皆さま、ご機嫌いかがでしょうか。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)というテクノ・ユニットに参画中のフジムラトヲルと申します。これまで2回にわたり、アナログ・シンセを使った制作過程を通して、Pro Toolsの機能や魅力などをご紹介してまいりましたが、今回はいよいよ最終回。アナログ・シンセをダビングした後に行う加工&編集作業をご説明したいと思います。何事も画竜点睛、仕上げが肝心。どうかひとつ、最後までお付き合いください。
コーラス・エフェクトはAVID C1 Chorusを多用
アナログ・シンセのダビングが終わると、次は加工/編集作業へと進みます。アナログ・シンセ自体の音は、それはそれで素晴らしいものですが、やはりエフェクターを通さないと物足りなさを感じることも事実です。もっと言うならば、エフェクターも“音作り”の一部という捉え方をしております。昨今のソフト・シンセには、優秀なエフェクターも内蔵されていることが多いので、考え方としては同じなのかもしれません。
ROLAND SBF-325(フランジャー)やSDD-320(コーラス)、YAMAHA E1010(ディレイ)など、アナログ・シンセと相性の良いハード・エフェクターは数あれど、どれもこれもビンテージの域に突入しておりますので、今から状態の良い中古品を手に入れるのは、なかなか困難を極める作業になります。
中古サイトやオークション・サイト、最近ならフリマ・サイトを日々チェックし、検索に引っ掛かったら、状態はどうなのか、価格は適正範囲なのか、今月の懐具合はどうなのか。そんなことを考えているうちに“購入済”の文字が目に入り、膝から崩れ落ちる始末……。
音響的、そして精神的なSN比のことも考えると、やはりプラグインを使用するのが現実的なのかもしれません。そこで、個人的によく使用するプラグインを幾つかご紹介したいと思います。ちなみに、TECHNOBOYSのように複数人で1つのセッションを使って作業する場合は、あまり物珍しいプラグインを使ってしまうと、他のメンバー宅でリコールできなくなってしまいます。なので、基本的にはどこのスタジオにもインストールされているようなプラグインを使用するようにしています。
まず、一番よく使うのがコーラスのAVID C1 Chorus。名機と名高いBOSS CE-1のエミュレーターですが、かかり具合も操作もシンプルなのでとても重宝します。音を揺らしたいときは、まずこれですね。
次にディレイはWAVES H-Delay。使い勝手がよく、音のノリもよい。UIも分かりやすいので使用時のストレスが皆無。優秀です。
そして、汚し系はAVID SansAmp PSA-1。リード音などでよく使うのですが、ループでプレイバックしながらプリセットで“あたり”をつけておいて、各パラメーターを微調整という流れが多いです。個人的には、悩んだときにはSansAmpという感じで使っています。
つらつらとプラグインを列挙してまいりましたが、やはりハード・エフェクターも捨て難いのものがありまして……。先述のビンテージ・ハード・エフェクターも、幾つか所持しており使用することがあるのですが、現行品も大活躍しております。
中でも、BRICASTI DESIGN M7というリバーブは、使用頻度高めの逸品。プラグインでも優秀なリバーブは数あれど、M7の奥行き感や透明度、繊細さは素晴らしく、TECHNOBOYSの近作「FUTURELESS ELECTRIC HIGHWAY」でも多用いたしました。
また、コーラスやフランジャーなどは、“かけ録り”することが多いのですが、リバーブや空間系の場合は、その成分のみを別トラックに録り、後ほどバランスを調整した方が、作業がスムーズに進むかと思います。
“かけ録り”といえば、私はTECHNOBOYSでベースを担当しておりまして、基本はラインで録音しているのですが、コンプレッサーはかけず、API Tranzformer LXのみ通しております。Tranzformer LXにもコンプレッサーが搭載されているのですが、積極的な音作りを行うとき以外は使用いたしません。その方が、弾いたときのニュアンスやグルーブ感が損なわれないと考えているからです。曲調によっては内蔵EQで調整を行いますが、後でエンジニアの方が調整しやすいよう録音することを心がけています。
不要データの整理方法
最後に、アナログ・シンセの場合、ソフト・シンセとは違いケーブルを通して録音されるので、ノイズ抑制の観点から、不要なリージョンは必ずカットし、フェード処理をしっかり行います。個人的には、特にリズムでグリッチ加工をよく使うので、その箇所のフェードもしっかり確認しています。とはいえ、あえてフェードをかけずに“プチッ”と鳴らす手法もありますので、自分がカッコ良いと思うものを選択しましょう。
そんなこんなで、各トラックの音にお化粧を施して整ったら、ミックス・エンジニアへデータをお渡し。まずは、不要なデータを整理するため、未使用のクリップ(オーディオ・データ)を削除します。
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そして、起動時にオーディオ・ファイルが見つからないという、えも言われぬ悲しいエラーを防ぐため、セッション・データの“コピーを保存”は、毎曲行うようにしております。メニューから“ファイル”→“コピーを保存...”を選択し、開いた画面で“オーディオ ファイル”にチェックを入れ、“OK”をクリック。必要なトラックだけコピーしたい場合は、“選択したトラックのみ”にもチェックを入れましょう。あとは、お好みのストレージ・サービスでデータを送信。そして、就寝。駆け足ではございましたが、これで一連の流れが終了です。
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さて、本連載はいかがでしたでしょうか。学生時代、サンレコに載っている楽器店さんの広告を眺めながら、ビンテージ・シンセに思いをはせていたあのころの自分に、30年後にはSEQUENTIAL Prophet-5 Rev.4やARP 2600の復刻版が発売されてるよと伝えたら、にわかには信じ難いと思うことでしょう。めぐるめぐるよ、時代はめぐる。昨今、FM音源も復興の兆しを見せている中、エポック・メイキングなデジタル・シンセの出現にも期待したいところではございますが、ここらで本連載はお開きにいたします。ご清覧、ありがとうございました。
ではまたどこかで。バイナラ。
フジムラトヲル
【Profile】作編曲家/ベーシスト、3人組のテクノ・ユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのリーダー。アニメの劇伴等でも知られ、最近作はTVアニメ『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』のオープニング主題歌「てっぺんっ天国 〜TOP OF THE LAUGH!!!〜」と劇伴、Netflixにて8月4日より配信されるアニメ『賭ケグルイ双』の劇伴など。
【Recent work】
『FUTURELESS ELECTRIC HIGHWAY』
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
(HAOKK)
AVID Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Artist:12,870円、Pro Tools Studio:38,830円、Pro Tools Flex:129,800円
(いずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools|Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools|Ultimate搭載の機能を継続して利用可能
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)