高野寛 × TASCAM 246【前編】〜今のDAWとは異なるカセットMTRの制約とは?

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 1988年にソロ・デビューし、自身の活動だけでなくさまざまなアーティストとのコラボレーションやプロデュースを行ってきた高野寛。その創作の原点は、カセットを使った自宅録音だった。今回編集部は、カセットMTR、TASCAM 246での楽曲制作を依頼。懐かしさと新しさが同居するポップ・ソング「Play▶再生」を吹き込んでくれた。

Text:Satoshi Torii Photo:Takashi Yashima 機材協力:ティアック タスカムビジネスユニット

Featuring Gear|TASCAM 246

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 TASCAMのカセットMTRシリーズ、Portastudioの144、244、234などに続いて発売された4trカセットMTR。ミキサー部分の入出力は6イン/4アウトで、最大6ch分の入力を同時に録音することができる。各チャンネルに2バンドのパラメトリックEQやエフェクト・センド、パンつまみなどを搭載。デッキ部分にはマイコンによるリピート機能が付加され、テープ・スピードは9.5cm/sと4.8cm/sの2段階から設定できる。DBXノイズ・リダクションは全トラックでのオン/オフ、またはtr4のみのオフが可能。これによりtr4を同期などの信号録音に使うことができる。そのほかピッチ・コントロールなどの機能も搭載している。

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フロント・パネル。左から、ch1~6のマイク/ライン入力(フォーン)と、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)×2を搭載

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リア・パネル。左から、フット・スイッチ接続(フォーン)、リモート・コントローラー接続、DBX NRスイッチ(全チャンネル・オン/オフ、ch4のみオフ)、PGMバス入力(RCAピン)×4、PGMアウト出力(RCAピン)×4、モニター出力L/R(RCAピン)、エフェクト出力(RCAピン)×2、ch5/6のライン入力L/R(RCAピン)、ch1~4のテープ出力(RCAピン)、ch1~6のインサート入出力(ステレオ・フォーン)

246 Functions

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246の各チャンネルには2バンドのパラメトリックEQが搭載されている。高域は1~8kHz、低域が62Hz~1.5kHzの間で調節できる。ゲイン幅は±12dB

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モニターつまみはボリュームだけでなく、パンの調節も可能だ

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RECORD FUNCTIONスイッチを押し、録音するトラックを選択する

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レコーダー・セクション。MEMORY機能を使えば、任意のカウンターの値で停止や巻き戻しを行うことができる

 SPECIFICATIONS 
■使用テープ:カセット・テープ(クローム専用) ■オーディオ入出力:6イン/4アウト ■トラック形式:4tr、4ch片道録音/再生 ■ノイズ・リダクション:DBX NR ■ピッチ・コントロール:±12% ■外形寸法:500(W)×123(H)×401(D)mm ■重量:10.3kg ■価格:220,000円(1985年発売当時)

録音はルールがあるほど面白い

 カセットMTRを使って録音するというテーマを聞いて、すごく燃えるものがあったという高野。カセットとの付き合いは学生時代までさかのぼる。

 

 「僕自身はまずカセット・レコーダー2台でのピンポン録音から始まって、それからカセットMTRのTASCAM Porta Oneを使うようになりました。その後は、オープンリールの8trレコーダーFOSTEX R8、ADAT、MOTU Digital Performerと、本当に分かりやすいくらい正しい順序で(笑)。まさにサンレコの40年と同じように、僕も機材の変化を追いかけながら生きてきましたね」

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高野が愛用していた4trカセットMTRのTASCAM Porta One。発売は1984年で、当時の価格は99,800円。オーディオ入出力は4イン/2アウト。EQは周波数固定の2バンドで、同時に録音できるのは最大2trとなっている。電源アダプターのほか、単2電池×10本でも作動する。高野が大学時代にPorta Oneで作った曲を集めたアルバム『Nice Painting ! vol.0』(全40曲)をBandcampで聴くことができるので、そちらもチェックしてもらいたい

 

 246の使用は今回が初めてとのこと。その印象を聞いた。

 

 「Porta Oneとは別物でしたね。サイズも大きくて存在感があり、2ポイントを調節できるパラメトリックEQがあるなど、より自由に作ることができました。最初に試し録りしたときに、まず音像の大きさにびっくりしてダイナミック・マイクの直挿しでいこうと決めました

 

 その246を使って作られた楽曲のタイトルは「Play▶︎再生」。そこには、当企画のテーマも込められているという。

 

 「最初は「Rec」っていうタイトルの曲を作ろうと歌詞を書いていたんですが、2006年に書きかけていた「Play 再生」という曲の歌詞が出てきてこっちの方がいいなと。“はっぴいえんどフィーリングで”とメモがあったりして、要するに昔の東京の風景みたいなことですね。そういう過去や現在のこととかがいろいろと絡まったときに、Playを“再生”って言葉で訳しているのが面白いなって。“再び生かす”っていうのが今回のテーマに合っているなと思いました。だからPlayと再生の間には▶︎のマークを付けています」

 

 録音するに当たって、まずはルールを自らに課すところから始めた。それは、現在の録音環境とは全く異なるものだ。

 

 「大学1、2年生のころにやっていた方法で録るという縛りです。シーケンサーを導入する前のやり方で、リズム・マシンで1曲分のソングを打ち込んだ後にほかの楽器を全部手弾きで録る。今のDAWを使った録音って、制約が無いじゃないですか。トラックは無限で、編集でどうにでもできる。だからルールを決めないとカセットで録る面白みが無いんじゃないかと思いました。ただ、不便ですね(笑)。そういえば昔はこんなだったな、と。一度録音すると元に戻れないですから、消すときにも勇気が要ります。何度も録音しているとだんだんテープが劣化してくるので、早めに決着を付けなきゃいけないというプレッシャーも、良いテイクを残すためには大事ですね」

 

高野寛 × TASCAM 246【後編】では、 実際の制作工程をたどっていきます。アナログ・テープならではのソロ・ギター録音手法の解説も!

 

※高野さんがご自身のWebサイトで、今回の制作について触れています。こちらも併せてご覧ください。

 

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高野寛

1988年ソロ・デビュー。現在までにベスト盤を含む22枚のソロ・アルバムを発表。最新作は冨田恵一プロデュースの『City Folklore』(2019年)。ギタリストとしてもYMO、坂本龍一、高橋幸宏、細野晴臣、TOWA TEI、宮沢和史、星野源らをサポート。サウンド・プロデューサーとして小泉今日子、森山直太朗、のんなど数多くの作品に参加。Bandcampにてほぼ毎月未発表作品をリリース中

 Recent work 

『City Folklore』
高野寛
(SUNBURST)

 

40周年記念特集|温故知新〜今よみがえる”あのころの機材“

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