バイノーラルからイマーシブまでを自由に編集〜FLUX:: Spat Revolution

FLUX:: Spat Revolution 〜バイノーラルからイマーシブまでを自由に編集

 Reviewed by 
小﨑弘輝
【Profile】LiMu Create代表。大学卒業後に渡米し、Columbia College Chicagoでレコーディングを学ぶ。これまでにOne Night Only、クレモンティーヌ、DEPAPEPEなどの録音/ミックスに携わるほか、ライブ・レコーディング&ミックスを多数手掛ける

バイノーラル+空間再現機能を使って、小スペースで録ったソースをホールのような音に

 FLUX:: Spat Revolutionは、オブジェクト・ベースのサラウンド/イマーシブ編集ソフト。専用プラグインとOSCを介してDAWを連携します。直感的な操作でサラウンド・パンニングのオートメーションを書き込むなど、空間の操作に非常に秀でたソフトウェアです。ただ、今回はより一般的な音楽制作の中で、このプラグインを2ミックス音源で生かす方法を考察してみました。

 

 レコーディングの常識として、スタジオの強みとは電源や機材はもちろん、“部屋鳴り”は非常に重要でした。多くのプラグインがスタジオやホールの空間の再現を試みてきましたが、Spat Revolutionはまさにその名前の通り、革命を起こしています。3D環境下でのさまざまな空間を操り、さらにリスニング・ポイントとなる自分の場所までオートメーションで直感的に動かすことを可能としているのです。

 

 ちょうど、リハーサル・スタジオで録音したピアノ音源があったので、そのミックスで試してみました。部屋の広さは15畳で、ピアノはYAMAHA C7LA。シリーズの中では最高の重厚感とクリアな音が特徴で、15畳というスペースではあり余る響きを持っています。今回は少しクラシカルな音像を求められていたのですが、限られたスペースの中で録音された音源をいかにホールで弾いたような豊かな響きを持たせるか非常に苦労していました。そこで思いついたのがSpat Revolutionでのバイノーラル処理だったのです。

仮想空間で得られるナチュラルな残響、位相特性の良さも秀逸

 まず、セットアップ画面でRoomのStreaming TypeをBinauralに変更します(画面①)。この時点で、いきなり“おっ”と思わず声が出てしまうほど、広い空間がヘッドフォンの中に広がりました。

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画面① セットアップ画面で出力をバイノーラルに設定。本来はステレオ・モニター環境でサラウンド/イマーシブをチェックするための機能だが、バイノーラルで書き出せばステレオ・ソースであってもヘッドフォンで仮想的な3D音源を聴かせることも可能になる

 続いてRoomからReverbをクリックして、空間の広さや質感などの微調整に入ります(画面②)。今回はプリセットのVienna Concert Hallからスタートして微調整をしました。それぞれのパラメーターの効きが非常に良く、実際に今自分が何を触っているのかが非常に良いレスポンスで返ってきていることを感じます。また、リアルタイムで画面上部のグラフィックが動くため、視覚的にもどのように音が変化しているかが分かりやすく作られています。何よりも、リバーブ音の雑味が全くありません。本当にデジタル・リバーブなのかと疑ってしまうほどに、ナチュラルな残響です。

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画面② Roomは仮想空間を示す画面で、オブジェクトの位置や広がりのほか、IRCAMが開発したリバーブ・エンジンで温かさや明りょう度、存在感、近接感、深度、陽度などの感覚的な要素をコントロールできる。各オブジェクトからの放射角度と指向方向も調整可能。低域のマネージメント、EQ、ドップラー効果、空気での音の吸収などの設定も行える

 続いて、アウトプットの調整。ここでは音源とリスナーの位置関係をX/Y/Z軸で操作したり広がりを調整したりできます。非常にシビアな操作を要求されますが、それだけ細かく作り込むことが可能です。さらにヘッドフォンからモニター・スピーカーに戻して確認をして驚きました。バイノーラル処理でも気持ち悪い位相のズレ方をしておらず、空間を感じることができたのです。

 

 このミックスでは、Spat Revolutionが無ければ達成できない空間を作り出せました。リハスタで録音した音源が、ホールで録音した音源へと自然な変化を遂げたのです。

 

 本稿ではステレオでピアノのみという限定的な使用ですが、Roomは幾つも立ち上げることができるので、楽器ごとに違うRoomへ送り、細かな調整も行えます。さらには22.2chなど現状考え得るすべてのサラウンド・フォーマット・チャンネルに対応しているので、映画音楽などでは無限大の可能性があります。

 

 以前にも“仮想空間を作るプラグイン”は存在していましたが、Spat Revolutionは別次元のもの。“空間”という制限を取り除き無限の可能性を与えてくれるソフトです。

 

FLUX:: Spat Revolution【イマーシブ/VR】

219,780円

 Requirements 
■Mac:OS X 10.11(El Capitan)〜11(Big Sur)、64ビット、INTELチップ
■Windows:Windows 7〜10(64ビット)
■AAX Native/AU/VST(スタンドアローンで動作:プラグインでDAWと接続)
■iLokアカウント

 

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