MIDI打ち込み/書き出しでショートカットを活用する時短テク 〜要田健が使うPro Tools【第4回】

MIDI打ち込みから書き出しまで、ショートカットを活用する時短テクニック 〜要田健が使うPro Tools【第4回】

 こんにちは、作曲家の要田健です。AVID Pro Toolsが録音やオーディオ編集で真価を発揮するのは周知の事実ですね。今では、MIDI編集の便利な機能も多く実装され、快適に作曲できるようになりました。今回はそのMIDI機能の紹介と普段僕が行なっている編集テクニックを解説します。

MIDIノートを速く打ち込むために、なるべく複製で構築

 まずピアノのコード伴奏を速く打ち込む方法についてです。その前提として、僕は鍵盤楽器を弾けないので、MIDIキーボードを触らない方法で解説します。今回のキーはGmajで、“Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm”のシンプルな循環コードの伴奏を8小節ほど打ち込んでみましょう。各コード・チェンジのタイミングとして、今回はまず全小節1拍目に、8部音符の長さのコードをクリックで打ち込みます。時短テクニックは、1つ目の“Ⅳ”のコードを“Crtl+D”(Macでは“command+D”)で複製し、構成音の3度のメジャー/マイナーは一度無視して、ルートだけを“Ⅳ→Ⅴ→Ⅲ→Ⅵ”の高さに合わせます。このままではすべてメジャー・コードになってしまいますので、調声から外れた音を左側の鍵盤でクリック。するとMIDIノートを全選択できるので、キーに合わせて上下させます。このパターンは“D♯”と“G♯”を半音下げることになります。

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“Crtl+D”(Macでは“command+D”)の複製機能を活用して和音ごとコピー。MIDIノート一つ一つを入力しなくてもよい

 音程を入力し終えたので、実際弾いているようなリズムを付けましょう。まずはノートを“Ctrl+A”(Macでは“command+A”)で全選択、Alt(MacではOption)を押しながらドラッグ、2拍目の8分裏、4拍目に複製。今回は音を伸ばしたいのでサスティン・ペダルも打ち込みます。1小節目だけマウス入力をしたら、後は“Crtl+D”(Macでは“command+D”)で複製。自然な演奏に聴かせるには右手/左手のリズムを変えるのがよいので、各小節のルート音の2拍目8分裏、4拍目のみ選択し、8分音符分速いタイミングにずらします。

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コードの打ち込みとリズムを複製で作った後に、1小節目のサスティン・ペダルも打ち込んで同じく複製し、左手で弾いているルートのうち2拍目8分裏にズラすことで自然に聴かせる工夫をしている

 これで基本的なコードのバッキングが完成しました。こういった工夫でMIDIキーボードを使用せずとも素早く打ち込みを進めることができます。ただし、この状態では内容が簡素なものになるので、より人が弾いているような演奏にするためには、丁寧なアレンジが必要です。

 

 せっかくなのでドラム・パターンを打ち込む方法を紹介しましょう。よくある4つ打ちのパターンはすごく簡単。1小節分の4つ打ちキックを入力したら、これをAlt(MacではOption)を押しながらドラッグして複製し、ハイハットに活用します。頭拍はペダルに、もう一度複製して8分裏でオープン・ハットに持っていきます。2/4拍目にスネアを置いたらパターンは完成。これを必要な尺の小節分、複製します。ピアノやドラムに限らず、素早い打ち込みに必要なのは、このように複製を多用すること。一つ一つクリック入力するのは手間なので、作業時間がどうしても長くなる方はぜひ意識してみてください。

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4つ打ちのドラム・パターンを打ち込んだ状態。最初に打ち込んだキックのMIDIノートのパターンを活用して、すべてのパートを複製しながら作るのが筆者の時短テクニック

ドラム音源はマルチアウトでAUXトラックにセンドする

 ドラムの打ち込みをしたら、ミックス作業に備えて音源のマルチアウトをしておきたいですね。まずはドラム音源側の設定を済ませます。僕が愛用しているドラム音源STEVEN SLATE AUDIO SSD5ではフェーダーの下部分をクリックするとマルチアウトの設定ができます。

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筆者がよく使用しているドラム音源STEVEN SLATE AUDIO SSD5。フェーダー下部で出力チャンネルを設定する

 この段階で幾つアウトプットが必要なのかを把握しておき、次に“Ctrl+Shift+N”(Macでは“command+Shift+N”)で新規AUXトラックを必要な数だけ用意します。出力の設定をモノラルにするかステレオにするかは気を付けましょう。立ち上げたAUXトラックを選択して、一番左側のトラックのインプットを“Ctrl+Shift+Alt”(Macでは“command+Shift+Option”)を押しながら設定すると、選択したチャンネルから順番通りに一括設定できます。このときに後々トラックを見失わないよう、トラック名称はしっかりと入力しておきましょう。

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新規AUXトラックを“Ctrl+Shift+N”(Macでは“command+Shift+N”)で作成した後に、入力にSSD5のアウトを設定する。モノラルかステレオかはここでしっかりと分ける

ベロシティのランダマイズを調節し、人間味のある演奏に

 最終的に丁寧にアレンジをしていきますが、時間が限られている場合は、Pro Toolsの機能を使って打ち込みに人間味を持たせるテクニックも有効です。

 

 例えばクオンタイズ機能の中の“スウィング機能”。スウィングのパーセンテージを10〜20%程度でクオンタイズすると、微妙なリズムの揺れがノリの良さを生み出してくれることがあります。ランダマイズでバラバラにずらすのも手の一つですが、こちらはノリよりはルーズさが出てくるので、曲のジャンルによってはうまくいかないこともあります。

 

 ほかにはベロシティのランダマイズが有効。僕がよく行うのは“すべてを設定”を100に、ランダマイズは10%程度に設定することで、先述のタイミングのクオンタイズと合わせると、いわゆるベタ打ち感はだいぶ解消されます。

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イベント>イベント操作>クオンタイズで表示されるイベント操作ウィンドウ。ベロシティをわずかにランダマイズさせると、簡単に人間味が出る。筆者は“すべてを設定”を100に、ランダマイズは10%程度に設定することが多い

 また、ピアノ・コードのトップ・ノートを全選択し、1〜10程度ベロシティを上げるのも効果的。人がピアノを弾くとき、すべての指が全く同じ強さで鳴ることはないと思いますので、それを再現するようなイメージでしょうか。

 

特定のMIDIトラック書き出し、音声のMIDI変換が可能

 MIDIのエクスポート(書き出し)に関して、最近は選択したトラックだけを書き出せるようになりました。方法はシンプルで、書き出したいトラックを選択、右クリック・メニューから“MIDIエクスポート”を選択し、保存を行います。

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MIDIエクスポートはトラック名部分の右クリック・メニューから選ぶことが可能。選択状態のトラックのみを書き出すことができる

 またほかにも面白い機能が増えており、オーディオ・ファイルをMIDIトラックへドラッグすると、オーディオ・ファイルを自動解析し、MIDIデータ化することができます。僕もまだあまり使いこなせていない機能の一つですが、ギター・ソロにユニゾンするシンセを追加したり、生ドラムにサンプルをトリガーさせたりといったことも試せそうなので、Pro Toolsは実験的に使用できる面白さも兼ね備えていると言えるでしょう。

 

 全4回にわたり連載を書いてきましたが、いかがだったでしょうか? 少しでもPro Toolsの魅力や、僕の音楽制作の知識が読者の皆さまに伝わったなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

 

要田健

【Profile】ミューズモード音楽院でギターを4年間学び、在学当時19歳でBABYMETALに楽曲を提供。それをきっかけに作曲家への道を進む。これまでに、いとうかなこ、浦田直也、小野大輔、林原めぐみなどに楽曲提供。TVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』主題歌やキャラクター・ソング、声優の楽曲を手掛けるほか、アプリ・ゲームやドラマなどのBGM制作を行い、ギタリストとしての数多くのレコーディングにも参加している。

【Recent work】

『ケモノミチ』
小野大輔
(Lantis)

 

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