FOCAL Shapeシリーズが打ち出す 新感覚のニアフィールド・モニター

20以上の特許技術を保有するフランスのスピーカー・ブランド=FOCALが、2017年に発表したニアフィールド・モニターのShapeシリーズ。バスレフの代わりにパッシブ・ラジエーターを両サイドに搭載し、独自のツィーターや亜麻繊維を採用したコーン・ウーファーを装備するなど、その斬新なアイディアは一部のスピーカー・ファンの関心を集めた。2018年には同シリーズのフラッグシップ・モデルとなる2.5ウェイ・パワード・モニター、Shape Twinが登場。ウーファーを2つ搭載することで、従来から定評あるサウンドにさらなる磨きをかけている。ここではさまざまな角度から、その実力を明らかにしていきたい。

Developer Interview

開発者に聞くShapeシリーズの魅力

開発者Benjamin PARES-DSC_4596フランスで設計/製造されているというニアフィールド・モニターのFOCAL Shapeシリーズ。ここではまず、Shapeシリーズの開発責任者=ベンジャミン・ペアーズ氏(写真)にメール・インタビューを行い、話を伺った。

幅広い周波数特性と一切妥協の無い音質

Shapeシリーズを開発するきっかけは何だったのですか?

ペアーズ Shapeシリーズ・プロジェクトを立ち上げた理由は大きく分けて2つあります。1つ目は、ひずみを軽減するチューンド・マス・ダンパー・サラウンドやMシェイプ・インバーテッド・ドーム・ツィーターなどの独自技術と、亜麻繊維であるフラックス素材を活用できるモデルの開発が可能になったこと。2つ目は、ホーム・スタジオ向け2ウェイ・アクティブ・モニター=Alphaシリーズの上に位置するラインナップをFOCALは必要としていたことが挙げられます。

Shapeシリーズのコンセプトは?

ペアーズ 小規模ルーム用のニアフィールド・モニターとして、幅広い周波数特性と一切妥協の無い音質を持ち併せたスピーカーです。さまざまな技術を組み込んだことによって、開発には約4年もの歳月を費やしました。

独自のMシェイプ・インバーテッド・ドーム・ツィーターについて教えてください。

ペアーズ このツィーターの開発が、今回最も困難だったのではないでしょうか。素材はアルミニウムとマグネシウムの合金で、M型のドーム形状と相まって高域の繊細な表現力や広いスイート・スポットの実現、ひずみの軽減に役立っています。また長時間のリスニングでも耳が疲れないように気を配りました。

ウーファー部分には、フラックス・サンドイッチ・コーンが採用されていますね。

ペアーズ 亜麻繊維をグラスファイバーで挟んだこの複合素材は、優れた内部ダンピング特性と素早いレスポンス、わん曲剛性に優れており、ウーファーに求められる重要なファクターを完ぺきに近い形で実現してくれました。また、亜麻繊維はフランス国内で生産された高品質のものを使用しています。

設置環境に関係無く高解像度の低域を再現

Shapeシリーズにおいて最も特徴的な、側面のパッシブ・ラジエーターについて教えてください。

ペアーズ パッシブ・ラジエーターは時として芯がなく、“柔らか過ぎるサウンド”と評されることもあります。またダイナミクスに欠ける低周波を生み出し、場合によっては揺らぎを引き起こす原因となることもありますが、FOCALは15年にわたって研究を重ねてきました。結果として、私たちはダブル・サスペンションを用いたピストン運動による、柔軟で軽量なパッシブ・ラジエーターをShapeシリーズで実現することができたのです。これはスピーカーの背後や左右にスペースを確保できない設置環境でも、高い解像度を保った低域を再現可能にし、キャビネットの振動を抑制することにもつながりました。

FOCAL Shapeシリーズ・ラインナップ

Shapeシリーズは全4種類。ペアーズ氏いわく、「10〜12㎡程度のスタジオにはShape 40/50が最適。ローエンドが重要なダンス・ミュージックなどにはShape 65、またはShape Twinがよいでしょう。Shape Twinはシリーズの中でもローミッドの表現力に優れています」とアドバイスしてくれた。

▲Shape 4045,370円(1台) ▲Shape 40 45,370円(1台)
Shape 5055,370円(1台) ▲Shape 50 55,370円(1台)
Shape 6573,889円(1台) ▲Shape 65 73,889円(1台)
Shape Twin92,407円(1台) ▲Shape Twin 92,407円(1台)
▲Shape Twinのリア・パネル。XLRとRCAピンの入力端子やハイパス・フィルター、3バンドEQを備えている ▲Shape Twinのリア・パネル。XLRとRCAピンの入力端子やハイパス・フィルター、3バンドEQを備えている

User Report①

松隈ケンタ

ラージ・モニターでないと鳴らないような超低域が
そこまでボリュームを上げなくても聴こえるんです
IMG_6391 撮影:松山隆佳【Profile】バンドBuzz72+を経て、音楽制作集団SCRAMBLESの代表に。Jポップにエモーショナルなロック・サウンドを取り入れる手腕に定評があり、BiSHやBiSなどのサウンド・プロデュースを行う

アレンジやミックスにおいて
素早い判断を可能にする心強いスピーカー

もともと僕はFOCALのモニター・スピーカーが大好きで、自宅のスタジオにはコンパクトな2ウェイ・アクティブ・タイプのCMS50、東京のスタジオには3ウェイ・アクティブ・タイプのTwin6 Beを置いているんです。今回、福岡にスタジオを作るタイミングで新しいモニターを探していた矢先、ちょうどShape Twinが出たという情報が入ってきたんですよ。写真を見るとウーファーが縦に2つ搭載されたモデルで……実は、いつもお世話になっているマスタリング・スタジオでも同じようなデザインのスピーカーが設置してあり、こういったタイプのモニターが自分の耳には合っているのではないかと感じていました。そのような理由から、今回はShape Twinを導入してみようと思ったんです。

実際スタジオに届くとイメージより若干大きい印象でしたが、あらためてほかのブランドにはないスタイリッシュなデザインが格好良いなと思いました。現在は壁から20〜30cmの距離に設置し、底面に備えられた4つのスパイクを使って角度を調整しています。驚いたのは、こんなに壁の近くに置いているのにほとんど音に影響が出ていないこと。設置環境の影響を受けにくいスピーカーは、小規模スタジオでも気軽に配置できるのでありがたいです。そのためか、音が耳へダイレクトに飛んでくるような感じで聴こえるんですよ。特に生楽器のダイナミクスをとてもリアルに表現してくれます。中にはコンプがかかって聴こえるスピーカーも多いのですが、Shape Twinはナチュラルに聴こえ、音像が見えやすいのがいいですね。音が無駄にシャリシャリしないと言いますか、高域が強過ぎないところもすごく気に入ってます。

超低域に関しては、ラージ・モニターで鳴らさないと聴こえないような帯域が、そこまでボリュームを上げなくても出ているんです。側面にある2つのパッシブ・ラジエーターのおかげだと思うんですが、ミックスでローカットする際、超低域がよく見えるのでスムーズに処理ができます。

個人的には楽曲の芯でもあるローミッドの鳴りをすごく気にするタイプなのですが、Shape Twinはその帯域の解像度も高いんです。ミックスしているときにローミッドが薄くなったら、すぐに気が付くんですよ。そういった意味でも、アレンジではもちろんミックスにおいても素早い判断を可能にする心強いモニター・スピーカーだと言えますね!

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User Report②

保本真吾(CHRYSANTHEMUM BRIDGE)

これ以上にコストとサウンドの両方に優れたスピーカーは
まだ自分の中では見つかっていない
190205_0008 撮影:北村勇祐【Profile】香川県出身。サウンド・プロデューサーとして、SEKAI NO OWARIやゆず、新津由衣、三上ちさこ、SILENT SIREN、シナリオアート、家入レオなどのアーティストを手掛けている

高域は出るんだけどギラギラしておらず
中低域は明りょうでパンチがある

以前、サンレコ2018年6月号の特集「本気のハイグレード・スピーカー徹底試聴!」で、いろいろなスピーカーを聴き比べして、自宅スタジオのevergreenで使っている2ウェイ・パワード・モニターFOCAL Solo 6 Be Redがあらためて良いなと思ったんです。その後、ここフューチャー・ラボ SETAGAYAに導入するスピーカーを探していたとき、楽器店に行ったらShape Twinが置いてあったので聴いてみたところ、もうその瞬間に“これだ!”と思ったんです。FOCAL Trio6 Beも候補だったんですが、このスタジオには少し大きいサイズだったのでShape Twinに決めました。

このスタジオでは、普段、楽器や歌のレコーディングやミックスで使用していますが、Shape Twinが持つ独特のサウンド・カラーは僕の好みにぴったりで、とても気持ちよく作業を進められるんです。全体的に派手過ぎず、かといって全く味気無いわけでもない。高域は出るんだけどギラギラしてないし、中低域は明りょうでパンチがあるのでテンションも上がるんです。さらに周波数特性やステレオ・イメージが幅広いので非常に定位感も分かりやすい。明らかに楽器の一体感や奥行きがよく見えます。

低域に関して言えば、芯はあるけど硬くなく弾力のあるサウンド。海外の作品にあるような低域感なので僕好みでもあるし、音作りもしやすいです。ミックスするときは外部のエンジニアがここに来て作業して、チェックで人が集まることもあるんですが、とにかく皆さんの反応がすごく良くて。中にはここで聴いて購入したいと言った人もいますね。あと、パッシブ・ラジエーターが両側に付いているから超低域が結構出ますが、これは個人の好みによるところでしょう。リア・パネルにはハイパス・フィルターや3バンドEQを搭載しており、そこでコントロールすることも可能なのですが、僕はなるべくスピーカーそのままの音を大切にしたいのでフラットにしています。超低域の調整はインシュレーターを使うのが効果的でしたね。

そしてShape Twinはコスト・パフォーマンスにも優れていると思います。ほかのハイエンド・モデルもいろいろと聴き比べたんですが、それらと全く劣らないクオリティです。このサウンドでこの価格は本当に素晴らしい。正直、現時点でこれ以上にコストとサウンドのパフォーマンスが優れたスピーカーは、自分の中では見つかっていないです。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より転載