浅倉大介 × YAMAHA DX7II-FD & QX3【前編】〜テーマは1980年代&現代のハードウェアの融合

浅倉大介 × YAMAHA DX7II-FD & QX3【前編】〜テーマは1980年代&現代のハードウェアの融合

 TM NETWORKのサポートを皮切りに、accessのキーボーディストとして活躍してきた作編曲家/DJの浅倉大介。エレクトロな音色を多用したJポップやEDMを得意とする彼が、今回はFMシンセサイザーのYAMAHA DX7II-FDと、シーケンサーのQX3を用いた楽曲「Sequenced Crossing」を書き下ろしてくれた。

Text:Susumu Nakagawa Photo:Hiroki Obara(except*)

Featuring Gears|YAMAHA DX7II-FD & QX3

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YAMAHA DX7II-FD

 1986年発売のFM音源方式のデジタル・シンセサイザー。61鍵を備え、最大同時発音数は16だ。トップ・パネルにはピッチ・ベンドやモジュレーション・ホイールのほか、コンティニュアス・スライダーを2基装備し多彩な音色変化が可能に。またLFOマルチ・モードやステレオ・パン、マイクロ・チューニングなどの機能でより細かい音作りを実現した。本体にフロッピー・ディスク・ドライブを実装し、MDR機能も内蔵している。

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背面には、A/B2系統のアウトプットのほか、フット・コントローラー1&2、フット・スイッチ、サステイン・スイッチ(いずれもフォーン)、MIDI IN、OUT、THRUを備える

 SPECIFICATIONS 
■鍵盤数:61 ■音源方式:FM(6オペレーター、32アルゴリズム)×A/B ■最大同時発音数:16(シングル・プレイ時) ■メモリー:フロッピー・ディスク・ドライブ ■外形寸法:999(W)×85.8(H)×333.7(D)mm ■重量:11.2kg(本体) ■価格:298,000円

 

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YAMAHA QX3

 1987年に発売されたシーケンサー。分解能は1/96で、トラック数は16、レコード・エディット時では約24,000音を記憶することができる。また、3.5インチのフロッピー・ディスク・ドライブ(2DDタイプ)を搭載。なおQX3の開発には、浅倉大介自身もかかわっている。

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左からMIDI THRU、MIDI OUT2、MIDI OUT1、MIDI INに加え、TAPE OUT、TAPE IN、FOOT SW、クリック音を出力するためのCLICK(いずれもフォーン)、内蔵ディスプレイの明るさを調整できるCONTRASTノブを備える

 SPECIFICATIONS 
■トラック数:16 ■データ容量:512KB ■外形寸法:439(W)×80.9(H)×340(D)mm ■重量:4.4kg ■価格:158,000円

30年以上が経過した現在でも問題無く動作

 「久しぶりにDX7II-FDとQX3を立ち上げてみましたが、当時の感覚を取り戻すまでにかなり苦労しました。あのころはゴリゴリに使いこなしていたんですが(笑)」と話す浅倉。発売から30年以上が経過した現在でも、物理的な問題が無く動くことに感心しながらこう続ける。

 

 「今回、DAW自体をシステムに組み込むことも考えましたが、それは“甘え”だと思ったんです。せっかくなら当時のやり方でいきたいと。それでDX7II-FDとQX3を中心にシステムを構築してみました。それぞれのフロッピー・ディスク・ドライブがまだ動いていたのが幸いでしたね」

 

 デスクを見渡すと、DX7II-FDとQX3を中心にさまざまなハードウェアが並べられている。音源としてはDX7II-FDのほかにも、リズム・マシンのROLAND TR-6SやシンセのROLAND JU-06Aを用意したという。

 

 「実際にDX7II-FDを触っていると、16音ポリフォニックで同時に最大2音色までしか鳴らせないという縛りがあることに気付き、これ以外にもリズム・マシンとコードを鳴らせる音源があればいいなと思いました。いずれもQX3からMIDIで完全にコントロールしているんです。そんな流れから、今回は“1980年代の機材と現代の機材がつながったらどんなことになるのかな?”っていうのが、当初から僕の中にはテーマとしてありましたね。1987年に出たQX3が、2019〜2021年に発表されたJU-06AやTR-6SをMIDIケーブル1本で動かせることにあらためて驚きましたよ! 約30年ものギャップをMIDIがつないでくれるんですから」

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DX7II-FDとQX3の奥に設置された、現代のハードウェア群(写真中央)。DX7II-FDの音声信号には、MX-1に内蔵されたフィルターやスタッターなどのエフェクトを施している。浅倉は「DX7II-FDはもちろん、TR-6SやJU-06A、MX-1までもQX3で制御できていることがすごい。MIDIは本当によく考えられた規格だったんだなと、あらためて思います」とコメント

 DX7II-FDでは、シンセ・ベースとFM音源ならではのベルやエレピを鳴らしているそうだ。浅倉はこう説明する。

 

 「シンセ・ベースにかかっているスタッター・エフェクトは、最終段にあるデジタル・ミキサーROLAND MX-1によるもので、これもQX3からMIDIで制御してみました。ドラムを担うTR-6Sでは、シンプルな4つ打ちキックにスネア、ハイハット、リバース・シンバル、シンバル、タムを鳴らしています。JU-06Aのモデリング元となったROLANDのアナログ・シンセJuno-60/Juno-106は、DX7II-FDやQX3と同世代なのですが、今ではUSBケーブル1本で電源供給/MIDI/オーディオ出力ができるなど、現代の最新テクノロジーとともに復刻されているため、あえて今回のDX7II-FDやQX3と並べてみるのも面白いなと思いました」

 

 DX7II-FDのオーディオ出力を見てみると、片方はエフェクト・ペダルのLINE6 DL4につながれている。

 

 「DL4ではショート・ディレイをかけ、ステレオ感を演出しています。ベルやシンセ・ベースの高域成分を奇麗に聴かせるためです。そしてすべての音声信号はMX-1に集まり、モニター・スピーカーのIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitorから流れています。ちなみにこの曲のデモを作ったときは、結局MX-1のメイン出力をDAWへ流し込む形になりました……これも現代ならではですよね(笑)」

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「Sequence Crossing」の制作のために組まれたシステム。下段には1980年代のシンセDX7II-FDとシーケンサーQX3を、上段には2010〜2020年代の音源やミキサー、モニターなどを配置している。QX3とDX7II-FD、TR-6S、JU-06A、MX-1はMIDIケーブルで、JU-06AとMX-1はUSBケーブルで接続。DL4では、DX7II-FDのシンセ・ベースの高域成分やベルの音にショート・ディレイをかけてステレオ感を演出している

 

浅倉大介 × YAMAHA DX7II-FD & QX3【後編】では、 現代のソフト・シンセでは再現できないDX7II-FDのサウンドなど、制作過程で気付かされたハードの強みに迫ります。

 

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浅倉大介

プロデューサー/作編曲家/DJ。貴水博之とのユニットaccessのキーボーディストとしても活動する。1985年よりYAMAHAシンセサイザー・ミュージック・コンピューター部門でシステム開発に従事。またTM NETWORKのサポート・メンバーとして、マニピュレーターやキーボーディストを務めた。T.M.Revolutionのヒット曲「HOTLIMIT」「WHITE BREATH」などを手掛けたことでも知られている。

 Recent work 

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『Sequenced Crossing』
浅倉大介

40周年記念特集|温故知新〜今よみがえる”あのころの機材“

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