「AVANTONE CLA-10A」製品レビュー:高域のブライトネスを調整可能なVTPC 機能搭載のパワード・モニター

AVANTONEの「CLA-10A」

Photo:川村容一

 NYのメーカーAVANTONEより2018年にパッシブ・モニターCLA-10がリリースされたときは、その大胆でストレートなアプローチに少々驚きました。しかも、製品の監修は世界的トップ・エンジニアのクリス・ロード=アルジ氏。使用パーツなど丁寧に製作されていて、単なるYAMAHA NS-10Mのコピーではないことは明確でした。今回紹介するのは、クラスAB方式のパワー・アンプを内蔵し、昨今のニーズに応える形へ進化を遂げたCLA-10Aです!

電源に大型トロイダル・トランスを採用
200Wのアンプを搭載した重量感のある作り

 CLA10-Aを説明するために、避けて通れないのがCLA-10のモデルとなったYAMAHAのNS-10Mです。NS-10Mは録音スタジオのモニターとして1980年代から長きに渡りスタンダードとして君臨しました。しかし、ウーファー・コーンの材料となるパルプの確保が難しくなりウーファーの生産が継続できなくなったので、2001年に惜しまれつつ生産中止になったのです。それから15年以上がたち、修理するためのパーツの確保も厳しくなり始めたころ、AVANTONEはNS-10Mの交換用のツィーターとウーファーを開発して販売します。これが高い評価を受けたことで作られたのがこのツィーター&ウーファーをNS-10Mと同サイズのキャビネットに収めたCLA-10です。専用のパワー・アンプを開発し製品化するなど、音質に関してもかなりのこだわりと“10M愛”がうかがえました。そんなCLA-10が録音現場に応えるためにNS-10Mを目指して作ったものならば、現代のニーズを考慮してNS-10Mを“ 超えよう”とトライしたのがCLA-10Aだと思います。

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白いペーパー・コーンのウーファー・ユニットAV10 MLF(180mm)と、ソフト・ドームのツィーター・ユニットAV10 MHF(35mm)を搭載。CLA-10と同仕様のもので、どちらも交換用パーツとしても販売されている

  ではCLA-10Aを見ていきましょう! 箱から取り出して感じるのは、その重量感……。クラスAB方式で200Wのアンプを搭載した分重量が増えるのは当たり前ですが、ヒート・シンクが結構ごつい点や大型トロイダル・トランスを搭載したリニア方式の電源を実装している点、トランスが固定されているリア・パネルのネジの数がやけに多い点から、パーツそれぞれに重量感があり、しっかりした作りであるのが分かります。

 

 入力端子もバランスのXLR/TRSフォーン・コンボ、アンバランスのRCAピンに対応しており、ユーザー・フレンドリーです。

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入力端子はXLR/TRSフォーン・コンボとRCAピンを併装。その下には、グラウンド・リフト・スイッチとボリューム・ノブ、高域のブライトネスを調整するVTPC(Variable Tissue Paper Control)のノブを用意

  ユニークなのはVTPC(Variable Tissue Paper Control)という機能。これは何と、エンジニアのボブ・クリアマウンテンが始めて世界中で流行した、ツィーターにティッシュ・ペーパーをかぶせて高域をコントロールする方法を電気回路で再現する機能です。リア・パネルの連続可変式ノブでツィーターのブライトネスを調整できます。

位相が良く定位が鮮明に感じられる
脚色の少ないプレーンなサウンド

 さて肝心のサウンドですが、自分の持っているNS-10Mのイメージと基本的に一致する方向です。実にモニター・スピーカーらしい脚色の少ない音でうれしくなりました。ちなみにVTPCは、センターから少し絞ったくらいが好みでした。

 

 NS-10Mには無いポイントとして、一つは位相が良くなり、定位がより鮮明に感じられることです。これはウーファーがプレス成型なので、ツィーターも含めパーツの個体差が少なくなったことが関係していると思います。もう一つは搭載されているパワー・アンプとのマッチングの成果なのか、音量を下げたときの低域のバランスの変化がNS-10Mよりも少なく使いやすいように感じました。中高域が少し持ち上がり、低域は100Hzくらいから下が減衰気味で、低音のディケイが速いというキャラクターは継承しているのですが、音像や解像度が少し上がり、わずかですがモダンな感触もあります。

 

 それにしても、全体的にプレーンに音を見せてくれるNS-10Mの最大の特徴はそのままです。最近のパワード・モニターと比較するとサービス精神は低い音ですが、それこそがこの製品の個性だと思います。“少し素っ気ないけど調子の良いことは言わずに誠実”である、これがモニター・スピーカーとして多くの支持を集めたNS-10Mにも通じる、CLA-10Aのキャラクターなのだと思いました。

 

 ミックスに使用するのはもちろん、音色を作り込んで録音する場合にも向いています。トラックごとの方向性を明確にできればミックス時に迷いを少なくすることが可能なので、MIDIデータもバウンスしたりせず、1トラックずつエフェクトもかけ録りで音作りしながら録音する方法を採る際に有効です。

 

 やはり、CLA-10Aは聴くことを楽しむためのスピーカーというよりも、シビアに音と音楽を追求する作業のためのリファレンスとして信頼できるモニター・スピーカーだと思います。メインとしてだけでなく、違う視点からの意見を提示してくれるサブモニターとしてもお薦めできるでしょう。昔スタジオでよく言われた“NS-10Mでよく聴こえるように作れば、ほかのスピーカーでも大丈夫”というのは、数十年がたった今でも通用する意見なのではないでしょうか。

 

山中剛
【Profile】山梨県のプライベート・スタジオを拠点に活動するアレンジャー/プログラマー。1980年代より活動し、近年は大手ブランドのCMや映画、TVドラマの劇伴制作にも多数参加している。

AVANTONE CLA-10Aの製品情報

 

AVANTONE CLA-10A

オープン・プライス(市場予想価格:110,000円前後/ペア)

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SPECIFICATIONS ▪スピーカー構成:180mmウーファー(AV10-MLF)+35mmツィーター(AV10-MHF) ▪周波数特性:60Hz〜20kHz ▪アンプ動作方式:クラスAB ▪アンプ出力:200W ▪最大音圧レベル:104dB ▪全高調波ひずみ率:0.05% ▪消費電力:3W(スタンバイ)、250W(フル出力) ▪外形寸法:381.5(W)×215(H)×197

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