柴田と西山の二人からなるユニット、パソコン音楽クラブ。往年のハードウェア・シンセや音源モジュールを用いて制作を行っており、今年開催されたFUJI ROCK FESTIVAL'22に出演するなど精力的に活動している。今回は柴田の住居兼プライベート・スタジオに潜入。所狭しと置かれた機材の数々は、まさに柴田の脳内を表しているかのようだ。
制限が想像力を働かせる
元々は大阪を拠点に活動していた二人。数年前に先に上京した柴田は、昨年の2月から現在の環境を拠点に制作を行っている。まず圧倒されたのはその機材の量だ。
「大阪の家は広かったのでここまでぎゅうぎゅうではなかったのですが、ほとんど手放すこともないので増える一方というか。ここに引っ越してからもミニ鍵盤類とかちょこちょこと増えていますね(笑)」
西山も柴田ほどではないが、多数の機材を所有しているとのこと。互いに作業環境を用意しているが、柴田いわく明確に役割を分担しているわけではないそうだ。
「二人とも曲作りを行うので、役割を決めているわけではないです。ただ、割とちゃんとしたモニター環境とかは西山君の方がそろえています。こちらでは作る方に徹していて、建物が防音仕様なので音量はかなり出せるのですが、いろいろと雑な環境なのでエンジニアリング的なことを行うのはちょっと難しいですね。最後に音を作るのは西山君のスタジオなので、2つの環境があるからこそ成立しています」
特に目立つのがシンセの数々。現在柴田がメインとして使用しているシンセはNORD Nord Lead 2、SEQUENTIAL Prophet-600、ROLAND Juno-106の3台だが、ほかにもCASIO Casiotoneシリーズや音源モジュールなどがそこかしこに置かれている。これだけ数多くの機材を集める理由について、「僕らの制作する音楽が、音色に依存している部分もあるからです」と西山は語る。
「作りたい曲をイメージする中で、面白い音が鳴りそうだなとか、狙っている音が出せそうだな、と思うと欲しくなってしまって。あとYMOとか、先輩方が当時使っていた機材が手に届く価格で出ていたらとりあえず買って試してみて、やっぱりいいなと感じることも多いです。中古市場で安くなっているようなものでも意外と面白い音が作れるし、本当に替えが効かない機材もあります。ただ、実はソフト・シンセも使っていて、音色を手軽にリコールできるのはやっぱり便利だし、それは作品によって使い分けですね。実機は大変なんですけど……やっぱり音色を超えた何かが変わる気がしています。不便さも重要なんです」
実機を使うことについて柴田も、2021年のアルバム『See-Voice』でよく使ったというディレイ、KORG SDD-2000を例に挙げ続ける。
「デジタル・ディレイなんですが数秒間サンプリングできる機能も付いていて、ビット・レートが落ちたようなギザギザした音になるんです。今では普通にDAW上でプラグインを使えば同じような音を作れるし、わざわざ取り込むのも面倒臭い。でも数秒しかサンプリングできないっていう、その制限が逆に想像力を働かせてくれます。ユーザー・インターフェースも重要で、機材のパラメーターを実際に手で触ることが、すごく創作にフィードバックされていると思います」
欠かせないMIDIインターフェースESI M8U EX
柴田が使用しているオーディオ・インターフェースはMOTU 4Pre。アナログ入力は最大4chで、これだけあるシンセの数からすると少ない印象もあるが、柴田いわく「複数のシンセを同時に動かしたりマルチティンバーを使ったりはせず、1パートずつ録音していくことが多いので入力数はそれほど必要ないんです。録音した素材はABLETON Live上で加工することが前提なので、一気に録音してもあまり意味が無いんです」とのことだ。
一方、MIDIインターフェースにはESI M8U EXを採用しており、スタジオの中でもかなり新しい機材だ。
「MIDI IN/OUT兼用端子で、IN/OUTを自動で検出してくれる。全部で16chもあってUSB 3.0にも対応していて、実機をたくさん使う立場として、現行で入手できるMIDIインターフェースの中で一番良い製品だと思っています。システムに関しては最新のものを使うに越したことはないです」
現在二人は新しいアルバムを制作中で、最近は制作に用いるシンセに変化も出てきたようだ。西山に聞いた。
「モノラル出力のシンセを使うことが増えましたね。僕らは最初、1990年代に発売された音源モジュールとかで制作していて、当時のシンセから出てくる音が自分たちにとってすごく新鮮だったんです。ただステレオの定位感やリバーブに時代性を感じるようになって、一音鳴らしてみただけで“古いな、この定位……”みたいな。一方で、モノラルのシンセの音って全然古くさく感じないなあと。1970〜80年代のシンセでも普遍的で、この先もずっと使えるようなサウンドだったんです」
柴田も「発音数が少ないシンセを重ねて音を作る方が面白いと、興味が移行しているように思います」と語る。まだまだ進化を続けるパソコン音楽クラブ。次にこの部屋を訪れたときにはきっと、さらに機材が増えていることだろう。
「整理することも考えているのですがなかなか。実は機材が無ければ、すごくミニマリストな部屋なんですよ(笑)」
Equipment
DAW System
DAW:ABLETON Live
Audio I/O:MOTU 4Pre
MIDI Interface:ESI M8U EX、MOTU MIDI Timepiece
Outboard & Effects
Delay:KORG SDD-2000
Chorus:BOSS CE-300
Reverb:SONY MU-R201
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:IK MULTIMEDIA ILoud MTM
Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-M50、他
Instruments
Keyboard:M-AUDIO Keystation 88、YAMAHA CBX-K2、他
Synthesizer:CASIO CZ-101、HT-700、MT-240、MT-640、SK-8、KORG DW-6000、MS-20 Mini、Wavestation、NORD Nord Lead 2、ROLAND Juno-106、TB-303、SEQUENTIAL Prophet-600、YAMAHA CS1X、CS2X、DX100、PSS-580、他
Sequencer:KORG SQ-1
Rhythm Machine:CASIO RZ-1、KAWAI R-50、KORG DDM-110、Volca Beats、ROLAND TR-707、他
Groove Machine:ROLAND MC-505
Sampler:ROLAND SP-404、YAMAHA SU700
Sound Module:AKAI PROFESSIONAL XE8、DOEPFER MS-404、E-MU Orbit 9090、Pro/Cussion、KORG 03R/W、ROLAND D-110、M-DC1、SC-88Pro、YAMAHA MU128、他
Guitar:CASIO DG-1
Drums:YAMAHA DD-10
Others:CASIO DJ-1、TATSUMIYA DiscPlayer、TUNGTZU The Beat Machine、VTECH Music Major、他
パソコン音楽クラブ
2015年結成のDTMユニット。メンバーは大阪出身の柴田(写真左)と⻄山(写真右)。往年のハードウェア・シンセサイザー、音源モジュールを用いて音楽を制作している。オリジナル作品のほかアニメ音楽、ドラマ劇伴の制作なども多数。
Recent Work
『SIGN(feat.藤井隆)』
パソコン音楽クラブ
(パソコン音楽クラブ)
次に欲しい機材は…?
NOVATION Bass Stationです。ここで太い低音を出せるのがTB-303くらいで。西山君がラック版を以前持っていて、粘りのある音で良かったんです。低音が強いと適当にシーケンスを流すだけでも成立するので、そのシンプルさに引かれています(柴田)。
僕はROLAND JX-3Pです。生楽器をオマージュしたようなプリセットが入っていて、最近それをうまく使っている人が多い印象です。あとOBERHEIM Matrix-1000も気になっていますね(西山)。