「HERITAGE AUDIO HA-609A」製品レビュー:ダイオード・ブリッジ仕様のNEVE 33609系2chコンプ/リミッター

HERITAGE AUDIOのコンプレッサー/リミッター「HA-609A」

 業務用オーディオ機器市場において、もはや一つのカテゴリーとなっている“ビンテージNEVEクローン”。数多くのメーカーがしのぎを削る中、ハイクオリティかつコスト・パフォーマンスに優れた製品で注目を集めるHERITAGE AUDIOよりステレオ・コンプレッサー/リミッターHA-609Aが発売されました。NEVE 1073をはじめとするプリアンプと比べ、ビンテージNEVEコンプレッサーをシミュレートした機材は少ないので、期待が高まります。

完全ディスクリートのクラスA設計
現代のミックスを意識したスレッショルドの設定幅

 HA-609Aは、その名から察する通り、NEVE 33609にインスパイアされた製品でしょう。33609といえば、クリーンで安定感のあるコンプレッションと腰の入ったファットな質感で、レコーディング・スタジオや放送局で今もなお絶大な信頼を得ている名機。筆者も日ごろから録音/ミックスを問わずさまざまな場面で愛用しています。今回は弊社サウンド・ダリ所有の33609/Bと比較しながらチェックします。

 

 まず目を引くのはそのデザイン。オリジナルの33609とは違い、1073などで採用されている“マルコーニ”と呼ばれるノブが使われています。全体的に大ぶりなツマミや、バイパスにするとライトが消灯するリダクション・メーターなど、視認性/操作性ともに抜群です。

 

 それでは早速サウンド面をチェックしていきましょう。HA-609Aはダイオード・ブリッジ仕様のステレオ・コンプ/リミッター。完全ディスクリートのクラスA設計で、各チャンネルには3つのCARNHILL製トランスが実装されています。33609同様にデュアル・モノとしても使用できますが、まずはステレオ・モードでミックス・バスに使用してみましょう。

 

 生楽器のバンド曲をソースに、RATIOを2:1、RELEASEはA1(オート設定で、通常500ms、ピーク検出時は50ms程度に相当)に設定し、1~2dBほど軽く振らせるようスレッショルドを調節します。まずリミッターはオフにして、コンプレッサー・セクションの実力をチェック。第一印象として、とても音が良いです。オリジナル33609と比べやや華やかな印象。とは言え腰が高いわけではなく、33609特有のファットで引き締まった低域のコンプレッション感が確実に感じられ、実に心地良いです。さらにスレッショルドを下げていって、ガンガン振らせても、聴感上のダイナミクスはしっかりとキープしたままレベルはしっかりと抑えてくれます。 

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コンプレッサー・セクションのTHRESHOLDは、−20〜+20dBuの範囲で調整可能。RATIOやRELEASE、GAIN MAKEUPといったノブは、マルコーニ・タイプのものを採用

 チェックするソースを派手で現代的な打ち込み曲に変更して再度チェック。リリース・タイムを100msに設定して同じように振らせてみましたが、こちらもとても好印象で、狙い通りのところにしっかり着地させることができます。触っていて分かってくるのが、固定のアタック・タイムの設定が実に絶妙であること。聴感上の楽器のアタックを気持ち良く残してくれるので、しっかりコンプレッションしていってもソースの音色やバランスが壊れることなく楽器同士がまとまっていきます。

 

 また、33609との大きな相違点として、スレッショルドが−20〜+20dBuとなっています(33609は−20~+10dBu)。これは現代の高い音圧のミックスでの使用を意識してのことでしょう。クラシカルな質感と現代的な使用感のハイブリッドな仕様で、大変使い勝手が良く、重宝すること請け合いです。

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リア・パネルには、2系統の入出力(すべてXLR)を備えている

最終段を安心して任せられるリミッター
クリーンでファットなコンプレッション

 リミッター・セクションもチェックしましょう。ここでも33609同様に鉄壁のリミッティングで、驚くほどしっかりメーターが止まります。コロナ禍の中、爆発的な勢いで配信ライブの現場が増えていますが、これなら安心して最終段を任せられそうです。こちらのスレッショルドは0~20dBuとなっています。

 

 個々のトラックでもチェック。まずはドラム・バスに使用してみました。出来の悪いコンプレッサーだと、深くコンプレッションするとやせ細って迫力の無いドラム・サウンドになることもしばしばですが、HA-609Aではそういったことは皆無。キックのアタックの締まり方、スネアのリリース具合はとても33609に近く、今回のソースではRATIOを3:1、RELEASEを100msにすることで、素晴らしいドラム・サウンドが聴けました。

 

 同じく、ステレオ・モードでアコースティック・ピアノ、デュアル・モノでエレキベースといろいろなソースでチェックしたところ、どれも原音の魅力を損なうこと無くクリーンでファットなコンプレッションが味わえました。録音段階からガンガン使っていきたい出来の良さです。

§

 33609好きの筆者としては思わず熱が入ったチェックになりましたが、ミックス・バスで使ったときの、唯一無二の座りの良さ、まとまりの良さをこの価格で実現できるのは本当に素晴らしいことだと感じます。プラグインのみのミックスに不満を持っている方にはぜひ試してみていただきたい一台です。 

大野順平
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、baroqueや榊いずみ、浜端ヨウヘイ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

 

HERITAGE HERITAGE AUDIO HA-609A

オープン・プライス(市場予想価格:220,000円前後)

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SPECIFICATIONS ▪最大入力レベル:22dBu以上 ▪最大出力レベル:26.5dBu以上@600Ω ▪セルフ・ノイズ:−75dBu以下(20Hz〜20kHz、−80dBu) ▪全高調波ひずみ率:0.07%@20dBu(バイパス時) ▪周波数特性:15Hz〜30kHz(±0.5dB) ▪入力インピーダンス:10kΩ ▪出力インピーダンス:75Ω以下 ▪外径寸法:481(W)×86(H)×203(D)mm ▪重量:4.3kg

製品情報

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