2011年に創立された音響機器ブランドのWARM AUDIO。アメリカのテキサスを拠点にマイクやケーブルをはじめ、マイクプリやEQ/コンプレッサーといったアウトボード、エフェクト・ペダルといった、さまざまな製品を比較的リーズナブルな価格でリリースしています。今回は、往年の名機とされるマイクの一つ、AKG C12にインスパイアを受けた真空管マイク、WA-CX12を試してみましょう。
AMI/TAB-FUNKENWERK製カスタム・トランスをアウトプットに搭載
オリジナル・モデルのC12は、1953年から1963年までの10年間で約2500本程度しか生産されておらず、現在は中古市場での価格高騰も相まって、状態の良いものを入手するのがかなり困難なビンテージ・マイクの一つです。
WA-CX12は、マルチパターンの指向性を持つラージ・ダイアフラム真空管コンデンサー・マイク。想像していたよりも大きな外箱を開封すると、ツイード調のハード・ケースが現れます。さらに開けていくと、木製のケースに収められたマイク本体のほか、ショック・マウント、電源ユニットと電源ケーブル、そして5mの長さを持つ7ピン・マイク・ケーブルが同梱されています。この7ピン・マイク・ケーブルは、GOTHAM GAC-7 Tubeという、真空管マイクのために特別にデザインされたものらしく、こだわりを感じます。
WA-CX12本体の重量は、1.23kgとずっしり。外観も含めて全体的に高級感があります。真空管にはプレミアム12AY7を使用。また音の要であるカプセルには、C12のカプセルである“CK12”をお手本にしたCK12スタイルのものを採用し、ダイアフラムを囲むフレームの素材には、CK12同様に真ちゅうが使われています。
指向性についてもC12同様、無指向/単一指向/双指向に加え、無指向と単一指向の間でミックスされた指向性が3種類、そして単一指向と双指向の間でミックスされた指向性が3種類あります。つまり合計9種類の指向性を切り替えることが可能なのです。切り替えの操作は、電源ユニットのノブで行います。ちなみにこの電源ユニットでは、電圧を115V/230Vで切り替えることが可能です。
WA-CX12のアウトプット・トランスには、AMI/TAB-FUNKENWERK製カスタム・メイドのトランスが使用されており、“よくぞこの価格でここまでやってくれたな”という印象を受けます。
周波数特性は30Hz~20kHz、出力インピーダンスは200Ωで、PADスイッチはありませんが最大SPLは149dBなので大音量の楽器にも安心して使えるでしょう。
AKG C12に似た透明感のある大きな音像と鮮明かつナチュラルな質感のサウンド
それでは、肝心の音を聴いてみましょう。まずはWA-CX12を単一指向にして、女性ボーカルを録ります。素直で癖のない音です。透明感のある大きな音像はC12のキャラクターに似ており、音が前に張り付くような感じは他社のマイクに比べると“やや足りない”と感じる人もいるかもしれません。
なおC12は高域の倍音感に特徴があり、人によっては声と合わなくて扱いにくいケースもあるのですが、WA-CX12の場合はその倍音感が控えめなので収まりがよく、鮮明ですがナチュラルな質感。明るく伸びやかなサウンドです。
シビランスは多少目立ちますが、ディエッサーなどで十分に対応できるでしょう。周波数的なレンジ感が広く、中域からローエンドにかけてはフラットな印象。特定の帯域にたまりがなく、EQ処理したときの反応も良いので、コントロールしやすい音が録れるでしょう。
次に、指向性を単一指向のポジションから双指向側に一段階だけ動かしてテスト。単一指向に双指向の特性が付加されたため、中域が若干下がり、高域がややマイルドになりました。ボーカリストによってはこちらのセッティングの方が合う人もいそうです。
今度は、指向性を単一指向のポジションから一段階だけ無指向側に動かしてテスト。単一指向に無指向の特性が加わり、近接効果の低減によって低域はわずかに下がるものの、中域から上の帯域がよりフラットになります。コーラスにはこちらの設定の方が合うかもしれません。
このように、単一指向を基本としてレコーディングする場合でも、指向性を少し変えることで音質変化を得られるのがWA-CX12の魅力。WA-CX12は素直でリッチなサウンドなので、アコースティック・ギター、ベース、ピアノ、ホーンやストリングス、ギター/ベース・アンプ、さらにはオン・マイク/オフ・マイクなど、いわゆるラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクを使うケースであれば、かなり幅広く活躍してくれそうです。
WA-CX12は、C12をモデリングしているという話を抜きにしても、ハイクオリティなマイク。ショック・マウントやケーブルといった付属品なども含めると、とてもコスト・パフォーマンスに優れた製品なので、ステレオ使用するのにペアでそろえるのも良さそうです。プロはもちろんですが、宅録をしていてワンランク上のサウンドを模索している方にも、ぜひ一度試していただきたいマイクだと思います!
山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある。
WARM AUDIO WA-CX12
オープン・プライス
(市場予想価格:158,000円前後)

SPECIFICATIONS
▪形式:コンデンサー ▪カプセル:オール・ブラス製ビンテージCK12 スタイル・カプセル ▪指向性:単一指向、双指向、無指向、およびそれぞれのミックス6種類 ▪周波数特性:30Hz〜20kHz ▪最大SPL:149dB ▪外形寸法:50(φ)×295(H)mm ▪重量:1.23kg