント

 レコード・ショップを巡って購入した音源を元に即興でビートを作るイベント=EN-TOKYOで出会ったビート・メイカーのBugseed 君から、あるとき“フランスのCascade Recordsに音源を送ってみなよ!”と言われたんです。とりあえず送ってみたらリリースが決まり、あっという間に予約のみで完売となりました。そこから一気に音楽家として自信が付き、リスナーも増えたように思います。海外アーティストからコラボレーションの依頼もたくさん来るようになりました。その後NHKの番組で特集されたり、野田洋次郎さんのソロ・プロジェクト=illionの2ndアルバム『P.Y.L』にリミキサーとして抜擢されたりするなどして現在に至ります。

機材の変遷

 ヒップホップにハマってからは、本当にいろいろなサンプラーを買いました。MPC2000XLから始まり、AKAI PROFESSIONAL MPC60 MKIIやS950、S1000、E-MU SP1200などです。ほかにはシンセサイザーのARP Odyssey Rev.2や、コーラス/エコーのROLAND RE-301なども持っていました。ピート・ロックやJ・ディラなど、1990年代ヒップホップのビート・メイカーたちのサウンドを求めて、彼らと同じ機材を買っていたんです。現在はAPPLE MacBook ProとDAWのABLETON Live、MIDIコントローラーのAKAI PROFESSIONAL MPK Miniのみでほとんどの制作が完結。DAWは、譜面の制作用にAPPLE Logicを使うこともあります。楽器を録音する際は、オーディオI/OのZOOM TAC-2を使っていますね。

デスクの左側には、上からモニター・コントローラーのDANGEROUSMUSIC Source(左)、ヘッドフォン・アンプのUMBRELLA COMPANYBTL-900(右)、デジタル・マスター・レコーダーのKORG MR-2000S、クロック搭載型AD/DAコンバーターのANTELOPE AUDIO Orion、ミックス・バスのBURL AUDIO B32 Vancouverを装備している

NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S25

メロディ/リズム/コードごとにアイディアを整理し
良い組み合わせをトライ&エラーで見付けていく

モニター環境

 近年は、カフェにMacBook ProとMPK Mini、密閉型ヘッドフォンのAUDIO-TECHNICA ATH-W3000ANVを持ち込んで作業しています。カフェで作業するポイントは、時間の制限があるためより集中できるというところ。制作時のモニタリングはATH-W3000ANVで行い、ミックスの確認用としてモニターのFOSTEX PM0.4NやMacBook Proのスピーカー、APPLE iPhone 付属のイヤホンを用いています。

モニターには、FOCAL Twin 6 Be Red を採用

Linn Moriのビート・メイキング術

 普段の生活においてアイディアをひらめくと、すぐにiPhoneのボイスメモで録音するのですが、制作時はそれらをメロディ/リズム/コードごとに分け、パズルのように組み合わせて曲を作ることも多いです。さまざまな組み合わせをトライ&エラー方式でどんどん進め、良い組み合わせを見付けたら、それを中心にビートを構築していくのが面白いですね。

リズムの理論

 メロディとハーモニーに関しては、“この音とこの音を組み合わせるとこういった響きになる”という理論がありますが、リズムに関してはいろいろ調べても見付かりませんでした。なので、リズム・パターンを構成する最小要素=リズムのモチーフ同士を“こう組み合わせたら心地良い”というところにフォーカスした“リズムの理論”をまとめられるように、今後は研究してみたいと思っています。

最新作『Digital Church』について

 どちらかというとこの作品は、理論より感覚に任せて作業を進めました。こだわった部分は主旋律と、裏メロとも言われる対旋律の関係性。対旋律は割と脇役のような扱いをされるため、曲中でも控え目にミックスされがちだと思いますが、本作では“両方主役”というふうに自分は考えています。なので野口さんには、“両者の存在感は同じくらいにミックスしてください”と頼んだのです。ぜひ本作を聴くときは、対旋律と主旋律が重なる美しさに注目しながら聴いてもらえるとうれしいですね。

グルーブの秘けつ

 曲調にもよりますが、ドラムやベースなどにちょっとしたゴースト・ノートを入れること。あとはJ・ディラのように、グリッドに合わせず感覚的にビートを打ち込んでいくことです。ベロシティだけでもグルーブが出せるので試してみるといいでしょう。

使用音源など

 ドラムにはサンプル素材を用います。サンプリングした上モノは、Liveのソフト・サンプラーSamplerやSimplerで読み込んでスライスしたり、“ワープ機能”を使ってタイム・ストレッチを施したりしていますね。そのほか、ベースやギターなどは自分で演奏していることが多いです。ちなみに『Digital Church』に収録された水の音には購入したサンプル素材を用いていますが、今回、曲のアクセントとしてうまく活用できたと思います。

ソフト・シンセのSPECTRASONICS Omnisphere。Linn Moriは、「デジタルなのに生っぽい音色が好きです。最新作では、ピアノやシンセ、ベルなどの音にOmnisphereを使っています」と語る

お気に入りのアンプ・シミュレーター・プラグイン、IK MULTIMEDIA Amplitube Fender Collection に収録の'65 Twin Reverb

パーカッションによく使うソフト音源は、TOONTRACK EZ Drummer 2だそう。中でも、ラテン系のパーカッション・キットを多用している

これまでを振り返って

 地道にコツコツと作品を発表し続けていれば、必ず何かしらのアクションが起こり、自分の周りの世界が変化します。これは音楽を始めたときから今日まで、自分自身がひしひしと感じていることです。ぜひ、皆さんもあきらめないでください。

 

自分を形成する3枚

Secret Story

Secret Story

  • パット・メセニー
  • ジャズ
  • ¥1630

 「人生で初めて聴いたジャズ・アルバム。フュージョンや民族音楽の要素も強く、強く衝撃を受けた作品です。中学生のときに、ギター教室の先生がお薦めしてくれました」

 

Sky's the Limit (feat. 112) [2014 Remastered Version]

Sky's the Limit (feat. 112) [2014 Remastered Version]

  • ノトーリアス・B.I.G.
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes 

 「こちらは人生で初めて買ったレコード。上モノに使われたマリンバやスライド・ギターのサンプルがメロウで素敵です。112のハーモニーも曲にマッチしています」 

 

Mama's Gun

Mama's Gun

  • エリカ・バドゥ
  • R&B/ソウル
  • ¥1731

 「J・ディラをはじめ、キーボーディストのジェームス・ポイザー、ドラマーのクエストラブ、ベーシストのピノ・パラディーノたちが参加する豪華な作品です」

 

自分のNo.1プロデューサー
J・ディラ

J・ディラの遺作となった『ドーナッツ』(Stones Throw/2006年)のジャケット

 J・ディラはデトロイト出身のビート・メイカーで、主に1990年代のヒップホップ・シーンで活躍した人物。“ヨレたビート”のパイオニアとも言える存在です。それだけでなく、サンプリング・ネタの使い方、レイヤーやフィルター処理の仕方、またベース・ラインの作り方など、彼が遺した楽曲から学ぶべきところはたくさんあるでしょう。また、彼が使いこなしたサンプラーAKAI PROFESSIONAL MPC3000の野太いサウンドも特徴的ですので、皆さんも聴いてみてください。

Fan-Tas-Tic, Vol. 2

Fan-Tas-Tic, Vol. 2

  • スラム・ヴィレッジ
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp