
Micro Clock MKIIは最高192kHz
MKIIIは最高384kHzを出力可
本題へ入る前に、まずはクロックの重要性を考えてみましょう。すべてのデジタル機器は、必ずクロック回路を内蔵しています。ADコンバーターであれば入力されたアナログ信号をクロックのタイミングで刻み、切り取った瞬間ごとの波形の高さを数値化しているのです。例えば1秒間に48,000回切り刻めば“48kHzでサンプリングした”といいます。一度数値化された波形は、その後アナログ波形に戻されるまでは数値の羅列として処理されます。その数値の切れ目を管理するのがクロックで、機器同士をデジタルで接続した場合は波形の数値とともにクロックも伝送され、受けた方の機器がそのクロックに同期することでタイミングが維持されます。タイミングの基準となる大元のクロックが揺れると、すべての処理に影響するのは想像に難くありません。正確なデジタル処理やD/Aのためには、正確なクロックが絶対条件なのです。
昨今は、発振精度の高い水晶の発振器をさらに高精度のルビジウム発振器で外部から制御し、揺れを極限まで少なくするのがプロ機の音を良くするクロックとされています。ルビジウムのクロック・ジェネレーターは数十万〜100万円以上と高級化しています。今回の2機種は、そんな高級機とは違う小型の水晶発振クロックです。
まず小型のMicro Clock MKII(以下、MKII)から見てみましょう。コンパクト・エフェクターのようなダイキャスト・シャーシに入っています。フロント・パネルには44.1kHzと48kHzを切り替えられるトグル・スイッチと、それらの倍数を決めるロータリー・スイッチがあり44.1〜192kHzの各周波数を設定します。ほかにはBNCのワード・クロック・アウト3つとDCインが付いているだけのシンプルな構成で、発振周波数の表示画面などはありません。こうした設計によりノイズの発生源が少なく、高性能に寄与しているとのことです。さらに頑丈なシャーシは、外部からの電磁波を遮断するそうです。
上位機種のMicro Clock MKIII(以下、MKIII)では、フロントにあるのは電源スイッチとサンプリング・レートを決めるダイアル、周波数を表示するLEDディスプレイとその明暗を調整するスイッチのみ。リアには各種ワード・クロック・アウトが装備され、最高384kHzのBNC端子が6つ、最高192kHzに対応するAES/EBUのXLR端子とS/P DIFのコアキシャル端子、最高96kHzをサポートするS/P DIFのオプティカル端子などがスタンバイ。BNCアウトには個別のドライバーが搭載され、最大限の分離を実現しているそうです。
MKIIIは驚くべきクオリティ
音の細部の輪郭が立ってくる
今回はAVID Pro Tools|HDシステム(ソフトウェアのバージョンは12)環境で、HD I/OとPRISM SOUND ADA-8XRの2種類のオーディオI/Oを使ってテスト。各オーディオI/Oの内蔵クロックとMKII/MKIIIのクロックを比較してみました。
まずはHD I/OにMKIIIのクロックを入れて、歌モノのセッションを試聴。“クロックを替えるなら高級化するのが当たり前”と思っていましたが、HD I/Oのインターナルをエクスターナルに切り替えて出てきた音にビックリしました。それまで聴こえなかった音の細部の輪郭が見えてきたのです。オーバーに言えば、高品位なマキシマイザーをほんの少しかけて、音の粒立ちを良くしたような音になりました。ボーカリストが一歩前に来て歌っているようです。各楽器も輪郭がハッキリして、分離も良く、音圧も上がったように聴こえます。次にMKIIのクロックをHD I/Oに入力。MKIIIと音の方向性は同じですが、少し粗くなる印象です。価格差を考えれば納得の差で、組み合わせる機材のグレードに合わせて選べばいいと思います。
そしてADA-8XRでの試聴。ADA-8XRは内蔵クロックで使うのが一番好きな音色で、外部クロックにして良かったのは100万円超えのANTELOPEのルビジウム・クロックだけでした。なので、MKIIIに関してはまたもやビックリです。音の変化の方向はHD I/Oのときと一緒で、音の輪郭がハッキリしてくる印象。それにより細部まで聴こえてきます。ルビジウムなどの高級クロックを使った際の滑らかさとは別のものですが、高域はキラッと、低域はパリッとした音色になるので、ポップス/ロックに向いたクロックだと思います。
これまでたくさんのクロックを試してきましたが、MKIIIはトップ・レベルの好印象。こんな黒い小さな箱に膨大なノウハウが詰められた素晴らしい製品だと思います。



製品サイト:http://www.mi7.co.jp/products/blacklionaudio/microclockmkiii/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)