
トランスレス入力+トランス出力で
“ハイファイ以上”のサウンドを狙う
BLACK LION AUDIOは、日本には最近入ってきたばかりでまだあまりなじみがないと思いますが、さまざまな機器のモディファイなどで海外では知る人ぞ知るメーカー。ユーザーにも有名なエンジニアやミュージシャンが居るようなので期待が持てます。
今回レビューするAuteur MKIIは2chマイクプリで、1Uハーフ・ラック・サイズ。電源はACアダプターですが容量も大きく、この手の機器では珍しく24V仕様となっています。ACアダプターだとコネクター部分がすぐ抜けるトラブルが起こりがちだという印象がありますが、本機の場合、コネクターがねじ込み式になっているので不用意に抜ける心配もありません。入出力端子は、入力がXLR、出力がTRSフォーン。できれば出力端子もXLRだとうれしかったのですが、サイズを考えると仕方なかったのでしょう。
フロント・パネルは、マイクプリとして標準の仕様で、メインの電源スイッチと、各チャンネルに48Vファンタム電源、ゲイン、位相反転、PAD(−10dB)という機能が装備されています。使い方も簡単ですね。
内部の特徴としては、入力側はトランスレスの回路デザインになっており、クリアな音を狙っているとのこと。一方で出力側にM-6 Silicon Steel(ケイ素鋼)のトランスを装備し、ただ単にハイファイを求めているだけではない回路設計になっています。
ドラムの皮モノに最適な
スピードが速くクリアな音色
実際に音を聴いてみて、スピードが速くクリアだなというのが第一印象。本機を試した後に同じ素材をビンテージ機や、ビンテージを意識した作りのマイクプリに切り替えて聴くと、ちょっとこもって聴こえるほどでした。もちろん何をどう録るのかにもよるとは思いますが、Auteur MKIIがクリアなマイクプリであるというのは一発で分かります。
今回いろいろな楽器で試してみましたが、一番印象が良かったのがドラムのスネアやタムなどの皮モノで、ダイナミック・マイクで収音するようなケースです。海外のドラム・サウンドのようなスピード感のあるアタックとクリアさは、普段はついついかけてしまうEQが要らなくなる感じです。
低域の膨らみもきちんと録音
クリアだが個性も併せ持つ
アコースティック・ギターでは、一聴した感じで良い印象。GIBSON系のザクッとした感じには合っていると思いました。奇麗さを求めるならバッチリですが、ギター自体が抜けの良いものだと、本機の特徴と合わさってちょっとクセのある感じになってしまいます。
次にボーカルの場合ですが、これは一長一短という感じでした。本機がスピード感がある分、ボーカリストによっては中域のピークが如実に再現されてしまい、きつく感じるところがあります。マイクの選択も、最近のモデルよりはスピード感がちょっと劣るビンテージ系マイクの方がマッチしている感じです。Auteur MKII自体は表情のディテールもちゃんと再現してくれるので、上手/下手もそのまま出る印象がありました。
どんなソースに対してもスピード感があってクリアという印象ですが、抜けが良いからといってチリチリとした高域が出過ぎているという感じはありません。低域もクリアな膨らみがちゃんと録音できていたので、この価格帯のマイクプリとしては優れていると思います。こうしたサウンドにはアウトプット・トランスが効いているのかもしれませんね。特にクリアなドラムを録りたいときには、本当に何台か用意したいな〜なんて思ってしまいました。
2chのマイクプリが7万円代でこの音ならば合格点でしょう。クリアですが原音忠実主義的な感じではなく、良い意味でちゃんと個性も持っていますので、音にスピード感やクリアさが欲しい人は試してみるとよいと思います。マイクプリのキャラクターの選択肢として、価格も手ごろですし持っていても良いなと思えるマイクプリでした。なお、API 500互換モジュール版のAuteur MKII 500(写真①)もリリースされているので、好きな方をを選べるのもよいですね。BLACK LION AUDIOにはNEVEやAPIにならったマイクプリもあるようなので、それらも試してみたくなりました。


製品サイト:http://www.mi7.co.jp/products/blacklionaudio/auteurmkii/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)