「FOCAL Clear MG Pro」製品レビュー:新開発のマグネシウム・ドライバーを搭載するオープン型ヘッドフォン

FOCALが発売したハイエンド志向のヘッドホン「Clear MG Pro」

 フランスのスピーカー・メーカー=FOCALは、創設当初から“ハイエンド志向”を貫いてきた。この思想はFOCALの全製品に行きわたっており、妥協が無くて完成度がどれも高いことから、世界中のエンジニアやアーティストの信頼を得ている。
 そんなFOCALから発売されたClear MG Proは、新開発の40mmマグネシウム“M型”インバーテッド・ドームを搭載したオープン型ヘッドフォン。ドライバーの素材がアルミニウム/マグネシウムだった従来モデル=Clear Professionalから進化。素材をマグネシウムに変更することで、軽量/硬質化を実現するとともに、振動効率を向上させて、物理的なひずみと余分な振動を除去した高解像度のサウンドを可能にしたという。

周波数特性は5Hz〜28kHz
インピーダンスは55Ωで感度は104dB SPL

 オープン型ヘッドフォンの特徴であるハウジングについて、Clear MG Proのものはメッシュ部分に六角形をあしらっていてとてもユニークだ。全体的に優美で高級感あふれるデザインに仕上がっている。

 

 周波数特性は5Hz〜28kHzで、超低域にフォーカスする意図が感じられる。インピーダンスも55Ωと、オープン型でありながら最近の傾向としてコンピューターなどに直挿しするようなことも想定されているようだ。感度は104dB SPL(1mW@1kHz)で、ケーブルは5mアンバランス・コイル・ケーブル(ステレオ・フォーン)と1.2mアンバランス・ケーブル(ステレオ・ミニ)の2種類を付属している。

付属している2種類のケーブルのうちの1つ、1.2mアンバランス・ケーブル(ステレオ・フォーン)

付属している2種類のケーブルのうちの1つ、1.2mアンバランス・ケーブル(ステレオ・フォーン)

 そのほか、ステレオ・フォーン変換プラグ、スペア・クッションを2セット用意。またPACE iLokのようなUSBキーなどを収納できるスペースが確保された、専用ハード・ケースも付属している。

ヘッドフォン本体やケーブル類を収納できる専用ハード・ケースの外観

ヘッドフォン本体やケーブル類を収納できる専用ハード・ケースの外観

専用ハード・ケース内部。USBキーなどを収納できるスペースが確保されているのもポイント

専用ハード・ケース内部。USBキーなどを収納できるスペースが確保されているのもポイント

 本体重量は450gとやや重く、手にした感じも少しごつい感じだが、側圧は程良く、優しく耳を包み込むイア・パッドの質感が心地良い。また人間工学に基づき、ヘッドフォンの重量を均等に分散する設計がなされているため、じきにその重みを忘れさせてくれる。これならば長時間の使用でも耳が痛くなることはないだろう。

 

超低〜中域の解像度と強力なアタック感
空間成分は明りょうに見える

 音質の第一印象は、超低〜中域(800Hz辺りまで)の押し出し感が強く、その衝撃的な低音感に驚かされた。音の骨格や楽曲における個々のパートの存在感が、いつもモニタリングしているヘッドフォンよりも大きく感じられて、慣れるのに多少の時間を要した。“音の厚み”というか、この低音は新たな感覚で、ただ低域成分が多いのではない確固たるポリシーや精ちな設計の上に成り立っているのが感じられる。ベース・ラインや低域のコードの存在感は一つ一つ丁寧に描き出されている印象で、もやっとした感じは一切無い。

 

 特に処理が難しい200〜300Hzぐらいの帯域の質感が良く、この解像度でモニタリングできれば低域処理での大きなアドバンテージとなるだろう。また、特筆すべきは低域だけではない。この独特なサウンドの中で、さらにClear MG Proの特色を決定付けているのが“アタック感”である。小気味良いほど直に突き刺さるこのアタック感には、色付けされていない力強さがある。よく“スピード感”という言葉で代用されがちであるが、あくまでもオリジナル・サウンドをピュアに再現していることを言いたい。このように高解像度でモニタリングできることは、全体的なコンプ処理を楽にしてくれる。例えばミックス時には、スネアのコンプ処理において“力強さ”と“かけ過ぎ”の差にかなり気を配るのだが、そうした微妙なニュアンスの違いをスレッショルドを変えながら即座に判断することができるだろう。

 

 もう一つ大きな印象として挙げられるのは、オープン型でありながら“音の距離感が近い”こと。もちろん密閉型ほどではないが、Clear MG Proにはその中間で鳴っているような独特のモニター感がある。オープン型の特徴である“遠めで空気感のある音”を好む人には、少し不向きかもしれない。しかしその分、オンマイクで録音されたボーカルの質感が特に生々しく、強弱感がとても繊細に伝わってくる。また、全体の空気/奥行き感を見わたすにも優れている印象。ごっつい超低〜中域にかけての強力なアタック感の外側に、とても明りょうな空間成分を見ることもできた。

 

 硬質なボディにまとわれた超低域サウンドを印象付けるClear MG Proの魅力は、オリジナルのピュアなサウンドの再現にとどまらず、これまで見えなかったディテールにも気付かせてくれること。これはクラシック音楽の再現能力にもよく表れており、実際の音作りでも細部に行き届いた空間処理や音圧のコントロールを可能にするだろう。スピーカーを鳴らせない環境やデスクトップでの制作が増えていく中で、このClear MG Proは、低域好きはもちろんのこと、ジャンルを問わず低域処理を苦手とする人にお薦めしたいモデルである。

 

飛澤正人
【Profile】Dragon Ash、HYなどの作品を手掛けてきたエンジニア。3Dサウンドの制作を展開するnext Soundを設立し、2ミックスでは表現できないサウンドを追求している。

 

FOCAL Clear MG Pro

198,000円

 

SPECIFICATIONS
▪タイプ:オーバー・イア・オープン型 ヘッドフォン ▪インピーダンス:55Ω ▪周波数特性:5Hz〜28kHz ▪感度:104dB SPL(1mW@1kHz) ▪ドライバー:40mmマグネシウムMシェイプ・ドーム ▪THD(100dB SPL):0.25%以下@1kHz ▪付属ケーブル:5mアンバランス・コイル・ケーブル(ステレオ・フォーン)、1.2mアンバランス・ケーブル(ステレオ・ミニ)、ステレオ・フォーン変換プラグ ▪スペア・クッション:2セット ▪付属ハード・ケース寸法:250(W)×240(H)×120(D)mm ▪重量:450g(本体)

 

製品情報

 

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