Pro Toolsでアナログシンセ録音|解説:フジムラトヲル

Pro Toolsでアナログ・シンセのレコーディング〜接続と録音のズレについて

 皆さま、ご機嫌いかがでしょうか。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)というテクノ・ユニットに参画中のフジムラトヲルと申します。前回に引き続き、アナログ・シンセを使った制作過程を通して、AVID Pro Toolsの機能、魅力などをご紹介いたします。近年は、全く新しい機種やリバイバルもの、モジュラー・シンセなど数々のアナログ・シンセがリリースされ、皆さまにも身近な存在になっているはずなので、有用な情報に違いないと確信しております。たぶん。恐らく……。だといいなぁ……。どうかひとつ、今月もお付き合いください。

録音時は必ずチューニングを確認

 先月の本連載では、アナログ・シンセのダビングを想定したMIDIプログラミングの方法を紹介いたしました。それがひとしきり完了すれば、次は実際にアナログ・シンセの録音へと進みます。

 まずは、Pro Toolsとアナログ・シンセの接続から始めます。私が所持しているアナログ・シンセは、幸いにもMIDI入力端子が付いている機種がほとんどなので、非常にシンプルです。Pro Toolsを稼働させているMacのUSB端子からMIDIインターフェースへ接続。MIDIインターフェースのMIDI OUT端子からMIDIケーブルを通じてアナログ・シンセのMIDI IN端子へ。これで、接続完了。

筆者が使用しているMIDIインターフェース、ICONNECTIVITY IConnectMIDI2+。USBケーブルでMacに接続し、背面に用意されているMIDI OUT端子と、アナログ・シンセのMIDI IN端子をMIDIケーブルで接続する

筆者が使用しているMIDIインターフェース、ICONNECTIVITY IConnectMIDI2+。USBケーブルでMacに接続し、背面に用意されているMIDI OUT端子と、アナログ・シンセのMIDI IN端子をMIDIケーブルで接続する

 あとは、Pro Toolsを再生し、MIDI信号によりアナログ・シンセを鳴らします。アナログ・シンセのオーディオ出力からオーディオ・インターフェースを通してPro Toolsへ録音。これが一連の流れです。中には、オーディオ・インターフェースにMIDI OUT端子が付いている便利な機種もございます。

 アナログ・シンセを録音するトラックにはチューナーのプラグインを差しておくことをお勧めします。アナログ・シンセのチューニングは不安定なことが多く(数時間安定しない機種は、それを見越して作業前から電源を入れておく)、電源環境にも左右されるため、絶対音感のない私は必ずチューナーでピッチを確認してから録音を始めます。

アナログ・シンセを録音するトラックには、チューナー・プラグインのInTuneをインサート。アナログ・シンセはチューニングが安定するまでに時間がかかるものも少なくないので、録音時には毎回、確認が必要

アナログ・シンセを録音するトラックには、チューナー・プラグインのInTuneをインサート。アナログ・シンセはチューニングが安定するまでに時間がかかるものも少なくないので、録音時には毎回、確認が必要

 ちなみに音作りは、事前に済ませておく場合もあったり、ざっくりと“あたり”をつけておいて、ループで鳴らしながら微調整する場合もあったりします。

 MIDI入力端子が付いていないアナログ・シンセはどうするのかといいますと、CV/Gateという規格があり、それを使用します。昨今、モジュラー・シンセが普及し、よく聞く言葉にはなりましたが、“CV/Gateとは、なんぞや?”と思う方も、たくさんおられるかと思います。簡単に言うとCVとは“Control Voltage”の略で音程の変化をコントロールする信号です。また、Gateとは音のオン/オフを制御する信号です。各メーカーから、CV/Gateコンバーターと呼ばれる製品がリリースされているので、それを用いてMIDIやUSBからの信号をCV/Gateに変換してアナログ・シンセを鳴らします。ちなみに、基本的にはモノシンセのみ対応です。

 さて、MIDIもCV/Gateも付いていない機種はどうするのか。諦めるのか。そうです、諦めましょう。気合のリアルタイム・レコーディングへと進んでいきます。いわゆる、一発録りです。アナログ・シンセから“私を弾きこなしてみなさい!”と言われているような感覚に陥りながら、納得いくまで弾き直すのです。嗚呼、MIDI万歳。

 ただ、リアルタイム・レコーディングの場合、MIDIプログラミングでは出せないニュアンスが生まれたりすることもままあるので、これはこれで良いものです。

 ちなみに、かの有名なベース・マシンのROLAND TB-303やTR-606などのリズム・マシンは、DIN SYNCという規格を使って同期する場合があります。こちらも、さまざまなDIN SYNC/MIDIコンバーターが各社からリリースされているので、それを用いて同期します。

MIDIとDIN SYNCのコンバーター、ROLAND SBX-1。USB端子を備えており、パソコンとも接続できる。CV/Gate OUT端子も用意されているので、CV/Gateコンバーターとしても利用可能

MIDIとDIN SYNCのコンバーター、ROLAND SBX-1。USB端子を備えており、パソコンとも接続できる。CV/Gate OUT端子も用意されているので、CV/Gateコンバーターとしても利用可能

ズレはナッジで修正

 さて、録音した音をPro Toolsで再生した際、アナログ・シンセの音が少し遅れて聴こえる場合があります。これは、“H/W バッファサイズ”を小さくし遅延を抑えても起こる現象です。先月の連載でも触れたように、MacからMIDIインターフェース、そしてMIDIケーブルを通って届く信号ですから、どうしても遅延が起こってしまいます。

下段のMIDIデータで鳴らしたアナログ・シンセを録音した波形が上段のトラック。遅れて録音されているのが一目瞭然

下段のMIDIデータで鳴らしたアナログ・シンセを録音した波形が上段のトラック。遅れて録音されているのが一目瞭然

アナログ・シンセが遅れて録音されるのは、MIDIインターフェースなどを経由して発音することに由来するため、プレイバックエンジン画面のH/W バッファサイズを小さくしても完全には解消されない

アナログ・シンセが遅れて録音されるのは、MIDIインターフェースなどを経由して発音することに由来するため、プレイバックエンジン画面のH/W バッファサイズを小さくしても完全には解消されない

 その場合、Pro Toolsには、MIDIノートを移動することなく発音のタイミングを前後させるMIDIトラックオフセットという機能があり、それを使えば対処することができます。しかし、TECHNOBOYSの場合はアナログ・シンセでダビングするトラックが多いため、ものぐさな私は多少の遅延は気にせず録音し、波形とグリッドを目安にナッジで調整していきます。こればかりは、人それぞれで効率の良い方法を試行錯誤するのが一番かと思います。

MIDIトラックオフセット機能を使うと、MIDIノートを移動させることなく、発音タイミングをサンプル単位あるいはミリ秒単位でずらすことができる。しかし、筆者は録音したアナログ・シンセのオーディオ波形をナッジでずらして、耳で確認しながら修正するという方法を採っている

MIDIトラックオフセット機能を使うと、MIDIノートを移動させることなく、発音タイミングをサンプル単位あるいはミリ秒単位でずらすことができる。しかし、筆者は録音したアナログ・シンセのオーディオ波形をナッジでずらして、耳で確認しながら修正するという方法を採っている

 リズム・マシンについては、キックやスネアなど、それぞれのパートの音を単独で録音し、仮に入れた音と差し替えていく場合や、実機でリズム・パターンを組んでからDIN SYNCで同期し、Pro Toolsに流し込む場合があります。リズム・マシンによっては、グリッドでジャストに鳴らない絶妙なグルーブ感を持つ機種もあり、それを生かすのも一興です。

 アナログに限らずですが、シンセの醍醐味(だいごみ)の一つにフィルターの演奏(あえて“演奏”と呼ばせていただきます)があります。ソフト・シンセなどでは、オートメーションで入力していくことが多いかと思いますが、アナログ・シンセは、やはり、リアルタイムでツマミをグリグリ触りながら音を変化させて、録音していくのが定石ではないでしょうか。曲の構成を頭に入れて、何小節目でフィルターを開き始めようかとか、イメージする音の最高点はどこに持っていこうとか、もう感覚だけに頼ってしまおうだとか、いろいろ考えながらツマミをいじります。時には、偶然性も期待しつつ録音したものをプレイバックし、ベスト・テイクを探っていきます。オートメーションとは違って、刹那的なところも魅力の一つなんですよね。

MIDI入力を備えた筆者愛用のアナログ・モノフォニック・シンセ、TOM OBERHEIM SEM With MIDI To CV。1974年に発表されたOBERHEIM SEM-1をベースに開発され、2010年にリリースされた製品(現在は生産中止)。フィルターのツマミは写真右上のVCFセクションに用意されている。MIDIデータで本機を鳴らしながら、これらのツマミを演奏するのもアナログ・シンセ録音の楽しさの一つ

MIDI入力を備えた筆者愛用のアナログ・モノフォニック・シンセ、TOM OBERHEIM SEM With MIDI To CV。1974年に発表されたOBERHEIM SEM-1をベースに開発され、2010年にリリースされた製品(現在は生産中止)。フィルターのツマミは写真右上のVCFセクションに用意されている。MIDIデータで本機を鳴らしながら、これらのツマミを演奏するのもアナログ・シンセ録音の楽しさの一つ

 さて、今月はここまで。このように、なかなか手間の掛かる工程ではございますが、曲が完成した暁には、すべてが報われるのです。コツコツと、本日も制作にいそしみましょう。ローマは一日にして成らず、シンセは一日中鳴らす。ではでは。

 

フジムラトヲル

【Profile】作編曲家/ベーシスト、3人組のテクノ・ユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのリーダー。アニメの劇伴等でも知られ、最近作はTVアニメ『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』のオープニング主題歌「てっぺんっ天国 〜TOP OF THE LAUGH!!!〜」と劇伴、Netflixにて8月4日より配信されるアニメ『賭ケグルイ双』の劇伴など。

【Recent work】

『FUTURELESS ELECTRIC HIGHWAY』
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
(HAOKK)

 

AVID Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Artist:12,870円、Pro Tools Studio:38,830円、Pro Tools Flex:129,800円
(いずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools|Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools|Ultimate搭載の機能を継続して利用可能

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

製品情報