Pro Toolsのアルペジエイターを駆使した時短アレンジ術|解説:町屋

Pro Toolsのアルペジエイターを駆使した時短アレンジ術|解説:町屋

 皆様こんにちは、和楽器バンドの町屋です。連載第2回ということで、前回に引き続きAVID Pro Toolsを使った和楽器の打ち込みに関するフローやその応用、活用法などをお話ししようと思います。

コード・トラックのリージョンを利用して音域や音数を調整

 初回でメロディ、コード、ドラム、ベース、箏、三味線、尺八についてのポイントは解説したので、今回はさらなる肉付けとして、時短アレンジ術を解説したいと思います。

 僕は最初にAIR Xpand!2のピアノ音色で、メロディ・トラックとコード・トラックを打ち込むところから作曲やアレンジングをスタートします。その後、リズム隊でフィールを作り、和楽器を打ち込んでいくということは前回ご紹介した通りです。この和楽器のアレンジ的な肉付けを行う際は、思い浮かんだイメージをフレーズとして決め打ちで打ち込んでいくのですが、空白の部分が発生することもよくあります。そんなときには時短術を使った和楽器のアレンジを行うと、余計なギターやシンセのトラックを入れる必要がなくなり、最終的に各パートを引き立たせることができます。

 まず基本的な考え方としては、例外もありますが、サビを一番盛り上げなくてはならないので、現状トラッキングしているパートをすべてサビに盛り込みます。その際、まだフレーズが思い浮かんでいない和楽器をどうするかという問題が発生しますが、ひとまずすべての和楽器のトラックを複製して立ち上げてしまいます(リージョンは除きます)。

 次に、コード・トラックのMIDIノートを各和楽器のトラックにコピーし、Xpand!2のアルペジエイターで鳴らします。これが時短術です。コード・トラックは全音符を基本に作っているので、それぞれの和楽器では何分音符でアルペジエイターを鳴らすのか、どんなパターンで鳴らすのか、その際のリリース・タイムは適正かといったことをイメージして、音数や音域、音符の単位を調整していきます。

ピアノのコード・トラック。これを尺八、三味線、箏の各トラックにコピーする

ピアノのコード・トラック。これを尺八、三味線、箏の各トラックにコピーする

 僕の場合、尺八は弦のように伸び伸びと鳴ってほしいので全音符もしくは2分音符に、三味線は縦(リズム)を強調するために4分音符もしくは8分音符、またハネた感じも三味線らしさであったりもするので付点音符も使用します。そして、サビにおいて箏は楽曲全体のアレンジ内で音数や音域の調整役を担うことが多いので、全音符、または8分音符や16分音符で埋めることが多いです。

尺八のAIR Xpand!2。アルペジエイターのパターン(赤枠)はアップで、音符は“1”(黄枠)、つまり全音符に設定

尺八のAIR Xpand!2。アルペジエイターのパターン(赤枠)はアップで、音符は“1”(黄枠)、つまり全音符に設定

三味線のXpand!2。アルペジエイターのパターンはアップ&ダウンを2オクターブで繰り返す設定で(赤枠)、4分音符に設定(黄枠)

三味線のXpand!2。アルペジエイターのパターンはアップ&ダウンを2オクターブで繰り返す設定で(赤枠)、4分音符に設定(黄枠)

箏のXpand!2。アルペジエイターのパターンはダウンを2オクターブで繰り返す設定で(赤枠)、8分音符に設定(黄枠)

箏のXpand!2。アルペジエイターのパターンはダウンを2オクターブで繰り返す設定で(赤枠)、8分音符に設定(黄枠)

 なお、これらの作業では同じ箇所に同じ音が重なりすぎると、全体のバランスがいびつになってしまいます。そのためアルペジエイターのアップやダウンなどの設定を各パートでバラけさせて、全体で聴いたときに偏りがないようにします。

 このように、もともと打ち込んでいたコード・トラックのMIDIノートとXpand!2のアルペジエイターを利用すると、さまざまな和楽器の音色で楽曲のサビを色鮮やかに、そして短時間で盛り上げることができます。

足し算のアレンジではストリングスを活用

 次に、サビへ向けてどのように楽曲を盛り上げていくかを逆算します。最高到達点であるサビは作った後なので、次は最も音数の少ないゼロ・ポイントを作ります。ゼロ・ポイントとは、メロディ、コード、ベース、ドラムが鳴っていて和楽器が休符の状態をイメージしてもらえればいいでしょう。どのセクションに作るかは楽曲次第なので一概には言えませんが、例えば順を追うのであれば、Aメロ前半に作ります。

 このゼロ・ポイントからスタートして、Aメロの折り返し辺りから徐々に楽器が増え、Bメロを経由してサビにいくとします。その場合、Aメロ後半にアルペジエイターを利用した三味線をトラッキングします。このとき、サビで使用しているアルペジオ・パターンでは合わないことも多々ありますので、その際はもう1トラック立ち上げて別のアルペジオ・パターンを使用することになります。

 またこの場合は“Aメロのアルペジオ・パターンに対する予兆がない”ことを意識してください。コード・トラックからのコピー&ペーストで作っているが故に、アウフタクトなどの予兆的なフレーズが存在しないので、アルペジオ・パターンが唐突に始まる印象を与える可能性があります。そこでAメロのアルペジオが自然に始まる感じになるように、アルペジエイターを使用しないトラックで予兆フレーズを作ります。つまり、三味線で3トラックを使用するということになります。

画面は2トラックとも三味線のトラック。赤枠がAメロ後半から始まるアルペジオ・パターン用で、黄枠はそのアルペジオが自然に始まるように作ったアルペジオを使用しない予兆フレーズ

画面は2トラックとも三味線のトラック。赤枠がAメロ後半から始まるアルペジオ・パターン用で、黄枠はそのアルペジオが自然に始まるように作ったアルペジオを使用しない予兆フレーズ

 この方法をほかのパートにも適用し、音域や音数が偏らないように調整します。細かく作り込む場合はすべての音符を打ち込んでいきますが、和楽器が入っている雰囲気や全体像を見たい場合は後戻りもできるので、コード・トラックとアルペジエイターを利用する方法から始めるのが無難です。

 この段階でゼロ・ポイントを作るという引き算はできているので、次は足し算でアレンジします。僕の場合は、まずサビにうっすらとストリングスを重ねることが多いです。これはXpand!2のひとつのトラックの中で違う音色をレイヤーで重ねて、それらのオクターブを調整するという作り方です。その際のポイントは、和楽器が中域を中心に固めているので、中域寄りのパートを足すと最終的に情報過多で音割れを起こしたり、広がりが足りなかったりすることに気をつけること。2ミックスの周波数分布をイメージしながらバランスの良い状態を作ることが重要です。

Xpand!2で2種類のストリングス音色を重ねた状態。上段は1オクターブ低い音域、下段は1オクターブ高い音域にアサインしている(赤枠)

Xpand!2で2種類のストリングス音色を重ねた状態。上段は1オクターブ低い音域、下段は1オクターブ高い音域にアサインしている(赤枠)

 また、ストリング・トラックはAVID EQ3 7-Bandでドンシャリにしつつも、コンプのAVID BF-76で音量感をある程度平らにして全体のバランスを整えます。このトラックもコード・トラックからコピー&ペーストした状態をベースに作業をすると全体像の把握が速くなります。

AVID EQ3 7-BandでのストリングスのEQ例。4kHz辺りから上をブーストしつつ、中低域はカットして、ドンシャリ気味のバランスを作っている

AVID EQ3 7-BandでのストリングスのEQ例。4kHz辺りから上をブーストしつつ、中低域はカットして、ドンシャリ気味のバランスを作っている

AVID BF-76でのストリングスの音量感をならす設定例

AVID BF-76でのストリングスの音量感をならす設定例

 これである程度、楽曲の下地はできたかと思いますので、次はさらにトラックを重ねたり、仕掛けを作ったりといった作業になります。続きは次回以降でお話しようと思いますが、前回と今回で作ったトラックはすべてプリセットとして保存しておくと、次の楽曲制作の際にさらに作業効率が上がりますので、お忘れなく。

それではまた次回。

錦秋の旅先より

町屋

 

町屋

【Profile】9月13日生まれ、北海道出身。幼少期よりギターをはじめ、インディーズでバンド活動を行う傍ら、ギタリストとして投稿した動画サイトでは圧倒的な人気を誇り、さまざまなアーティストのツアーやセッションに参加するなど多方面で活躍。アーティストへの楽曲提供も行う。和楽器バンドではギタリストとしてのみならず、数多くの楽曲で作詞作曲を手掛け、サウンド・プロデュースやアレンジ・ディレクション、サイド・ボーカルも務める。ステージ上で見せるギターの超絶プレイも人気が高い。

【Recent work】

『ボカロ三昧2』
和楽器バンド
(ユニバーサル)

 

AVID Pro Tools

AVID Pro Tools

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Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:12,870円|Pro Tools Studio:38,830円|Pro Tools Ultimate:77,880円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools|Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools|Ultimate搭載の機能を継続して利用可能

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

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