おおくぼけい(アーバンギャルド)のプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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テクノからフォークやロックまで生み出し続ける
鍵盤楽器の名機やモジュラー・シンセに囲まれた研究室

 数々のアーティストと活動し、頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも欠かせない存在の作編曲家/キーボーディスト、おおくぼけい。演奏のみならず、作曲からミックスまで幅広くこなす彼の自宅兼プライベート・スタジオを訪れた。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

 

ボーカル・レコーディングやピアノ演奏用の防音室
制作とライブに3種類のDAWを使い分け

 主な活動場所は隣接する制作用スペースと防音ルームの2部屋。この構造は建築時から構想を練っていたという。

 

 「家を建てるときにピアノの練習ができるよう防音ルームを造ったのですが、将来的にボーカル・ブースとしても使用することを見越した設計になっています。近い将来、制作部屋と防音ルームの間にケーブルを通せるようにする予定です」

 

 おおくぼは、松永天馬(vo)および浜崎容子(vo)と共にアーバンギャルドとして活動中。緊急事態宣言下で完成した最新作『アバンデミック』はリモートでの制作が中心で、メンバーと連携を取りつつ、このスタジオで作業が進められた。

 

 「例えば、「神ングアウト」はLINE電話でお互いメロディを歌って、都度僕が形にしました。制作用のDAWはAPPLE Logic Pro Xです。アーバンギャルドのアレンジを手伝っていた杉山圭一君など、周りにユーザーが多いので選びました」

 

 ライブでは編成に応じて別のDAWを使い分けるという。

 

 「アーバンギャルドのライブは、サポート・ミュージシャンを含むバンド編成と、メンバー3人だけの編成があるんです。バンド編成で同期モノを使うときは動作が安定しているMOTU Digital Performerを使います。複数の楽曲を並べてスムーズに切り替えられるチャンク機能も便利ですよね。後者の場合は打ち込みのトラックとボーカルだけなので、即興パフォーマンスやDJミックスのようなつなぎを行うために、ABLETON LiveとコントローラーのPush 2を使います

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APPLE MacBook Proを使い、メインのウィンドウとプラグインでディスプレイを分けて表示。オーディオI/OはRME Fireface UCX。ピアノ用の椅子と机上の鉛筆削りは幼少期から愛用し続けているという。テープ・レコーダーは“キュルル”というテープを巻く音が欲しいときやSEの制作に使用

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メイン・モニターのADAM AUDIO A7Xは『アバンデミック』の制作から導入。「ミキシングでの低音処理がスムーズになった」と話す

 プレイヤーとしての原点となったというオルガンやピアノをはじめ、スタジオ内の至るところに鍵盤楽器が点在する。

 

 「HAMMOND XK-3CやRHODES Stage Piano Mark Ⅱは長年使っていますが、やっぱり音が良いんですよ。今は頭脳警察や大槻ケンヂさんとの活動で使っていますね。作曲にはROLAND RD-700GXを主にMIDI鍵盤として使います。以前ライブで使っていたので弾き慣れていて。あと、YAMAHA DX100は、トーキング・モジュレーターに通すのに最適です。ライブではセッティングの都合もあって、NORD Nord Stage3での演奏が多いですね」

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防音室にはアップライト・ピアノのYAMAHA W101とHAMMOND XK-3C、YAMAHA DX100、MOOG Grandmotherがスタンバイ。ボーカル・レコーディングもここで

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上段中央の黒い筐体はマイクプリUNIVERSAL AUDIO Solo/610。中段手前KORG MS-20は音源として使うことが多い。その右にはKORG Monotribeや、DOEPFER Dark Link、モジュラー・ラックが続き、右端にはROLAND TR-8、Space Echo RE-101が見える

 制作スペースの棚で目を引くのがモジュラー・シンセ。現在買い足している最中だというが、その魅力を尋ねてみた。

 

 「モジュラーは不便なところが良いですね。触れていく過程でひらめきがありますし、音圧の高さにも驚きました。マリアンヌ東雲とのユニット=肋骨ではすごくダークなテクノをやっているのですが、そこではモジュラーを多用しています」

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TIPTOP AUDIO Z3000(上段右から4番目)はオシレーターのチューニングに重宝。DOEPFER A-160-2 Clock/Trigger Divider II(上段右から3番目)でクロックを分割することで、予想外のフレーズの生成につながる。JOMOX ModBase09 Bass Drum Module(下段左から2番目)は音抜けが良いというバス・ドラム専用モジュール

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左端のDANELECTRO DSR-1 Spring Kingは、モジュラー・シンセを通して使用することもある。LINE 6 DL4(左から2番目)はライブでルーパーとして使用、IBANEZ AD9(右から2番目)は、MS-20の音色と合わせると相性が良いという。右端はMOOG Theremini

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ROLAND RE-101 Space Echoはディレイの爆発音が好きで毎アルバムで1曲は使うという一台。シンセやモジュラーをスルーさせるだけでもテープ・コンプによって音のなじみが良くなるという

ストリングスはソロ音源を追加して生演奏感を演出
CELEMONY Melodyneで過激なボーカル処理


 ここまでスタジオのハードウェアを中心に見てきたが、DAW内部の制作環境も探ってみよう。まずは音色からだ。

 

 「ピアノ音色にはNATIVE INSTRUMENTS The Grandeurを使うことが多いですが、個性を出したいときはAlicia’s Keysも使いますね。シンセはオーソドックスですが、MassiveやXFER RECORDS Serum。あと、Logic Pro X付属のES2は8ビットっぽい矩形波が欲しいときやシンセ系のドラムの音作りにも活用します。ちなみに、生ドラムはFXPANSION BFD3が多いですね。シンセ・ベースはSPECTRASONICS Trilianを主軸にして、ほかのソフト・シンセで色付けしています。Trilianはほかのソフトと比べても音抜けが良くて」

 

 ストリングスの打ち込みでは、生演奏感を出すために、複数のソフト音源を組み合わせて使用しているという。

 

 「打ち込みのストリングスを数本生音に差し替えるのと似たイメージで、全体のストリングスと別に、ソロのソフト音源を足しています。メインはNATIVE INSTRUMENTS Session Strings。それに加えて、管楽器単体のBEST SERVICE Chris Hein Solo Violin/Solo Contrabass/Solo Viola/Solo Celloなどを鳴らすことで、演奏している感じが出ます」

 

 他方、エフェクトについてはCELEMONY Melodyneを愛用。ボーカルに用いているが、整えるのではなく、あえて“壊す”ような処理を行うという。

 

 「オクターブを下げたり、フォルマントをいじって意図的に変な声にしたり、過激なことができるように僕が直接手を下します。「アルトラ★クイズ」では、松永君のラップのようなボーカルを録った後から強引にメロディを書きました。アーバンギャルドはジャンルが幅広く、毎回新しいことの発明や勉強の繰り返しなので、面白くも苦しくもあります(笑)」

 

 キーボーディストとしての音作りや打ち込みでの制作を経て、現在はミックスを追求。この工程ではLogic Pro Xで、WAVESのプラグインを愛用している。

 

 「WAVES Renaissance Bassをベースに挿したりしますが、簡単に太くできてしまうので使い過ぎに注意しています。コンプはCLA-2A/CLA-3A/CLA-76を使うことが多いです。今後はハードウェアのコンプも導入したいですね」

 

 これまで多岐にわたる活動を続けてきたおおくぼ。彼のルーツとなった音楽が、ここに来て同時に結実している。

 

 「ロックやフォーク、テクノ、現代音楽がずっと並行して好きで。20代はロックやフォークをやり、30代はプレイヤーとして活動しました。アーバンギャルドに入ったころからテクノ方面が動き出して、ロックやフォークは頭脳警察、現代音楽はソロ活動や戸川純さんなどとの活動という形で結実したんです。最近はやりたいことができていて楽しいですね」

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Hitomi(vo)とのユニット=雨や雨などのボーカル・レコーディングで使うAUDIO-TECHNICA AT4050。おおくぼは「高域から低域まですごくリアルに録れる」と話す

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KORG SDD-1000、YAMAHA Motif-Rack ES、TOA Model D-2、BEHRINGER V-Amp Pro、ROLAND A-880が並ぶ

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2019年末に購入して気に入っているというSHURE SRH940。このほかにモニター・ヘッドフォンはSONY MDR-CD900STを使用

Close up
リビングにたたずむ往年の名キーボード

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 HOHNER Pianet/Clavinet Duo(写真上)は、モーガン・フィッシャーにあこがれて買ったお気に入りの一台だという。Clavinet とPianetの音を同時に出すことができ、そのブレンド具合も調整可能だ。RHODES Stage Piano Mark Ⅱ(同下)は大槻ケンヂの作品などで使用。

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE MacBook Pro
DAW:APPLE Logic Pro X、ABLETON Live、MOTU Digital Performer
Audio I/O:RME Fireface UCX
Controller:ABLETON Push 2、KORG NanoControl 2

[Recording & Monitoring]
Recorder:AIWA TP-VS550
Mixer:MACKIE. 1202VLZ-3、TOA Model D-2
Monitor Speaker:ADAM AUDIO A7X
Headphone:SHURE SRH940、SONY MDR-CD900ST
Microphone:AUDIO-TECHNICA AT4050

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:UNIVERSAL AUDIO Solo/610
Delay:ROLAND RE-101 Space Echo、Delay、KORG SDD-1000
Reverb:DANELECTRO DSR-1 Spring King
Multi-Effects:BEHRINGER V-Amp Pro
Pedal Effects:LINE 6 DL4、IBANEZ AD9
Other:MOOG Theremini、TEAC AV-P25、AP AUDIO Re’an Patching System、ROLAND A-880、LESLIE 2101MK2

[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:RHODES Stage Piano Mark Ⅱ、HOHNER Pianet/Clavinet Duo、KORG MS-20、Monotribe、MOOG Mother-32、Grandmother、YAMAHA DX100、Motif-Rack ES、W101、ROLAND RD-700GX、HAMMOND XK-3C、DOEPFER A-130 VCA Linear VCA、A-118 Noise +Random Volt.、A-160-2 Clock/Trigger Divider II、A-141-2 Voltage Controlled Envelope Generator VCADSR、Dark Link、MALEKKO Envelator Mult、MAKE NOISE Wiard Wogglebug、Function、HIKARI INSTRUMENTS Hikari Limiter、Analog Sequencer Ⅱ、TIPTOP AUDIO UZeus、Z3000、SYNTHROTEK MST Stereo Output Mixer、DS-M Drum Synth Module、ROLAND Scooper、INTELLIJEL µVCA、µMIDI、Polaris、BLUE LANTERN Tri Core Duo LFO、MUTABLE INSTRUMENTS Links、Ripples、JOMOX Modbase 09 Bass Drum Module、PULP LOGIC Chords、ERTHENVAR Patch Chord、PITTSBURGH MODULAR Oscillator V2、CRITTER&GUITARI Pocket Piano、Rhythm Scope、ACCESS Virus TI2、KURZWEIL MicroPiano、MANIKIN ELECTRONIC Memotron M2K、etc.
Rhythm Machine:ROLAND TR-8、COLUMBIA Rhythm BoxN
Sampler:ROLAND SP-404
DJ Tool:GEMINI MDJ-600

 

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おおくぼけい

【BIO】作編曲家/キーボーディスト。アーバンギャルドのメンバーとして活動するかたわら、戸川純avecおおくぼけい、頭脳警察、大槻ケンヂのオケミスなどのプロジェクトに参加する。作曲家/アレンジャーとしても活動し、ソロ・ピアノ作品も連続リリース中。

Recent Work

アバンデミック

アバンデミック

  • アーバンギャルド
  • J-Pop
  • ¥2139

 

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