「BLACK LION AUDIO Seventeen」製品レビュー:1176の研究に基づき独自開発されたFETコンプレッサー/リミッター

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 シカゴを本拠地とするメーカーBLACK LION AUDIOのアナログ・コンプレッサー/リミッターSeventeenです。その名前からUNIVERSAL AUDIO 175Bから1176と続くFETリミッターのリメイクだと思うかもしれませんが、そうではないそう。
 BLACK LION AUDIOが最新技術で1176を研究し、さらにLINDELL AUDIOのプロデューサー=トバイアス・リンデル氏と共同設計したIC回路の入力、シカゴ製出力トランスを備えたFETコンプ/リミッターです。

クリック付きノブでリコールが容易
激しいコンプ処理のレシオ全押しも可能

 では、外観から見ていきましょう。入力/出力/アタック/リリースのノブはすべてクリック付き。DAWでの録音が主流になり、曲のキー/テンポ/歌詞の変更で一部録り直しをすることが増えました。そういった際のリコール性を考え、クリック付きを採用したのだと思います。素子的にはアッテネーターではなく、連続可変の抵抗なので、クリックの間のポジションでの使用も可能になっています。

 

 入出力レベルは、1176で一般的な時計の10時(入力)と2時(出力)の位置にすると、出力レベルが低いです。私の本拠地prime sound studio formでは、正しいレベル感で1176を使う基準として、入出力レベルの位置に印を付けてあります。アタックとリリースを最速にして、レシオは4:1に設定。入力に+4dBの1kHz信号を入れて、リダクション・メーターが動き始める位置を探ります。内部調整ができている1176であれば入力レベルは10時ぐらいの位置になり、そのときに出力から+4dBが得られるように出力レベルを調整します。そのとき大体14時ぐらいの位置になると思います。

 

 今回のテストでは1176の標準的な位置で始めましたが、信号を入れて確認をしたところ、入力は1176と同じような10時ぐらいになりましたが、出力は2時では全然低く、右回転全開の位置で+4dBになりました。これは使用上重要なので、最初に入出力の基本セッティングは確認してください。

 

 アタックは1176と同じく20~800μsと最速セッティングです。リリースは50〜800msと、最大値が1176の1,100msより短いですが、1176でも最大値で使うことは滅多に無いので使いやすい設定範囲だと思います。

 

 本家の1176には無い、コンプレッサー回路に送る前の信号検出の際にかけられるハイパス・フィルターSidechain HPFはOFF/100/200/300/400Hzの5段階。原音とコンプのかかった音をミックスするCOMP MIXのドライ/ウェットのノブがあります。その隣のレシオは4:1、8:1、12:1、20:1の4つあり、同時に何個も押せるので、1176と同様に激しいコンプレッションをかけるブリティッシュ・モードでの使用もできます。

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フロント・パネル中央にはハイパス・フィルターのSidechain HPF、原音とコンプ音をミックスできるCOMP MIXが装備されている

 メーターはゲイン・リダクション(GR)表示のみで、その右に全体の音色にかかるハイパス・フィルター(−6dB/oct@100Hz)とローパス・フィルター(−6dB/oct@10kHz)があり、その下にコンプのオン/オフが付いています。背面には入出力(XLR)があり、ステレオで使う場合のLINK端子(RCAピン)もあります。電源はトランスを使ったアナログ電圧回路で、115Vと230Vの切り替え式です。

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リア・パネル。左から出力(XLR)、LINK端子(RCAピン)、入力(XLR)を装備

COMP MIXで繊細に原音を混ぜることで
抜けの良いボーカルを録ることができる

 では実際に使ってみましょう。1176とは違うと言っていますが、同じような使い方をした場合の動作と音色は非常に似たものです。しかし1176に無いセクションを使うことにより、より多彩な音色を得ることができます。Sidechain HPFを使ってキックやベースで低域を切ることで、ローエンドにかからずに、余韻をうまくコンプレッションすることができます。またその周波数も4段階あるので、アタック/リリースと組み合わせて適切なコンプレッションを得ることができました。

 

 Seventeenの最大の売りは、COMP MIXのドライ/ウェットだと感じました。1176でハードにコンプレッションすると音像が小さくなり過ぎて、オケの中で前に出てこない音になってしまう場面が多々あります。そのときにドライ音を足すことで、存在感のある音にすることができます。同じことをDAW上で行おうとすると、プラグイン・レイテンシーの問題などで位相が変になり音色がダメになることもあります。しかしアナログでのミックスならばそういった問題は一切無く、入力レベルとドライ/ウェットのつまみを自由に触って、音色作りを楽しむことができました。

 

 また、ボーカルに1176を使うことが日本では標準的ですが、私はあまり使用しません。それは、特に録音時に予想以上の大きな声で歌われた場合、大きくコンプレッションされた音はレンジの狭い独特の音色になってしまい、後処理ではどうにもできなくなってしまうからです。しかしSeventeenであれば、ドライ/ウェットの位置でそれを回避しながら、レベルの整った録音ができるのではないかと思い試してみることに。ほんの少し原音を足すことで、コンプレッションはかかっているけれど、抜けの良いボーカルを録ることができました。繊細な混ぜ具合ですが、クリックがあるおかげで毎回同じセッティングができるので、再録があった場合も安心して使うことができます。

 

 1176に似てはいますが、Sidechain HPF、COMP MIX、HPF/LPFなど追加されたセクションによって幅広い使い方ができます。これまでのクローン機材とは一線を画した、最新FETコンプ/リミッターです。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMP、など、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わる。

 

BLACK LION AUDIO Seventeen

オープン・プライス

(市場予想価格:99,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪HPF:100Hz/−6dB/oct ▪LPF:10kHz/−6dB/oct ▪アタック:20~800μsec ▪リリース:50〜800msec ▪サイド・チェインHPF:5段階(OFF/100/200/300/400Hz) ▪レシオ:4:1、8:1、12:1、20:1 ▪電圧:115V、230V ▪外形寸法:438(W)×88(H)×250(D)mm ▪重量:8kg

 

製品情報

www.mi7.co.jp

 

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