「ACON DIGITAL Acoustica Premium Edition」マルチチャンネル対応の波形修復/マスタリング・ソフト

マルチチャンネル対応の波形修復/マスタリング・ソフト「ACON DIGITAL Acoustica Premium Edition」

フックアップが運営するオンライン・ストアのbeatcloudから、注目ソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのはACON DIGITAL Acoustica Premium Editionで、最高32ビット/384kHzでのオーディオ編集/修復が可能なほか、マスタリングも行えるアプリケーション&プラグイン・バンドルです。Mac/Windowsに準拠し、AAX/AU/VST/VST3プラグインとしても使用できます。それでは、詳しく見ていきましょう。

マスタリングやノイズ除去などに特化したプラグイン・バンドルが付属

 ノルウェーを拠点とするACON DIGITALは、ノイズ除去などのオーディオ修復機能に特化したプラグインを開発し続けているソフトウェア・デベロッパー。オーディオを高分解能スペクトル解析して処理する技術には定評があります。ちなみに筆者がACON DIGITALを知ったのは、7年ほど前にリリースされたDefilterというEQプラグインがきっかけ。トラックの音質をよりプレーンな方向に修正する“音質補正”のためのものでした。

 

 今回紹介するAcoustica Premium Editionは、先述の通り、オーディオ修復および編集そしてマスタリングにも特化したプラグイン・バンドル集です。オーディオ編集ソフトのAcousticaを中心に、同社のマスタリング専用プラグイン・バンドルMastering Suiteや、オーディオ修復に特化したプラグイン・バンドルRestoration Suite 2、リバーブ・プラグインのVerberate 2のほか、Extract:Dialogue / DeWind:Dialogue / DeRustle:Dialogue / DeBuzz:Dialogueといったノイズ除去プラグイン、そしてAVID Pro ToolsとAcoustica間においてシームレスなオーディオ転送/編集をサポートするAAXプラグインTransferを収録しています(画面①②)。

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画面① Acoustica Premium Editionに付属のTransferは、AVID Pro ToolsとAcoustica間におけるオーディオ転送と編集をサポートするAAXプラグインだ

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画面② Acoustica Premium Editionは、オーディオ編集ソフトのAcousticaをはじめ、マスタリングやオーディオ修復、ノイズ除去に特化したプラグインなどを、数多く収録している。中でも筆者のお気に入りだったのは、Multiband Dynamicsだ。少々地味ながらも実直なサウンドで、マスタリングの即戦力になる

 このようにAcoustica Premium Editionはボリューム十分な内容で、単なるプラグイン・バンドルとしても非常にコスト・パフォーマンスに優れていると言えるのですが、こういった付属プラグイン類が最も真価を発揮するのは、多機能ながらもシンプルで直感的な操作が可能なAcousticaと組み合わせて使用したときでしょう。

 

 メインとなるAcousticaはどことなく北欧らしさを感じさせる落ち着いた画面デザインですが、実際に使用してみると、そのイメージとは違う“きびきび”とした動作感で、付属プラグインの起動時間がとても速い! クリックしてから1秒もかからずに画面が表示されるのは快感ですね。

 

 また各パラメーターの配置やキーボード・ショート・カットのアサインなど、細部にわたって“オーディオ編集作業”の動線が考えられた作りに。筆者が知っているオーディオ編集ソフトの中ではトップ・クラスと言える操作性です。

 

 Acoustica Premium Editionの最大の特徴は、信号を従来のオーディオ波形だけでなく、時間(横軸)/周波数(縦軸)/音量(色)で表すスペクトログラムで表示し、それらに対する編集や修復が行えること(画面③)。オーディオ波形表示では選択した時間内にある“信号すべて”に対しての編集&修復が行えましたが、今回のスペクトログラム表示では選択した時間内にある“任意の周波数帯域のみ”を視覚的に編集&修復することが可能です。ブラシ/フリー・ハンド/自動選択などのレタッチ・ツールを駆使してオーディオを修復でき、ナチュラルな仕上がりを実感できます。言葉にすると少し難しく聞こえますが、画像編集ソフトを扱う感覚で作業ができる、というようなイメージでしょう。

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画面③ Acousticaのスペクトログラム表示画面。横軸は時間、縦軸は周波数、色は音量を表しており、選択した時間内における“特定時間の周波数帯域のみ”を視覚的に編集/修復することができる。画面最上段右側に見えるレタッチ・ツールから、ブラシ/フリー・ハンド/自動選択などを選択可能だ

2ミックスを5つのパートに分け個々のバランス調整やミュートが可能

 前述した複数の付属プラグイン・エフェクトはメイン画面最上段にある4つのメニュー、Tools/Volume/Effects/Enhancementから呼び出せます。しかも他社のVST/VST3/AU(AUはMacのみ)プラグインも使用可能。これらは選択したトラック全体、または選択部分のどちらでも使うことができるため、“トラック全体の質感を整えてから気になる部分のみをスポットで調整する”ということも容易です。また複数にわたるプラグイン・チェインを、“Processing Chain”としてルーティング順も含めて保存可能なので、気に入ったセッティングをいつでもリコールできます。

 

 ノイズ除去プラグインのExtract:Dialogueなども使ってみましたが、AIのディープ・ラーニングを採用ということだけあり、さすがの出来。一昔前では考えられないくらいの精度でノイズ成分を手軽に調整&除去が行えます。音楽制作だけでなく、ポッドキャスト用途としての音声状態も、簡単にブラッシュアップすることが可能でしょう。

 

 付属プラグイン・エフェクトの中で得に実用性が高いと思ったのはRemix(画面④)。2ミックスをVocals/Piano/Bass/Drums/Otherの5種類に分け、個々のバランス調整やミュートが行えます。そのため、容易にカラオケやボーカルのソロ音源、各パートのステム・データを作成可能です。サンプリングを重視するクリエイターにとっても、かなり重宝するツールになることでしょう。こちらのRemixでもAIのディープ・ラーニングを利用しているそうで、今後の音楽/音響現場でのAIの重要性をあらためて痛感しています。

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画面④ 付属プラグインのRemixでは、2ミックスをVocals/Piano/Bass/Drums/Otherの5種類に分離し、個々のパートをミュートしたり、音量調整したりすることが可能。カラオケや各パートのステム・データなどを容易に作成できる

 なお最新のAcousticaバージョン7.3Mac版では、APPLE Siliconプロセッサーをサポートしているのもトピックの一つ。加えて最大7.1chまでのサラウンドにも対応するマルチセッション・モードも魅力的です(画面⑤)。

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画面⑤ Acousticaのマルチセッション・モード。最大7.1chまでのサラウンドにも対応し、マルチチャンネルにおけるオーディオ録音や編集を実現している

 特にマルチセッション・モードでは、複数オーディオ・トラックのリアルタイム・ミキシングやエフェクト処理、クロスフェード処理などが行え、まるで通常のDAWのように扱うことが可能です。もちろん、オーディオのタイム・ストレッチ処理やボリューム、パン、そしてオートメーションの設定も行えるため、Acoustica Premium Edition一つあれば、オーディオにかかわるあらゆる作業ができてしまうことでしょう。そのほか、Remixとマルチセッション・モードを活用したオーディオ素材のリメイクなども面白そうですね!

 

 このように、Acoustica Premium Editionはオーディオ修復だけではもったいないくらいのポテンシャルを秘めており、マスタリングやリミックス制作用途としても応用できるでしょう。作曲/編曲家からエンジニア、ポスプロに携わるすべての人にお薦めできるクリエイティブ・ツールです。

 

ACON DIGITAL Acoustica Premium Edition

価格:22,300円

 Requirements 
■Mac:OS X 10.9以上
■Windows:Windows 7/8/10(64ビットのみ)
■共通:INTEL Core I3またはAMD、Apple Siliconを含むマルチプロセッサー(Core I5以上を推奨)、10GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、1,366×768のディスプレイ解像度(1,920×1,080以上の表示領域&解像度を推奨)

 

山中剛

山梨県のプライベート・スタジオを拠点に活動するアレンジャー/プログラマー。1980年代より活動し、近年は大手ブランドのCMや映画、TVドラマの劇伴制作にも多数参加している。

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