高域の伸びが心地良いサウンド
低域はもたつかずレスポンスも良好
WA-251は、モデリング元のマイクに内蔵されているCK12カプセルのサウンドを目指して製作されたブラス製カプセルを採用。真空管には、スロバキアにあるJJ ELECTRONICの12AY7真空管が使用されています。また、アメリカのCINEMAG製トランスも内蔵。目指すサウンド・キャラクターに合わせて数種類のメーカーからパーツを選んでいるようで、ポリスチレン・カップリング・コンデンサー、WIMA製フィルム・コンデンサー、フランスのSOLEN製コンデンサーなども使ったディスクリート設計となっています。現在入手可能なパーツをとことん選別してデザインしているようです。
モデリング元のマイクと同様に、WA-251は切り替え可能な3つの指向性(カーディオイド/無指向/双指向)を持っていますが、オリジナルとは違い、本体には切り替えスイッチが備わっていません。加えて、本体の大きさも若干細身なスタイルに。ボディ・カラーは、モデリング元に近い少し明るめのアイボリーです。本体はなかなか豪華な木製ケースに収納されていて、電源モジュールと7ピンの専用XLRケーブル、黒い大型のショック・マウントが付属(写真①②)。先述の指向性の切り替えはこの電源モジュールにあるノブで行います。電源モジュールはAC115Vまたは230Vで駆動し、使用環境に合わせてスイッチで切り替え可能になっています。
では実際に音を聴いてみましょう。今回はAVID Pro Toolsに録音して、NEUMANN U87(オールド・タイプ)と聴き比べをします。まずはそれぞれの音量差ですが、WA-251の方が12dBほど大きいです。現行のU87AIはオールドのU87よりも10dBほど大きいので、WA-251の出力は現在の高出力マイクとほぼ同じくらいと言えます。出力差があるので当然ですが、SN比はWA-251の方が良かったのは言うまでもありません。
男女の声/歌でもチェックします。癖のあるマイクの場合は明確に差が出ますが、今回は2本ともかなり似た音の傾向。オールドのU87は中低域が充実していて太めなサウンドですが、WA-251もなかなか存在感あるサウンドです。高域の倍音の伸びは若干WA-251が心地良く、自然につながっているイメージ。オンマイク時にも、低域はもたつかずレスポンスが良い印象で、特に声量の小さめな女性ボーカルには相性が良さそうだと感じました。
音像が立体的で躍動感がある
ボーカルのほか楽器全般と相性が良い
続いて、アコースティック・ギターでストロークとアルペジオを織り交ぜつつチェックしました。低域はU87の方が若干太く感じましたが、WA-251は中域の柔らかなストロークが塊になるような飽和感が少なく、余裕を持った音の印象です。アタック感の不自然さは無く、高域は明りょうかつ伸びやかで、ギターとの相性の良さも感じられます。
コンガなどの皮系打楽器では手が皮に当たるアタック部分がリアルに表現され、胴鳴りの響きも良く、低域ももたつくことなく自然な量感。金属系打楽器の高域やアタック感も不自然さはありませんでした。U87に比べて少しWA-251のレンジが広く感じますが、現代の設計ですからある意味当たり前と言えるのかもしれません。
スペクトラム・アナライザーでより細かく確認してみると、レンジはWA-251の方がワイドで、中低域はU87の方が若干豊か。マイクの個体差もあると思いますが、この部分が両者のニュアンスの差になっているようです。
今回はモデリング元のマイクではなくU87との比較をしましたが、十分に“素性の良さ”を確認できました。昔に私が居たスタジオには幾つものビンテージ・マイクがありましたが、その中でもWA-251の参照元のマイクはコンディションが良く、ボーカルはもとよりピアノではつやがあり、抜けの良いサウンドで、ミュージシャンも含めて大好評だったことが鮮烈に記憶に残っています。その特性を受け継いだ本機は、音像が平面にならず立体的で躍動感があるサウンドで、ボーカルだけでなく管弦など、楽器全般に相性が良さそうな印象を受けました。かなり優秀で、目指したサウンドの方向性はなかなか好感が持てます。
現在、アナログの名機は世界中で取引されています。WA-251の元となったマイクも現存していますが、コンディションの良いものはそれほどは多くはありません。また、日本においても実際に使ったことのあるエンジニアやミュージシャンも少ないでしょう。そんな中で登場したのがWA-251。この価格帯で表現/勝負しようとするWARM AUDIOの意気込みが感じられるマイクになっていると思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年8月号より)