CHOKKAKU × AKAI PROFESSIONAL S6000【後編】〜サンプラーは複数台で使ってナンボ!

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 国内屈指のアレンジャーCHOKKAKUがかつて愛用したサンプラー=AKAI PROFESSIONAL S6000。前編ではプログラムの作り方など基本を語ってもらったが、ここでは運用方法について聞く。S6000を使い制作された「Body and Soul」を聴きながら読み進めてみよう。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara

CHOKKAKU × AKAI PROFESSIONAL S6000【前編】はこちら:

サンプラー“3台使い”の理由

 実はCHOKKAKU、S6000を3台も所有していたのだとか。「一台をドラム・キット、もう一台をストリングス、最後の一台をブラス、みたいな感じで楽器の属性によって使い分けていました」と振り返る。

 

 「1980年代後期のS1000のころから、同じサンプラーを2~3台所有して使っていたんです。まずサンプラーのれい明期というのは、一台の中で同時に立ち上げられるプログラムの数が極めて少なかった。それにメモリーも非力だったので、複数のパートを一度に鳴らそうとすると台数が要ったんです。“MIDIの渋滞”と呼ぶべき問題もありましたね。音数が多いところとかで瞬間的に大量のMIDIが送り込まれると、発音に遅延が発生したり、バリバリ言って音にならなかったりする。一台に入力されるMIDIのデータ量を分散させる意味でも、何台か用意しておく必要があったんです。今回は1台のみの使用だったので、やはり厳しかったですね。S6000にはMIDI入出力が2系統あるから、“キック用のMIDIデータはMIDI IN A、第1バイオリンのデータはMIDI IN B……”というふうに振り分けて、ベストなバランスに収めました。実は当初、スネアが2拍くらい遅れて聴こえる個所もあったんですよ。“あれ、こんなところにスネア入れたっけ?”みたいな(笑)」

 

 先ほどメモリーの話が出たが、S6000のそれは標準で8MB、拡張時に最大256MBの容量となる。CHOKKAKUのS6000は最大拡張されたものだ。

 

 「S6000はストレージを内蔵していないんです。だから僕はSCSI接続の外付けHDDにプログラムを保存していましたし、今回もそこからメモリーに読み込みました。使用したプログラムは256MBも無かったけれど、ロードし終えるまでに10分以上もかかって……リビングへお茶を飲みに行けますよね(笑)。あと、当時はプログラムをHDDにセーブしようとすると20分くらいはかかっていましたから、途中でフリーズしないことを祈っていました」

 

 話を聞いていると、CHOKKAKUはS6000で生演奏の高度な再現を目指していたようにも思えるが、そこは「曲によりけりです」と言う。

 

 「打ち込みで生っぽくするというのは、生楽器の音が必要な曲に対してのことだし、そうでなければ“生なのかな? 打ち込みなのかな? でもこんなところでピッチ・ベンドがかかっているから打ち込みだ”というようなギリギリの線を狙ったりもしていました。S6000をトリッキーに使うことだってありましたよ。オケの2ミックスをサンプリングし、極端なピッチ・ベンドをかけてテープ・ストップのような効果を作ったり、ダンス・ミュージック系の曲ならチョップやテンポ・チェンジのために使ったりね。のちのハード・ディスク・レコーディングで当たり前のようになった手法が、S6000では既にできていたんですよ」

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S6000を操作する様子。液晶ディスプレイ&コントロール部が本体から分離し、手元で遠隔操作できるのが魅力だ

“生演奏の現場を見ること”が再現の肝

 今回アレンジしていただいた「Body and Soul」では、表現力豊かな打ち込みに耳を奪われる。

 

 「生楽器を録るのには慣れているので、どういうときにどういう音がするかっていうのも頭に入っているんです。例えば、スタッカートのブラスはアタックがものすごく速くて、なおかつ非常に短いんですよ。そういうのはレコーディングの現場を見ているからこそ分かることで。音量が下がるときに少しだけピッチ・ダウンしたり、白玉の次にアタッキーなフレーズが来るときは間にブレスが入ったり、生演奏にはさまざまな特徴があります。もちろん人間がやっていることだから、できることとできないことっていうのが常に共存していて。それをサンプラーとLogicで再現しようとしていたわけで、“このフレーズだと表情はこんな感じになるはず”とか考えながら打ち込んでいましたね」

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「Body and Soul」のトランペットには、APPLE Logic Proでピッチ・ベンドを。こういった処理の積み重ねで、音にヒューマンなニュアンスを加えている

 2000年以降はソフト音源にシフトしたCHOKKAKU。新しいツールにアンテナを張り続けている彼だが、あらためてS6000を使ってみてどのように感じたのだろう?

 

 「やっぱりセルフ・ノイズが多いですね。こんなに多かったっけ!?みたいな(笑)。本体の液晶も当時は大きく感じたけれど、久々に使ってみたら“画面ちっちゃ!”ってなりました(笑)。でも不思議ですよね。使い方に関しては何かのきっかけですらすら思い出して、意外とスムーズに操作できたんです。右手はこのボタンで左手は……という手の位置関係から、記憶がよみがえったのかもしれません。自転車の乗り方を一生忘れないのと同じなんでしょうね。思い返せばS900(1986年)からずっとSシリーズのファンだったので、新しい機種が出たらすぐに買っていたし、マニュアルを読まなくても操作できるほどでした。さっき話した通り各モデルを2~3台ずつ買っていたから、コストはかかりまくっていましたけどね。だからソフト音源の時代になって、なんてお財布に優しいんだと感じています」

 

 時代に沿って進化してきた音楽制作ツール。これから先、どのような製品が登場して現場を革新していくのか、楽しみに待つことにしよう。

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「Body and Soul」の制作で使われたS6000+DAWのシステム。DAWからのMIDIデータがMIDIインターフェースを介してS6000に入力されている。S6000からの音声出力は8系統で、オーディオI/O(AVID Pro Tools|MTRX Studio)に渡った後、イーサーネットを通してDAWにインプット

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今回CHOKKAKUが使用したMIDIインターフェースはNEKTAR TECHNOLOGY Midiflex 4。4つあるMIDIポートのうち2つはIN/OUTの切り替えが可能で残りの2つはOUT専用(機材協力:フックアップ)

 

CHOKKAKU × AKAI PROFESSIONAL S6000【前編】では、サンプリングCDから一音一音サンプリングし、プログラムを自作していたと言う当時の手法を振り返っていただきました。

 

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CHOKKAKU

アレンジャー/プロデューサー。SMAP、L'Arc~en~Ciel、真心ブラザーズ、Sexy Zone、King & Prince、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』など数々のヒット曲やサントラを手掛けてきた。近作としては、アレンジを担当したMISIA『Welcome One』(4月リリース)、複数曲でリズム・アレンジ+ギターにて参加した鷺巣詩郎『EVANGELION INFINITY』(7月リリース)などが挙げられる

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