「AVANTONE PRO Kick」製品レビュー:バス・ドラム用サブフリーケンシー・マイク

「AVANTONE PRO Kick」製品レビュー:バス・ドラム用サブフリーケンシー・マイク

 NYに拠点を置くオーディオ・メーカーAVANTONE PROより、サブフリケンシー・マイクKickが発売されました。AVANTONE PROは、名匠クリス・ロード=アルジ監修のもと開発した“現代版YAMAHA NS-10M”のCLA-10で業界の話題をさらったのが記憶に新しいです。早速、Kickの実力を見ていきましょう。

CLA-10Aのユニット、AV-10 MLF Driverを採用

 Kickは見た目の通り、今は生産中止になったYAMAHAのワン・アンド・オンリーな名機Sub Kick(SKRM100)を再構築すべく設計された、低域の収音のみを目的とするサブフリケンシー・マイクです。Sub Kickは言わずとも知れた名モニターNS-10Mのウーファー・ユニットをマイクとして活用し、バス・ドラムの低域収音を行っていたエンジニアの手法をもとに製品化されたもの。EQやサブハーモニック系エフェクトとは一味違うナチュラルで混ざりの良いローエンドが得られるので、生産完了となった今でも愛用しているエンジニアが多いです。

 

 そう考えると、そのNS-10Mを新設計のドライバー・ユニットとともに現代によみがえらせたAVANTONE PROが、そのユニットを使いサブフリケンシー・マイクを設計するのは、とても自然な流れだと思います。採用されているユニットは、実際にCLA-10で採用されているウーファー・ユニットAV-10 MLF Driverです。

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AVANTONE PROがYAMAHA NS-10Mをモデルに開発したスピーカー=CLA-10に採用のウーファー・ユニットAV-10 MLF Driverを内蔵している

 では、実際に製品を見ていきましょう。背面に刻印されたAVANTONE PROのブランド・ロゴとマットなブラックに塗装されたウッド・シェルには高級感があります。この手のマイクはとても大ぶりであるが故、ほかのマイクと比べても圧倒的に強い存在感を放ちますよね。特にライブ現場では見栄えも非常に重要な要素になりますので、ブラックが基調のシックなデザインは非常にうれしいところです。

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木製のドラム・シェルを使用しているため、通常のマイク・スタンドにはマウントできない。使用には同梱のKick専用のダブル・ブレース・スタンドを使う

 また、木製のドラム・シェルを使っており、通常のマイク・スタンドにはマウントできないので、専用のダブル・ブレース・スタンドが同梱されています。本機のサイズは直径289mm、奥行きが140mmと、Sub Kickよりもやや大ぶりです。

 

Sub Kickよりローエンドが伸びている、現代的な音

 今回は実際のドラム録音でバス・ドラムに使用。製品の特性を考慮し、Sub Kickと比較しながらその実力を見ていきたいと思います。大ぶりな形状のため、並べてマイキングするのはなかなかに厳しく、ドラマーの協力の下、同じ内容の演奏を2度行ってもらい、サウンドを検証してみました。

 

 先入観にとらわれないよう、まずKickからチェック。第一印象は“あれ!思っていた質感と違う!”という感じでした。恥ずかしながら実際に音を聴くまでは、Sub Kickとの違いはそこまで出ないと予想していたのです。ところが、想像よりもさらにローエンドが伸びていて、非常に現代的な低域です。次に比較対象としてSub Kickをチェック。こちらはやはり、メインのマイクと混ぜたときにオンマイクにそのままローエンドが足されるような、今まで聴いてきた音がします。

 

 その後、音を聴き比べて気付いたのが、トランジェントの違いでした。Kickの方が明らかにディケイが長く感じるのです。大げさに言うとSub Kickが“ブンッ!”なのに対し、Kickは“ブンーッ!”という感じ。とは言え、締まりが無いということではなく、超低域がナチュラルに減衰するイメージです。テスト後に国内取扱元のWebサイトで同様の比較のサンプルを発見し聴いたところ、全く同じ印象でしたのでぜひご一聴ください。

 

 KickもSub Kickも実際に木製のドラム・シェルが使われているのでその違いもあるのでしょう。メイン・マイクと組み合わせると顕著に効果の違いが出ます。Kickは実音の後ろにローエンドが粘って付いていくような感触。非常にマッシブで、現代的な強い低域です。そう表現するとサブハーモニック的な質感かと思いそうですが、比較すると全く別物。Kickで収録できる低域は、あくまでその場で鳴っている低域なので、メイン・マイクとの相性が抜群に良いのです。ペダルを強く/弱く踏んだとき、またはオープン/クローズで踏んだとき、それぞれローエンドがそのまま乗っかるので、トランジェントが崩れず非常に扱いやすいです。

 

 さて、こうも感触が違うともはやKickとSub Kickのどちらが良いなどの比較はまるで無意味。“SHURE SM57とSENNHEISER MD421のどちらが良いマイクか?”などという議論が無意味なように、欲しい低域の質感に合わせてチョイスしたいと思います。

 

 ちなみに、今回のセッションではKickを採用することにしました。テストは叶いませんでしたが、ベース・アンプへの使用でも大きな武器になること間違い無し。最近はサブハーモニック系プラグインが山ほど出ていますが、バス・ドラムやエレキベースのローエンドをサブフリケンシー・マイクに任せることにあらためて意味を感じさせられたテストでした。生ドラムの録音をする機会が多いエンジニア/クリエイターの方は、ぜひ試してみていただきたい一本です。

 

大野順平
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、baroqueや榊いずみ、浜端ヨウヘイ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

 

AVANTONE PRO Kick

オープン・プライス

(市場予想価格:44,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪形式:ダイナミック・マイク ▪周波数特性:50Hz〜2kHz ▪出力インピーダンス:6.3Ω ▪指向性:双指向 ▪ドライバー:AV10-MLF 18cm径コーン ▪出力端子:XLR ▪付属品:専用マイク・スタンド ▪外形寸法:289(φ)×140(D)mm(本体) ▪重量:3.1kg(本体)

製品情報

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