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Pro Toolsでパラデータを調整してマニピュレート用セッションを作る方法|解説:イロハ

Pro Toolsでパラデータを調整してマニピュレート用セッションを作る方法|解説:イロハ

 こんにちは、作編曲家/エンジニアのイロハです。第4回は、リハーサルに入るまでのライブ・マニピュレートの下準備について話しました。連載最終回である今月は、実際にリハーサルに入ってからの調整や設定方法などについて説明していきます。今回も引き続き、僕がマニピュレーターとして参加しているウォルピスカーター氏の実際のセッションとともに解説していきましょう。

メモリーロケーションでライブ曲順変更もスムーズ

 音源のパラデータには、実際に演奏者が演奏するデータも含まれていることがほとんどです。そのため、まずはマニピュレーターが鳴らす音を、再度スタッフやバンド・メンバーとともに確認していきます。例えば、楽曲の中に複数の鍵盤パートがある場合は、どの音色を実際にキーボーディストが演奏するのか、マニピュレーターが再生させるのかを決めていきます。ほかには、ライブにギタリストが居ても、複雑なエフェクトがかかっているギターなど一部分だけをトリミングして再生するなどの調整を行います。

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ライブの同期用のセッションは、楽曲のパラデータから作成。一部をトリミングして、再生する部分以外はミュート状態にしている

 準備段階では、メモリーロケーションの場所をひとまず設定し、何曲か連続で演奏するときは間の楽曲のメモリーロケーションを省いたりします。また、クリックの開始位置が楽曲の頭の1小節前か2小節前なのか、同期再生から始まる楽曲なのかなどを打ち合わせをしながら調整していきます。その場合は、演奏の始まる1、2小節前にクリックやメモリーロケーションを設定します。

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クリック開始位置に合わせてメモリーロケーションを設置

 また、楽曲のセットリストはリハーサルを進めていくうちに変更になることも多く、下準備の段階でパラデータを並べた順番とは変わることも多いです。自分はメモリーロケーションを“時間で並べ替え”のチェックを外し、番号順で表示されるように設定しています。そうすれば、ツアーなどの同じ楽曲で順番を変えるライブにも、番号を変更するのみでパラデータやメモリーロケーションの位置を変えることなく対応できます。

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メモリーロケーション・ウィンドウの右上にある▼ボタンから“時間で並べ替え”のチェックを外すと、設定した番号順に並ぶようになる

 セッション内のオーディオ・データやテンポ情報の再設定は、意外に大変かつデータ自体がバラバラにずれてしまう危険性もあります。リハーサルや本番時には、APPLE iPadのリモート・コントロール・アプリAvid Controlのメモリーロケーション表示から操作しているため、事前に実際のセットリスト通りの曲順になるようにするのは、ミスを無くすためにも非常に重要だと思っています。

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APPLE iPad内のAvid Controlでメモリーロケーションを表示した画面。楽曲名の部分をタップで再生位置を移動させる

フリーズとコミットでCPU負荷を低減させる

 演奏が始まったら、同期再生と生演奏の両方を聴きながらボリュームやEQなどの調整を詰めていきます。

 広くない通常のリハーサル・スタジオで本番の音響を想定して仕上げるのはなかなか大変ですが、カナル型イアフォンなどで生音を遮断しながら行ったり、後でリハーサルの録音を聴きながら調整を行うなど、いろいろと工夫をしながら行っています。Avid Controlがあると、スタジオ内の一番調整しやすい場所で操作できるのでかなり重宝しています。

 ゲネプロがあり、広いスタジオで、PAエンジニアも居るような現場では、本番を想定した調整を行いやすくするために転がしのモニター・スピーカーをステレオで用意してもらいます。そして、PAの方には同期再生を聴きやすいバランスではなく、外音と同じバランスを聴かせてもらうように頼んでセットしてもらっています。本番と同じエンジニアがゲネプロにも居ることがほとんどなので、この段階から音のバランスについて打ち合わせをしたり、ミキサーから録音したデータを後で聴いて微調整したりを必ず行うようにしています。

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ゲネプロで本番を想定したセット。セッションの入ったAPPLE MacBookとiPad、オーディオ・インターフェースやパッド・コントローラーを用意している

 本番前の最後のリハーサルが終わった段階で、プラグインを使用していたすべてのトラックにフリーズかコミットを行い、CPUの負荷を下げるようにしています。マニピュレーターは同期再生を本番で止めてしまったり、何かしらの遅延を発生させたりしてしまうのが最もNGです。そのため、なるべくさまざまな対策を行って、本番時にも常に変な挙動が無いかと、システムの使用状況を確認しながら行っていきます。

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CPU負荷を下げるために、トラック名上で右クリックをして、フリーズかコミットかを選択

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ウィンドウ>システム使用状況のウィンドウを表示させると、CPUやメモリーの使用状況を確認できる

Avid Controlでセッションをリモート操作

 本番前のライブ会場で行うリハーサルが、マニピュレーターにとって唯一音量バランスの確認をしっかり行うことのできる時間です。とは言え、限られた時間の中なので、僕は客席まで行って、スピーカーからの出音を確認しながら、スピーディに最後の調整をしていきます。

 リハーサルでの調整も本番の操作もAvid Controlを使用していてWi-Fi経由でのコントロールになるので、会場のWi-Fi環境は事前に必ず確認しています。ここで安定したWi-Fi環境が無い場合は、ポケットWi-Fiやスマートフォンのテザリングなども活用していきますが、広い会場だとステージから客席の奥の方まではなかなかつながりにくいです。そのため、毎回本番前のリハーサルではiPadを使わずに、割とダッシュで客席まで行って音を確認して、またステージに戻って調整して……という動きを繰り返しています(笑)。

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本番の会場であるZepp Osaka Bayside。筆者はゲネプロでシミュレーションしたセッティングを最終リハーサルの際に客席でチェックして、最終調整を行っている

 ここまででマニピュレーターの仕事の大半が終了しました。あとは本番になれば、基本的には楽曲を決められたタイミングでスタートしていく作業になります。ここでは書き切れませんでしたが、ほかにもリアルタイムでフィルターなどのエフェクトをかけたり、コンピューターにMIDIキーボードやサンプラー・パッドなどコントローラーを接続してポン出しを行ったりなど結構いろいろなことも行っています。

 

 今回まで5回にわたりAVID Pro Toolsのさまざまな機能について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか? 僕の場合は、Pro Toolsを作曲やミックスだけでなく、マニピュレートなど、さまざまな場面で使用しています。なので、一つのDAWでいろいろなことを行いたい方々にはお薦めですし、そういった方々のお役に立てたならば幸いです!

 

イロハ

【Profile】洗足学園音楽大学および同大学院で作編曲を専攻。音響、演奏技術も学ぶ。在学中に結成したイロハオーケストラでは、作曲/指揮/リアルタイム・リミックスを務め、FUJI ROCK FESTIVAL 2017にも出演。作編曲やレコーディング・エンジニア、マニピュレーターをしながら、バンド活動も行っている。

【Recent work】

『Iroha - 'Only for C' (inspired by Pro Tools | Carbon) M/V』

 

AVID Pro Tools

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LINE UP
Pro Tools | First:無償、Pro Tools:35,300円、Pro Tools | Ultimate:94,500円
(いずれも年間サブスクリプション版の価格。永続ライセンス/月間サブスクリプションもあり)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

製品情報