30Hz付近の低域を再生可能
ピュア・ベリリウム・ツィーターを採用
Trio11 BEのサイズはSM9より一回り大きく、重量も2kgだけTrio11 BEが重い。どちらも通常の3ウェイでの運用に加え、2ウェイ・モードを備えており、ウーファーを使用せずにニアフィールド・モニターでの再生帯域を容易に確認することができる。Trio11 BEではフット・スイッチなどを接続してリモートでのモード切り替えが可能となった。周波数特性や最大音圧はわずかな差があるものの、両機はほぼ同等だ。
Trio11 BEのウーファーとミッドレンジ・ドライバーに使われているコーンは、SMシリーズではおなじみのWコンポジット・サンドイッチ・コーン。軽量なコア材をグラスファイバーでサンドイッチする構造によって、軽さと剛性、さらに高減衰特性を併せ持っている。近年、EDMやトラップなど30Hz辺りの低域にどうアプローチするかが求められてきている。Trio11 BEではウーファーが30Hz付近の低域を鳴らしてくれることで、音量の大小にかかわらず、くっきりとバランス良く聴くことを可能にしてくれる。30Hzを意識したレコーディングやミキシングに最適な環境と言えるだろう。
そして、ツィーターのピュア・ベリリウム採用インバーテッド・ドームはTrio 11BEで最も高価なパーツとのこと。レアメタルであるベリリウムを使うことにより、低質量と高剛性を両立。さらに独自開発によるインバーテッド・ドーム形状は、凸型ドームよりひずみにくく、空間分散と広い指向性が特徴となる。ツィーターにはグリル・カバーが付いているが、これはベリリウム・ツィーターが極めて薄いため。スピーカーを持ち運ぶ際、ネックレスなどがツィーターのマグネットに引き寄せられてツィーターが破損する事故が起こらないようにしている。
また、Trio11 BEのツィーター&ミッドレンジ・ユニットのバッフル・プレートは90°回転するので、縦置き/横置きのどちらにも対応できる。説明書には“L/Rのモニター(ツィーター)間を1.8〜2m程度離すことを強くお勧めする”とあった。横置きの状態で左右を入れ替えてテストしてみたところ、ツィーターを外側にした方がステレオ感が強調されたワイドでビックなサウンドになり、大きく印象が変わる。この距離設定は重要であると感じた。
空気感の変化がよく分かるモニター
シンセのミックスも立体感が作りやすい
いろいろなジャンルの曲をTrio11 BEと、SM9とで聴き比べたが、特に2ウェイ・モードでは随分印象が違って聴こえた。ミッドレンジのコーン・サイズはSM9の16cmに対してTrio11 BEが13cmと小柄。その代わりアンプはSM9の100Wに対しTrio11 BEは150Wで、バスレフ・ポートがツィーターの横に小さく2つ空いている。Trio11 BEの方が、ダクトの風切り音がして心地良く、90〜100Hz辺りがふくよかで温かみがある。SM9はTrio11 BEよりローミッドの輪郭がはっきりしていて、シャープでガッツがある印象だ。
さて、通常の3ウェイ・モードも両機で違いが感じられた。ウーファーはSM9の20cmに対しTrio11 BEは25cmと少々大きい。アンプはSM9が400Wに対してTrio11 BEは300W。スペックだけで見るとSM9は低域寄り、Trio11 BEは中域寄りにパワーが振られているようだ。最大の違いは、Trio11 BEはウーファーの下(縦置き時)にバスレフ・ポートが大きく横長に空いていること。風圧が体に伝わって迫力が増す。SM9では直径27cmの大きなパッシブ・ラジエーターが天井に向けて備わっていたため、低域の音圧が天井で跳ね返り分散され、包み込まれるイメージがした。それぞれ低域のアプローチの仕方がかなり違うが、どちらも素晴らしい音には間違い無い。そして両機とも、低域が十分に出ているミックスと出ていないミックスがはっきりと分かるので、分析しやすい点は共通している。
Trio11 BEは空気感がよく伝わってくるため、生音や打ち込みの空間を表現するのに最高だと感じた。歌やアコースティック・ギター、ドラムのアンビなどのマイキングがしやすく、微妙な距離の違いで空気感の変化がよく分かり、楽しくなる。打ち込みの場合も、ミックスで距離感や立体的な音を作りやすく、ソフト音源をアナログ・シンセのような質感に加工する作業もやりやすいだろう。レンジも広いので、あらゆるジャンルで空間や響きを重視した作品には、大きく力を発揮するスピーカーだ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年8月号より)