自然な広がりと奥行きを生み出す音像調整器〜LEAPWING AUDIO StageOne

LEAPWING AUDIO StageOne 〜自然な広がりと奥行きを生み出す音像調整器

 Reviewed by 
中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からミックス、マスタリングまでを手掛けるエンジニア。直近では、にしな、ナガトモユリ、GOOD BYE APRIL、RöEらの作品に携わっている。

わずかなパラメーターで操作可能。各セクションは個別オン/オフで負荷調整も

 LEAPWING AUDIO StageOneは、音の広がりや奥行きなど、音像をコントロールするプラグインです。

 

 LEAPWING AUDIOは新進のプラグイン・メーカーで、現在リリースされているプラグインは5製品と多くはないですが、最初にリリースされた同社のDynOneは瞬く間にマスター・バス用プラグインとして定着し、その後も独自の技術で他社がまねできない実践的でハイクオリティなプラグインを作り続けています。

 

 同社のプラグインはすべて落ち着いた見た目で統一され、各機能がセクションごとに分かりやすく配置されています。まずは順にこれらのセクションを見ていきましょう。

 

 画面左側のWIDTHセクションは、センター成分以外のステレオの広がり具合を調整します(画面①)。WIDTHスライダーを上げていくとステレオの音像が左右に広がっていきますが、0ポジションでは信号に影響は与えません。また、隣のHIGH PASSスライダーはWIDTH機能にハイパス・フィルターを適用し、低域に影響を与えないようにするためのものです。

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画面① 左右の広がりを制御するWIDTH。HIGH PASSはキックやベースなどの低域に影響を与えないようにするパラメーター

 画面中央のDEPTHセクションは信号に反射音を付加して、音像に奥行き感を与えます(画面②)。こちらのDEPTHスライダーも0ポジションでは信号に影響は与えません。隣のCOLORスライダーは反射音に作用するティルトEQになっていて、付加される反射音の明るさを調整できます。

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画面② 反射音を加え奥行きを生み出すDEPTH。COLORで反射音の明るさ/暗さをコントロールできる

 画面右側のMONO SPREADセクションは、モノラル信号を擬似的にステレオ信号に変換します(画面③)。MONO SPREADスライダーを上げていくと、ソースのモノラル成分が徐々に広がっていきます。これも0ポジションでは信号に影響は与えません。CENTER GRAVITYスライダーは広げたステレオ・イメージを保ったまま、全体的に左右にバランスを移動できます。

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画面③ モノラル素材を擬似的に広げるMONO SPREAD。CENTER GRAVITYで左右のバランス調整を行う

 これら3つのセクションには個別にON/OFFするためのボタンが右上に用意され、CPUパワーの節約や比較試聴にも使用できます。画面の一番右側にはOUTPUT TRIMも用意されています。

 

 そのほか、画面上部にはプラグインの基本機能であるBYPASSボタン、UNDO/REDOボタン、A/B比較用のボタン、プリセット・セクションが並びます。

 

センター成分の変化が少ないWIDTH、サンプルをなじませるのに最適なDEPTH

 実際に各セクションの音を確認していきます。まずはWIDTHセクション。ミックス中のマスター・セクションにインサートしてWIDTHスライダーを上げていくとステレオ・フィールドが広がっていきます(画面④)。この変化には思わずニヤリとしてしまいました。楽曲全体のステレオ感は広がりますが、ボーカルやバス・ドラム、スネアといったセンターに定位している音はしっかりと保持され、あくまで自然さを保ったまま、しかし確実な変化が得られます。

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画面④ エンジニアのジョー・チッカレリ氏の手によるプリセット“JC Acc Guitar”を見たところ。WIDTHは80まで上がっているが、センター成分に破たんは無く、奇麗に広がっている

 M/S処理によって同様の機能を持つプラグインはほかにもあり、同様にセンター成分に影響を与えないことを謳っているものも存在しますが、実際に比較してみるとStageOneは本当にセンター成分の変化が少なく、ほかのプラグインよりもはるかに自然かつ効果的な仕上がりで驚きました。

 

 次にDEPTHセクションです。DEPTHスライダーを上げていくと、ソースにリバーブのアーリー・リフレクションに似た反射音が付加されます。そして付加された反射音は、隣のCOLORスライダーで質感を明るくしたり、暗くしたり調整できます(画面⑤)。マスタリングで自然な奥行きを演出できるのはもちろんですが、ミックス時にも非常に重宝します。

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画面⑤ 同じくプリセットの“JC Elec Guitar”では、DEPTHが82まで上がっている。また、COLORの値も71と高く、ブライトなサウンドが演出されているのが分かるだろう。原音ではなく、StageOneで付加される反射音のキャラクターに影響を与えるパラメーターだが、音から受ける印象はかなり変わってくる

 昨今は使用される楽器がサンプリング音源であったり、演奏者が自宅スタジオで録音したトラックを扱うことも日に日に増えてきていますが、そういったトラックは往々にして”オン過ぎる”ことも多く、ミックス時にオケになじまないこともあります。そういった際に後述するMONO SPREADセクションと組み合わせることで、オケに自然になじむサウンドにすることができます。

 

モノラル・ソースにもステレオ感を付加。自然で確実な効果と明快な操作性

 そしてMONO SPREADセクションは、ソースのモノラル成分を擬似的にステレオ化します(画面⑥)。具体的には細かく分割された周波数帯域ごとに左右へとパンニングされ、ステレオ感を得るタイプのエフェクトです。この機能は主には明りょう過ぎるモノラル成分をなじませるために使用するものですが、DEPTHセクションと組み合わせることで自然な形で素材に奥行きと広がりを演出することができます。MONO SPREADスライダーを上げ過ぎると不自然な音になりますが、アレンジ上のギミックとしてモノラル素材のリズム・ギターを少し広げたり、サビのボーカルを思い切って左右に広げたりする際も有効に機能すると思います。

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画面⑥ モノラル・ソースにStageOneをインサートしてMONO SPREADを上げていくと、左右のレベル・メーターの値にばらつきが出てくるのが見て取れる。なお、モノラル・ソースにStageOneをインサートすると、出力はステレオ化する(右画面の左のフェーダー)

  StageOneのようなステレオ感や音の奥行き感を調整するエフェクトは昔から作品作りの”隠れたエッセンス”として使用されてきましたが、ここ数年でより使用される頻度が増えているように思います。その主な要因には、制作スタイルや音楽ジャンルの変化によって適度なルーム感(響き)を含んだトラックが使用される割合が減少していること、リスナーのリスニング環境にヘッドフォン、イアフォンが台頭してきていることも関係があるでしょう。そういった変化の中で、制作現場は自然とこの種のエフェクトを求めるようになり、マスタリングやミキシングのトータル・エフェクトとして楽曲をより派手に広がり良く聴かせるために使用されたり、ミキシングにおいては音の定位感と奥行き感のコントロール手段として使用されています(画面⑦)。

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画面⑦ プリセットは先述したジョー・チッカレリ氏作成のもののほか、2ミックスに使うマスタリング用、個々のトラックに使うミックス用を用意

 前述した通り、同様のエフェクトは他メーカーからもリリースされていますが、StageOneはその中でも複数の機能が統合され、自然さと確実な効果、そして明快な操作性を併せ持っている点で一歩抜きん出ているように感じます。私の中では早速お気に入りのプラグインになりました。

 

 最後になりますが、StageOneでは劇的で派手な効果も得られるものの、そこには今まで積み上げてきたミックスを壊してしまう可能性もはらんでいます。特にバスやマスターに使用する際は、複数のモニター環境でのチェックとビフォー/アフターを慎重に比較検討してください。自戒も込めて“ご利用は計画的に”と申し上げておきましょう。

 

LEAPWING AUDIO StageOne【特殊処理】

21,967円(価格は為替レートによって変動)

 Requirements 
■Mac:OS X 10.10(Yosemite)〜macOS10.15(Catalina)、64ビット
■Windows:Windows 8、10(64ビット)
■AAX/AU/VST

 

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