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HERITAGE AUDIO 73JR II / 73EQ JR レビュー:ローカット搭載のマイクプリと3バンドEQのAPI 500互換モジュール

HERITAGE AUDIO 73JR II / 73EQ JR レビュー:ローカット搭載のマイクプリと3バンドEQのAPI 500互換モジュール

73JR II︎(写真左)、73EQ JR

 HERITAGE AUDIOはスペインを拠点とするプロ・オーディオ・メーカー。レコーディングの黄金時代を復活させ、それを21世紀のスタジオに適応させる、という社訓を持つ頼もしいブランドである。今回は同社からAPI 500互換モジュールのマイクプリである73JR IIとEQモジュールの73EQ JRが届いた。早速スタジオで試してみよう。

73JR IIはクリーンな中低域でクッキリとした音像

 73JR IIと73EQ JRは、共にパネル・カラーがNEVE 1073そのものの色であり、現行のAMS NEVE 1073LBよりも渋みがあってはるかに雰囲気がある。ボリュームつまみはMARCONI製で、感覚的にはオリジナルそのもの。この配色を筆者は“ジャイアントロボ・カラー”と呼んでいるのだが、HERITAGE AUDIOのこだわりを感じる。

 

 そのこだわりは設計にも出ており、トランスにCARNHILL製のVTB2513を使用。側面に真っ赤なトランスの姿が燦然(さんぜん)と輝いている。基盤や配線もとても丁寧で奇麗な作りだ。各つまみのトルク感もしっとりとしていて申し分ない。スイッチを押した感じもきちんとロックする手応えがある。

 

 今回のレビューでは、製造から年月の経過したビンテージ機種との比較もナンセンスと感じ、筆者愛用の1073LBと比較。マウント・ボックスはAPI 6-Slot Lunchboxを使用した。

 

 まずはマイクプリの73JR II。入力ゲイン・ノブは1073LBと比較すると若干剛性感に欠けるものの、カチカチと小気味良く設定できる。入力ゲインは−30dBから。その下に、マイク入力インピーダンスを1.2kΩから300Ωに切り替えるLOZ、PAD、ライン入力の切り替え、48Vファンタム電源、位相反転、ローカット・フィルターの各スイッチに、ローカットの周波数と出力ゲインつまみ、そしてDI入力端子という配列だ。73JR IIの優れたところは、このローカット・フィルターだと感じる。20〜220Hzとバリアブルに設定でき、モニターしながら不必要な低域をカットできるようになっている。

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73JR IIの出力ゲインつまみと、ローカット・フィルターの周波数変更つまみ。ローカット・フィルターの周波数は20〜220Hzの間で変更可能だ

 ボーカル、アコースティック・ギター、バイオリン、そしてエレキベースをDI入力で試してみたところ、共に音調は極めてスムーズな印象。オリジナルの1073では中低域が若干もたつくかな……という部分もあるが、とてもクリーンな音である。中域の張り出し感は適度に充実していて粘りもある。この辺りは1073LBに近い音だ。高域はとても天井が高い印象を受け、声の倍音やギターを爪弾いた瞬間の粒立ちを見事にとらえてくれた。歌声がまとう湿度感は十分で色気も感じる。

 

 バイオリンでも倍音が非常に豊かで、弓が弦をこする様子までも極めてリアルに描写する。1073LBでは良い意味でなじむサウンドであったが、73JR IIは輪郭がくっきりと表現されながらも耳に痛い部分が少なく定位がしっかりと出た。

 

 エレキベースでのDIの使用感は、粘りがありながらもかなりかっちりとした音の印象だ。低域が若干薄く感じられるものの、出ている範囲の周波数は感触良好で、好ましい弾み方。FENDER Jazz Bassの5弦であったが、楽器の持つ帯域と73JR IIの得意とする帯域が重なってオケの中での音像がクッキリとしてポジションを作りやすかった。

73EQ JRはハードなEQ設定でも音が破たんしない

 EQモジュールの73EQ JRは、上からライン入力ゲインつまみ、EQのオン/オフ・スイッチを搭載。以下、Hi/Mid/LowのEQは同軸上に周波数セレクトとゲインつまみを持ち、オリジナルの1073とほぼ同配列のBaxandallタイプだ。異なる部分は高域の周波数が1073では12kHz固定のシェルビング・タイプのため“プレゼンス”のコントロールという感じであるが、73EQ JRでは10/12/16/20kHzからセレクトでき、より細密なコントロールができる。この辺りはNEVE 1084のEQから採用したアイディアかもしれない。

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73EQ JRの高域を設定するゲインつまみと、周波数変更ノブ。周波数帯域を10/12/16/20kHzの4段階から設定することができる

 EQの感じはどの帯域もガッツリと効くタイプではなく、あくまで1073のようにゆる〜くスムーズであるものの、音の変化は1073LBよりもはっきりと分かる。また、高域の周波数がセレクトできることにより、より中域の音作りに幅ができた印象を受け、Baxandallタイプの恩恵を感じた。

 

 ボーカルでは、高域を20kHzに設定して持ち上げていくと、実にシルキーな倍音表現ができる。これはアコースティック・ギターやバイオリンでも同じ印象である。特にバイオリンにおいては、20kHzを適度にブーストしてから1.6kHzを大胆にカットすることで、ボーカルを邪魔しない王道ポップスのバイオリン・サウンドが得られた。かなりハードなイコライジングでも音が破たんせず、極めて音楽的な表現というのが1073の音作りに似ている。そこを理解して作られているのだろう。

 

 両製品に共通して言えることは、SN比がとても良いこと。内部に+24Vのスロー・ターン・レギュレーションが実装され、電源の負荷を補っているとのことである。また、恐らく機体のスペースの関係だと思うが、73JR IIの方にローカット・フィルターを備えている。このことを考えるとやはりこの2台を組み合わせて、1073のようなチャンネル・ストリップとして使うことを前提にしているのだろう。

 

 今回73JR IIと73EQ JRを使用してみて、筆舌に尽くしがたい上質さがあることが分かった。外見こそ1073だが現代のデジタル・レコーディングにフィットし、バランスを崩したり嫌な成分を出したりする場面が一切無い優秀さ。瞬発力や押し出し感も十分でありながら透明なガラスに包まれたようなクリアさを持つ。もはやクローンという位置付けでは無く、独自の音を持つ唯一無二の機材に昇華していると感じた。

 

山内”Dr.”隆義
【Profile】井上鑑氏や本間昭光氏、服部隆之氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中。

 

HERITAGE AUDIO 73JR II / 73EQ JR

オープン・プライス

(市場予想価格:121,000円前後/73JR II、134,200円前後/73EQ JR)

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SPECIFICATIONS
●73JR II
▪入力インピーダンス:1.2kΩ@Hi、300Ω@Lo(マイク)、10kΩ(ライン)、2MΩ以上(DI) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪最大ゲイン:80dB以上 ▪等価入力ノイズ:−125dBu以下 ▪重量:1.13kg(実測値)

●73EQ JR
▪入力インピーダンス:10kΩ ▪最大ゲイン:6dB ▪重量:1.2kg(実測値)

●共通項目
▪出力インピーダンス:75Ω以下 ▪最大出力レベル:+26dBu以上(600Ω) ▪高調波ひずみ率:0.025%@1kHz、0.05%以下@100Hz ▪外形寸法:37(W)×133(H)×176(D)mm(実測値)

製品情報