皆様こんにちは、和楽器バンドの町屋です。連載第3回を迎えました今回は、楽譜エディタの利用法とオーディオ・レコーディングのさわり辺りまでを紹介していこうと思います。
楽譜を作成してデモの内容をメンバーと共有
ここまでの連載でもご紹介してきた通り、僕は最初に導入したDAWがAVID Pro Toolsでしたので、MIDI機能が強化されてからは基本的にサード・パーティ製品を使わずに、Pro Toolsのみで打ち込みを完結させるようにしてきました。また、これも前回までの記事の通りですが、デモ制作では、決め打ちのフレーズは和楽器も含めてすべてAIR Xpand!2を音源として打ち込みで作り、それ以外の部分はコピー&ペーストしたコード・トラックにXpand!2のアルペジエイターを使用して間を埋めるという手法を採っています。
このような工程でデモを完成させたら、次は各楽器のレコーディングを行うために、Pro Toolsの楽譜エディタで楽譜を作成し、そのPDFをメンバーに共有しています。楽譜といっても、調号や決め打ちのフレーズ、コードなどの情報を読み取れれば十分なので、あとは口頭や文字で説明を付け加えていくというやり方です。
では手順を説明していきましょう。楽譜エディタを開く前に、まずはPro Toolsのイベント・メニューから“キー変更”を選択します。すると、キー変更画面が開くので、“範囲”の項目で楽曲の冒頭の位置を入力して、長調か短調を選び、あとは左に並んでいる調号のリストから目的のキーを選択して“OK”をクリックすれば設定は完了です。以降、転調する場合は該当小節に同様の方法でキーを設定していきます。
次に、ウィンドウ・メニューから“楽譜エディタ”を選択して表示します。目的のトラックを選択してから楽譜エディタを開くと、そのトラックの楽譜が表示されます。今回は和楽器隊と譜面を共有したいので、尺八、三味線、筝のそれぞれの決め打ちフレーズのトラックを選択。複数選択すると、それだけ楽譜の段数が増えていくことが分かるでしょう。また、コードに対して各パートがどういった動きをしているのかを、それぞれのプレイヤーに認識してもらうことも重要なのでコード・トラックも選択します。
ここまでで合計4トラックを選択しました。あとは楽譜エディタ画面のタイトル部分か“作曲者”のエリアをダブル・クリックします。すると楽譜設定画面が表示されるので、ここでタイトルと作曲者名を入力すれば設定はほぼ完了です。あとはプリントの設定を行います。プリントといっても実際にはPDFを書き出すのですが、楽譜設定画面の“レイアウト”の項目で用紙サイズなどを選んでから、次にファイル・メニューの“楽譜印刷”を選択して、プリント画面を開きます。ここから先は一般的なソフトウェアと同じです。OSによって違いはあると思いますが、紙にプリント・アウトするのではなく、PDFを書き出す項目を選べば譜面データ作成は完了です。
ボーカル・レコーディングおよびギターの役割について
さて、ここまででMIDI打ち込みによるデモ作成はひと区切りついたので、ここからはレコーディングの話に移ろうと思います。和楽器の録音は完了したと仮定させていただけば、次はギターを入れない状態、もしくは軽く仮ギターを入れた状態で歌を先に録ります。その際は、対象の声の特性を把握した上で楽曲のイメージとすり合わせ、マイク、マイクプリ、コンプレッサーなどを選択していきます。
例えば、和楽器バンドのボーカル、鈴華ゆう子の場合であれば、以前はNEUMANN M 149 Tubeで太さを出す、もしくは繊細な表現が求められる楽曲はTELEFUNKEN Ela M 251を用い、マイクプリはMILLENNIA STT-1 Originで透明感のある感じも出しつつ、コンプのTUBE-TECH CL 1Bを自然にかけて録るというのが主流でした。
しかし、最近は声のキンキンした成分のさらに上が持ち上がるマイク、BRAUNER VM1を使用し、マイクプリにはAMS NEVE 1073DPDを使って太さを稼ぎ、その後にCL 1Bを通すという方法が主流になりました。これは最近の音楽シーンに合わせてレンジを広げつつ、ミックス時になるべくEQをしなくてもよい状態にすべくいろいろと試した結果です。
ボーカルを録音してエディットまで終わったら、やっとギターのレコーディングです。“なぜギターは最後なのか?”についてご説明しましょう。音楽は多種多様な要因から成り立っています。バンドやビッグ・バンド、オーケストラなどさまざまな編成がありますし、それらによって楽曲の雰囲気も異なってくるわけですが、そうした中においてギターは最も融通の効く楽器だと思っています。アコースティック・ギターからディストーションのかかったエレキギターまで、その振り幅を考えただけでも多彩な音色を出せることは容易にお分かりいただけるでしょう。つまり、ギターは最後に録った方が、それまでに録った楽器を生かした演奏ができると思うのです。
ギターの存在感を控えめにするのか、それともほかの楽器とイーブンにするのか、はたまたより前に出すのか、そしてそのためにどのギター、アンプ、エフェクターを使うのか、さらには弦のゲージはどうするのか、ピックで演奏するのか、それとも爪、あるいは指なのか、もっと言えばピックならば何の素材で何mmなのかなど、非常に多くの選択肢があります。ギターを最後に録ることで、それらの中から最適解を導き出すこと、そしてイメージした音色を再現することが最も容易になります。
アレンジ面でも、ほかの楽器のアンサンブルを踏まえて、足りない部分を補ったり、強く出したい部分をブースト、あるいは逆もまたしかりと、ギターを楽曲全体のバランサーとして最も有効に活用することができるのです。
なお、僕の場合はギターをアンプに直接入力して、その音をアクティブ・リボン・マイクのSONTRONICS Deltaで収音し、エフェクトはすべてDAW上で録った後からかけるのが基本です。
さあ、これでひとしきりトラックがそろったので、次回はミックスについてのお話をして結びにしたいと思います。
それではまた来月。
小雪の只中にて
町屋
町屋
【Profile】9月13日生まれ、北海道出身。幼少期よりギターをはじめ、インディーズでバンド活動を行う傍ら、ギタリストとして投稿した動画サイトでは圧倒的な人気を誇り、さまざまなアーティストのツアーやセッションに参加するなど多方面で活躍。アーティストへの楽曲提供も行う。和楽器バンドではギタリストとしてのみならず、数多くの楽曲で作詞作曲を手掛け、サウンド・プロデュースやアレンジ・ディレクション、サイド・ボーカルも務める。ステージ上で見せるギターの超絶プレイも人気が高い。
【Recent work】
『ボカロ三昧2』
和楽器バンド
(ユニバーサル)
AVID Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:12,870円|Pro Tools Studio:38,830円|Pro Tools Ultimate:77,880円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools|Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools|Ultimate搭載の機能を継続して利用可能
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)