Pro Toolsでバンド・リハ/配信ライブをするためのモニター設定方法|解説:イロハ

Pro Toolsでバンド・リハ/配信ライブをするためのモニター設定方法|解説:イロハ

 こんにちは、作編曲やエンジニアなどをやっているイロハです。以前AVID Pro Tools | Carbonの企画でもいろいろとお話ししましたが、今回からPro Toolsを普段はどんなふうに使っているかを記していきます。第1回は、リハーサル・スタジオではなく自宅でPro Toolsを使ってバンド・リハーサルを行うときの設定や利点を紹介します。

自宅でバンド・リハの利点は楽器の音を細かく聴けること

 バンドのリハーサルはリハーサル・スタジオで行い、空気感、生の楽器の音、アンプの爆音の振動などを感じながら行うのが一番良いと思います。しかし、セッションをしながらの楽曲制作時やゲネプロなどで個々の楽器の音を細かく聴きたいとき、時間や予算の都合でリハーサル・スタジオを予約できなかったときなどに、自宅がリハーサルのできる環境であることはとても便利です。自宅でリハーサルを行う利点は、演奏した後で楽器をソロで聴いたり、音色/キー/テンポを変えたり、鍵盤楽器などをMIDIで接続している場合は和音の一部を変えてみたりできることです。さまざまな挑戦ができるので、必ず楽曲制作の一助になると思います。

 

 このシステムを組む際に、バンド・メンバー分のインプット数があるオーディオ・インターフェースと、ドラムが居るバンドならば電子ドラム(もちろん自宅で生ドラムが鳴らせる方ならそれでも可)は必須になりますのでご注意を!

 

 最初に、それぞれの楽器をオーディオI/Oに入力します。僕は、ボーカル/ギター/ベースをオーディオ入力で、キーボード、電子ドラムをMIDI入力で接続します。ギターを鳴らせる環境ならば、小さめのアンプを鳴らしてマイク録音してもよいと思います。それぞれのオーディオ・トラックを作成し、必要に応じてアンプ・シミュレーターやコンプレッサーを設定。レイテンシーを考えて負荷が重くないプラグインやDSPプラグインを使うとより良いでしょう。MIDI入力の楽器は、電子ドラムをたたいているのにピアノの音が鳴ってしまったりしないように、MIDIの入力先とインストゥルメント・トラックの接続を設定し、好みのインストゥルメント・プラグインを割り当てます。

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ミックスウィンドウビューでのインストゥルメント・トラックの入力設定画面。デフォルトでは表示されていないので、表示>ミックスウィンドウビューからインストゥルメントにチェックを入れて表示させる

各モニターの音量設定はプリフェーダーの設定でセンド

 次にモニターの設定です。スピーカーから鳴らしてプレイヤー皆で聴きながら演奏するのもよいですが、それぞれが自分の演奏しやすいバランスで聴けるように、トラックにセンドの設定をし、プレイヤー別にオーディオI/Oのヘッドフォン出力へモニター音を分岐します。このときに、プリフェーダーにしておくことでメインのボリュームを変更してもプレイヤーへのボリュームは変わりません。こちらも忘れず設定しておくようにしましょう。

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センド・トラックの“プリ”(プリフェーダー)をオンにしておくと、該当の楽器のトラックなどで行うボリューム変更の影響を受けない。ここでは出力先がオーディオI/Oのヘッドフォン出力で、HP2がプレイヤー1(ボーカル、ギター、キーボード)、HP3がプレイヤー2(ギター)、HP4がプレイヤー3(コーラス、ベース)で設定。ADAT112はADATで別途ミキサーに送り、ミキサーのヘッドフォン出力からプレイヤー4(ドラム)がモニタリングしている

 一番楽なのは、人数分のヘッドフォン出力があるオーディオI/Oを使用し、そのままプレイヤーのヘッドフォンを挿すことですね。また、オーディオI/Oの出力が複数あれば、小型ミキサーやヘッドフォン・アンプを併用してモニタリングもできます。また、出力もヘッドフォン出力も少ない場合は、個別のボリューム操作はややしづらくなりますが、スプリット・ケーブルを使用したり、センドの設定をモノラルにして、LとRを別々のプレイヤーが聴くなどにしても良いでしょう。また、“H/W バッファサイズ”はCPUと相談しながら可能な限り小さくしておきましょう。

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筆者が使用しているスプリット・ケーブル。ヘッドフォン出力からステレオをモノラル×2にするケーブルを使用して、LとRで別々のプレイヤーがモニタリングできるようにすることもあるという

Pro Tools | Carbonのマイクでトークバックを行う

 また全員がヘッドフォンをしている環境だと、マイクを設置していないプレイヤーの声が聴きづらいので、トークバックの設定をしておくのもお勧めします。僕は、Pro Tools | Carbonにトークバック・マイクが内蔵されているので、フット・スイッチでオン/オフして使います。このとき、トラックレコードではなくトラックインプットモニターをオンにしておくと、演奏をレコーディングするときにトークバックのトラックは録音されません。もちろんトークバック用にマイクを1本部屋の真ん中に設置して、コンプを深めにかけておけば同様のトークバックができます。

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トラックインプットモニター(緑色のIボタン)をオン。筆者は、トラックレコード(●)オンにしてトークバックも録音し、会話も収録することがある

 準備ができたら、演奏しながらそれぞれのボリュームや音色を調整します。APPLE iPadやiPhoneで使える無料のワイアレス・コントロール・アプリのAVID Avid Controlを使えば、コンピューターの前に居ない自分以外のプレイヤーが自分でバランス調整をすることもできます。設定が完了したら、録音をしながらリハーサルや楽曲制作をしていきましょう!

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APPLE iPadやiPhoneで使える無料のワイアレス・コントロール・アプリAVID Avid Control。ここでは“Vocal_iroha”のトラックのセンド量を、画面左の黄色いノブで各センド・トラックごとに調整している

 ちなみにAVID Avid Controlでは、トラック再生/停止からボリューム調整、メモリーロケーションの選択などさまざまな操作が可能です。

音量や音色が整っているのでそのまま配信ライブも可能

 僕はプロジェクトの一部分を何回もループ再生させてメロディを作ったり、ドラムのフレーズを直接打ち込んでドラマーに提案してみたりもします。また、クリック練習をしたいときにリズム隊だけがモニターできるようにしてたりもしますね。やはり、音量バランスの整った状態で録音した演奏を聴くことで、楽曲の粗や改善点も明確になります。もちろん2ミックスや各楽器のソロでバウンスをしてデータ共有をすれば、各々の演奏の確認をじっくりすることも可能。配信ライブもそのままの設定ですぐ実施可能ですね。また、その場で実際に生で鳴る音はボーカルくらいなので、歌って問題ない環境であればどこでも行えます。

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バンド・リハーサルで使用したセッション全景。このプロジェクトで設定したモニターや各パートの音色ですぐにライブ配信を行うことができる点も便利

 ただ、やはり実際にスタジオで鳴らすことも非常に大事です。僕は、制作した楽曲の最終チェックやライブ前のリハーサルはスタジオに入って行います。電子ドラムは実際のドラムとは演奏感もだいぶ違いますし、大音量でやるのはやはり気持ちが良いです。もしご自宅に環境があれば、ぜひやってみてください。思い切って普段は全然使わない音色を使ってみたりしても楽しいです。ずっと録音状態にしておけば、ふと出てきたフレーズも忘れないで済みますよ!

 

 次回はレコーディングしたサウンドの加工テクニックについてお話ししたいと思います。

 

イロハ

【Profile】洗足学園音楽大学および同大学院で作編曲を専攻。音響、演奏技術も学ぶ。在学中に結成したイロハオーケストラでは、作曲/指揮/リアルタイム・リミックスを務め、FUJI ROCK FESTIVAL 2017にも出演。作編曲やレコーディング・エンジニア、マニピュレーターをしながら、バンド活動も行っている。

【Recent work】

『Iroha - 'Only for C' (inspired by Pro Tools | Carbon) M/V』

 

AVID Pro Tools

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LINE UP
Pro Tools | First:無償、Pro Tools:35,300円、Pro Tools | Ultimate:94,500円
(いずれも年間サブスクリプション版の価格。永続ライセンス/月間サブスクリプションもあり)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

製品情報