皆さま、暑い日々が続きますが、ご機嫌いかがでしょうか。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)というテクノユニットに参画中のフジムラトヲルと申します。僭越(せんえつ)ながら、この度AVID Pro Toolsの魅力、機能、活用法などを解説する運びとなりました。少しの間ではございますが、お付き合いください。
劇伴用のテンプレートを用意
現在、TECHNOBOYSは自身の作品以外にも、アニメの劇伴や主題歌などを手掛ける機会が多く、メンバー3名の共同作業も発生するため、全員同じDAWを使い制作を行っています。我々が選択したDAWは、Pro Tools。導入したのは2005年で、当時、既にメンバーの石川智久が先立ってPro Toolsを使用していたため、それに合わせる形で私も導入しました。今は懐かしい初代Mbox。ちなみに当時はADSL回線だったため、1曲のセッションをアップロードするのに一晩近く要した思い出も、今は昔。
さて、前置きはこのくらいにしまして。本連載では劇伴に焦点を絞り、その制作工程を解説していきたいと思います。
まず、楽曲を作りはじめる前にあらかじめ作っておいたテンプレートからセッションを立ち上げます。そうすると、すぐに楽曲制作に取り掛かれるので、モチベーションの維持に効果的です。劇伴は映像の背景音楽なので、メインテーマ曲などはさておき、あまり多くのトラックを使用しないようにしています。限られたトラック数で、効果的に音楽面で演出することを目指しているため、それを想定した内容のテンプレートを準備しています。
では早速、作曲に取り掛かりましょう。まずは、どのように着想するか。こればかりは千差万別、十人十色、多種多様なメソッドがあるのではないでしょうか。劇伴については“場面”だとか“キャラクター”に付ける楽曲という指定があることが多いので、私の場合は原作や絵コンテ、シナリオを元にイメージを膨らませるところから始まります。何もイメージを持たずに作曲工程に入ってしまうと、大概の場合は何も着想しないまま、楽器販売サイトの周遊へと旅立ってしまいます。ボンボヤージュ。
さて、イメージが固まったら、リズムからとか、メロディからとか、はたまたベーシストの端くれだからなのかベースラインから曲を作りはじめることが多いです。比率的にはリズムから作ることが多いので、今回はそれに基づき進めてまいります。
私の場合、リズムトラックの構築によく使用するプラグインはREASON STUDIOS Dr. Octo RexとSPECTRASONICS Stylus RMXです。理由はシンプルで、使い慣れているということ。また両者とも手早くエディットを施すことができるのが大きな利点です。基礎となるループを選び、エディットしながら組み立てていきます。
また、ドラムの3点(キック、スネア、ハイハット)は、REASON STUDIOS Redrumで仮に入れておき、のちに実機のリズムマシンでダビングすることが多いです。
アナログシンセの最大発音数を念頭に
リズムがある程度組み上がったら、次の工程へ。コードだったり、リフだったり、メロディだったり、いわゆる上モノを作っていきます。MIDIプログラミングで作り上げていくのですが、ここでTECHNOBOYS特有の注意点があります。TECHNOBOYSは楽曲制作にアナログシンセを多用するため、自身の持つ機種を、ある程度想定しながら制作を進めていかなくてはいけません。一番大きなポイントは最大発音数。ソフトシンセを使用している限りでは、それほど気にしなくてよい点だと思いますが、アナログシンセはシビアです。無い袖は振れません。我が家の“MAX”最大発音数は6。そう、6音ポリです。したがって和音は6音以内に収めることが重要となります。まぁ、私の場合は大概収まりますが。
あとは、それぞれのアナログシンセが出せる音を想定しつつ、ソフトシンセで仮に打ち込んでいきます。その際によく使用するのはARTURIA Mini V。これもまた使い慣れていて、動作が軽いことが大きな利点です。Mini Vで所持するアナログシンセをイメージしながら上モノを重ねていきますが、この時点での音作りは、かなりざっくりとしたもので、ダビングの際に実機でしっかりと音を作り込みます。
MIDIプログラミングでは、特にステップ入力を多用するのですが、モノシンセ(単音のみ演奏可能、つまり最大発音数“1”)を想定している場合は、特に注意が必要です。音符のノートの長さを100%で入力してしまうと、いざダビングの際に音が途切れてしまったり、入力した通りにノートが鳴らなかったりということがままあります。MacからMIDIインターフェース、そしてMIDIケーブルを通って届く信号ですからね、そんなにすぐには処理できません。
そこでBPMにもよりますが、ノートの長さは音符の80〜90%に設定して入力していきます。そのほか、キレを良くしたいシーケンスなどは、音符を半分の長さに設定することもあったり、アナログシンセのADSR(アタック、ディケイ、サステイン、リリース)で調整した方が効果的なこともあったりします。こればかりはケースバイケースなので、あれやこれやと試しながら進めていくしかないです。嗚呼、なんて非効率。ちなみにベロシティについては、近年リリースされたアナログシンセは対応しているかと思いますが、ビンテージものは非対応の機種が多いので、あまり気にせず進めてまいります。
もちろん、アナログシンセでは再現できないような音色は、SPECTRASONICS Omnisphere 2やNATIVE INSTRUMENTS Kontaktなどのソフトシンセも使用します。その場合、私はパッドやテクスチャー系の音を使うことが多いので、ニュアンスを反映させるため、ステップ入力よりもリアルタイム入力を選択します。言うまでもなく、ベロシティにも対応しているので、ここぞとばかりに手動での微調整やランダマイズなどを行うこともあります。
ここまで書いてきて言うのもなんですが、現代においては少し特殊な制作工程なので、読者の方々が求めている情報なのか、いささか不安になってまいりました。しかし、めげずに次回も書き連ねていきたいと思います。ではでは。
フジムラトヲル
【Profile】作編曲家/ベーシスト、3人組のテクノユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのリーダー。アニメの劇伴等でも知られ、最近作はTVアニメ『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』のオープニング主題歌「てっぺんっ天国 〜TOP OF THE LAUGH!!!〜」と劇伴、Netflixにて8月4日より配信されるアニメ『賭ケグルイ双』の劇伴など。
【Recent work】
『FUTURELESS ELECTRIC HIGHWAY』
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
(HAOKK)
AVID Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Artist:12,870円、Pro Tools Studio:38,830円、Pro Tools Flex:129,800円
(いずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools|Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools|Ultimate搭載の機能を継続して利用可能
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)