ゼッド「Inside Out(feat. Griff)」のオーガニックなシンセ・リードを作る!〜洋楽ヒット曲に学ぶシンセの音作り

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Kポップからヒップホップ、R&B、ロック、EDMまで幅広いヒット曲のシンセを例に挙げ、ソフト・シンセを用いた音作りをサウンド・デザイナーのBlacklolitaが解説します。最近はストリングスや打楽器など、生楽器にインスパイアされたシンセが増加中。ここではEDM/ポップス・シーンで活躍するゼッドの「Inside Out (feat. Griff)」にインスパイアされた、オーガニックなシンセ・リードをSerumで作りたいと思います。

 使用シンセ  XFER RECORDS Serum

 

 

Step 1:エンベロープ
用途別に3つのエンベロープを作成

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 自然に揺らぐシンセ・リードを作るため、3つのエンベロープを用意します。ENV1は音量変化を設定するエンベロープで、アタックは0.0ms、ディケイは663ms、サステインは−7.6dB、リリースは少し長めの125msに。ENV2はシンセのテール部分、笛のような空気感のある揺らぎを再現するためのエンベロープです。アタックは335ms、ホールドは244ms、ディケイは1.00s、サステインは0.00%、リリースは15msにしましょう。

 ENV3はENV2と同じコンセプトですが、後述するエフェクトなどに対してアプローチするためのもの。アタックは339ms、ホールドは0.0ms、ディケイは1.00s、サステインは76.75%、リリースは15msにします。このように用途に分けて複数のエンベロープを作ることで、音作りがしやすくなるのでお勧めです。

 

Step 2:オシレーター&サブオシレーター
有機的な動きが出るウェーブテーブル

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 オシレーターAにはMiniBassを、オシレーターBにはHypaをウェーブテーブル・プリセットから選択。どちらもウェーブテーブルのポジションが変化した際に有機的な動きが出せ、芯のある音を作りやすい波形です。

 両者のLEVELにはENV1を、オシレーターAのWT POS(ウェーブテーブルの位置)とオシレーターBのSYNC1/2 WIN.にはENV3をアサインして動きを付けます。このSYNC1/2WIN.というパラメーターをひねると、OSC Bの画面に表示されたウェーブテーブル波形の長さを縮尺し、その分ピッチが上がった音を原音に混ぜることが可能です。なおサブオシレーターはノコギリ波を選び、LEVELにENV1をアサインしましょう。

 

Step 3:LFO
RATEでビブラートの速さを決める

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 ビブラート用のLFOを作ります。LFO1をクリックし、MODEではTRIGにチェックを入れましょう。その後、ビブラートの速さを決めるRATEを9.9Hzに設定すればOKです。ここは、それぞれお好きなスピードに調整してもよいと思います

 

Step 4:モジュレーション・マトリクス
LFOとENV2でモジュレーション

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 画面最上段にある4つのタブからMATRIXをクリックし、タブを切り替えましょう。MATRIXタブにはこれまでアサインしたモジュレーションが既に表示されていますが、さらに微調整を行いたいときに便利です。上から2番目のLFO1ではAMOUNTを8付近と低めに設定。DESTINATIONではMast.Tunを選択し、TYPEでは矢印マークをクリックしてバイポーラー・モード(赤枠)に切り替えます。こうすることで、全体のピッチを揺らすことが可能です。

 さらにENV2のエンベロープをなぞるようにLFO1を設定したいため、LFO1のAUX SOURCEではEnv2を選びましょう。最後にOUTPUTを21辺りに設定すれば、音量変化の伴うビブラートの完成です!

 

Step 5:エフェクト
ディストーションで程良く音量を稼ぎつつギラつきを持たせる

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 最後はFXタブを開きます。上からHYPER/DIMENSION、DISTORTION、COMPRESS、CHORUS、DELAY、FILTER、REVERB、EQUALIZERの順でインサート。発音した瞬間に音像も広がってほしいので、HYPERのMIXにはENV1をアサインします。DISTORTIONではDiode1を選択しましたが、これは少量でもかなり音がひずむため、MIXは50%にとどめてDRIVEは7%程度にしておきましょう。こうすることで程良く音量を稼ぎ、なおかつ音にギラつきを持たせることができるのです。F(周波数)は330(Hz)、Qは2.0でローパスにします(赤枠)。

 その音を次段のCOMPRESSでさらに持ち上げましょう。スレッショルドは−18.1dB、レシオは4:1、アタックとリリースは90.0ms、ゲインは6.2dB、MIXは100です。CHORUSでは、LPFを一度クリックしてHPFに切り替えます(青枠)。ここではコーラスの適用範囲をローパス/ハイパスで選べるのですが、シンセ・リードではハイパスの方が使い勝手が良いのです。RATEは0.08Hz、DELAY1は5.0ms、DEPTHは8.6ms、FEEDは21%、HPFは129Hzに設定。

 DELAYでは、中域のみ“ほんのり”かかるようにFEEDBACKは40%、Fは617、Qは0.8に調整し(黄枠)、PING-PONGモードにチェックを入れましょう。次段のFILTERではプリセットからFormant-IIIを選択し、CUTOFFとFORMNTにはENV2をアサインします。CUTOFFの方はバイポーラー・モードにしておきましょう。RESは54%、DRIVEは14%、MIXは50%にすればOKです。ここではフォルマント・フィルターをかけてあげるところがポイント。より揺らぎのある音色になります

 REVERBでは、HALLモードでMIXを11%にします。最後のEQUALIZERでは、ローカットとピークの2タイプのEQを使用。リード・シンセらしさを強調するために、ローカットEQで151Hz付近を−11.6dBディップし、ピークEQで2.8kHz付近を9.3dBブーストすれば完成です!

 

 

sonicwire.com

 

Afterwords〜サウンド・メイキングの面白さ

 ここまで洋楽ヒット曲のシンセ・サウンドを再現してきましたが、皆さんいかがでしたでしょうか? 1つのエンベロープでさまざまなパラメーターを制御したり、内蔵エフェクトを多段がけしたりと、あらゆるテクニックを駆使した内容をお伝えできたかと思います。

 

 サウンド・メイキングは、既存プリセットからテクニックを盗むというのが上達の秘けつ。まずはプロのお手本を参考に音作りを勉強することがお勧めです。中には自分では思い付かないようなテクニックを発見したりするので、一度目を通してみるとよいでしょう。

 

 もし、音作り中に迷子になってしまったというときは、一つずつエフェクトを外してみたり、目標とする音を構成する最低限の要素は何か?ということを考えてみるとよいです。迷ったときは、一度原点に立ち戻ることがお勧め。 音作りは一期一会のようなものです 。次の日にはスキルが上がって、より良い音作りを行えるでしょう。

 

 そのためにも毎日経験と知識を蓄えることが大切。失敗を恐れず、どんどんサウンド・メイキングしてください。やっていくうちにうまくなる部分もありますし、 あえて視点を変えた発想を取り入れることもポイントの一つかもしれません 

 

 もともと僕がサウンド・メイキングを始めたのは、スクリレックスの楽曲でよく知られている“グロウル系シンセ・ベースをどうしても再現したい!”という思いがきっかけ。 その気持ちだけで、今ではソフト・シンセを使いこなすことができるようになったのです 

 

 もちろん初めはうまく音作りができませんでした。しかし、海外Webサイトを読むために英語を勉強したり、シンセの専門用語などを理解できるまで調べ尽くしたりと、着実にスキルを身に付けてきたこともあっての現在があります。やはり“好き”という気持ちが一番の原動力でしょう。そして、それが今のサンプル・パック制作やサウンド・デザイン、作曲などの仕事につながったと言っても過言ではありません。

 

 ちなみに今回制作した6つのシンセ・プリセットのほかにも、EDMプロデューサーのヘイワイヤーにインスパイアされた荒々しいシンセ・リードや、トラップに即戦力のROLAND TR-808系キック・ベース、トロピカル・ハウスでよく聴くシンセ・プラック、アタック感あふれるスネアの 4つを“おまけプリセット”として同梱しています 

 

 ぜひこれらも自身の音楽制作に生かしたり、音作りの研究材料にしてもらえれば幸いです!

 

Blacklolita流〜シンセのサウンド・メイキング “3つのポイント”

Point 1|既存プリセットから技を盗む

Point 2|迷ったら音の構成要素を見直す

Point 3|失敗を恐れずたくさん作れ!

 

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Blacklolita

【Profile】サウンド・デザイナー/音楽クリエイター。2012年に音楽活動を開始し、ダブステップを軸にさまざまなダンス・ミュージックやゲーム音楽を制作する。そのほかシンセに関する講座や記事の執筆、サンプル・パックのデベロッパーKYMOGRAPHの運営も手掛けている。Twitter(@_Blacklolita_)も日々更新中!


【Recent Work】

gumroad.com

 

【特集】洋楽ヒット曲に学ぶシンセの音作り