カリフォルニア州チノを拠点とするMANLEY。ユーザーの立場を熟知し、カスタム・オーダー・オプションにも柔軟に対応するプロ・オーディオ・メーカーである。真空管を使った個性豊かなアウトボードやマイクを、読者も一度は目にしたことであろう。そのMANLEYの真空管マイク、Reference Goldの電源ユニットが、スイッチング式にリニューアルされた。
無指向/単一指向/双指向を無段階で選べる
PADスイッチ(−10dB)もスタンバイ
Reference Goldが1990年のAESショウで登場した当時、見た目のインパクトに驚いた記憶がある。今見てもそれは変わらない。丈夫そうなサスペンションにマウントされていて、手に取るとどっしりと重量を感じる。シリアル・ナンバーはサスペンション側に記載されている。
MANLEYの真空管マイクはReference Cardioid、Reference Silver、そしてReference Goldがレギュラーのラインナップとして用意されており、Reference Goldはフラッグシップ機である。Reference Goldは最上位モデルにふさわしい、気品高い24金メッキのブラス削り出しが筐体に使われている。この筐体が優れたシールド効果を発揮するそうだ。カプセルはおなじみCK12スタイルを採用。1インチ径で厚さ3μのダイアフラムは金蒸着で仕上げられている。指向性は無指向/単一指向/双指向の間を無段階で選択可能。指向性の切り替えノブは、PADスイッチ(−10dB)とともにボディ下部に設けられている。チューブは12AT7管を採用。良質な個体を選別しているそうだ。MANLEYオリジナルの出力トランスも内蔵されている。
30年の時を経てリニューアルされた電源ユニットManley Powerは、エンジニアのブルーノ・プッツェイス氏率いる電源技術の世界的なエキスパート・チームが設計を手掛けた。トピックはSN比の向上。高調波ノイズを抑制し、高電圧化によって余裕のあるヘッドルームも獲得しているという。
新旧モデルで聞き取れる音色の違いは無い
無音状態でゲインを上げたときのSN比が向上
前置きが長くなったが、まずはピアノからテスト。とにかくレスポンスが良く、トランジェントの特性に優れているというのが第一印象だ。高域の音調が際立ち、入った音への反応が極めて速い。ハンマーが弦をたたく瞬間のスピード感がそのまま伝わり、ペダルを踏む音もよく聴こえる。倍音成分もよくとらえており、余韻はどこまでもクリア。筆者はピアノの収録の場合、16kHzから上をシェルビングで若干伸ばすことが多いが、Reference Goldならその必要は無さそうだ。ピアノの種類や調律によっては、高域や倍音が目立ち過ぎることもあるかもしれない。
続いてはバイオリンのソロ・パート。こちらも実に倍音が豊かで小気味良い。弦のツヤやハリを鮮やかにキャプチャーし、細かなタッチを表現する。リリースはふくよかで、ローエンドにかけて太く伸びやかだ。ピチカートでは指で弦を弾く瞬間の“こすれる音”も聴き取れる。通常フォルティシモでは中域がきつくなりがちなので、1〜3kHz辺りを微妙にディップさせることが多いが、Reference Goldではその帯域が奇麗に収まっている。後でメインテナンス・エンジニアの協力を得て周波数特性を計測してみたところ、中域から高域にかけて特徴的なグラフを示した。これは納得の結果で、高域はブライトで強い性質を持っている。
アコースティック・ギターは奇麗な高域、そして余韻の美しさが素晴らしい一方、低域過多な一面も。もちろんアコースティック・ギター自体の種類にもよるが、 ファースト・チョイスでは無さそうだ。
そして、男性ボーカルもチェック。低音が魅力の甘い歌声を持つ、いつものベテラン・アーティストに歌っていただいた。ミドル・テンポな曲で収録したところ、やはり倍音が豊かな印象。口元がイメージできるような、ふくよかで存在感のある音になった。
そして最後は女性ボーカル。この方もベテランのアーティストで、ワイド・レンジな歌声はバラードを歌わせたら秀逸だ。実はこの方、リニューアル前のReference Goldを所有しているほど、普段からReference Goldを気に入って使われているそうだ。収録してみると倍音豊かなサウンドは、実に彼女の歌声にマッチしている。声の肉付きも良く、口元のうるおいとあでやかさが奇麗に伸びる。実にグラマラスな音色である。彼女いわく“倍音を感じやすいから歌っていて気持ちが良いし、ピッチが取りやすい”そうだ。
短時間ながら新旧モデルの比較もできた。聴き取れる音色の違いは無く、個体差程度だ。ただ無音でゲインを上げた場合、新モデルの方が確実にSN比が良かった。昨今のハイレゾリューション・レコーディングでは非常に有効であろう。
ボーカルのチェック時に気付いたのだが、吹かれに若干弱い。ヘッドをのぞくとマイクでよく見る極薄のフィルターが無く、ダイヤフラムがむき出しに近い状態なのだ。ポップ・ガードの選定とセッティングは慎重に行いたいところである。筆者がテストした結果、JZ MICROPONES Pop Filterが最も相性が良かった。構造上ほこりや飛まつが入りやすいので、ダイアフラムのメインテナンスが必要だと感じる。
短い時間ながら楽器と歌でテストを行ってみて、実に音楽的にサウンドをとらえることのできるマイクであり、安定感のある音色から安心して使えるモデルだと感じた。スペックを追い求めるのではなく“人間の耳の基準”を第一にし、心地良いサウンドを追求しているような、MANLEYの美学を感じる。
山内”Dr.”隆義
【Profile】井上鑑氏や服部隆之氏、本間昭光氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中。
MANLEY Reference Gold
オープン・プライス
(市場予想価格:580,000円前後)
SPECIFICATIONS
▪真空管12AT7 ▪周波数特性:10Hz~30kHz ▪感度:17mV/Pa ▪最大音圧レベル:150dB SPL ▪インピーダンス:250Ω ▪ノイズ:−120dB EIN ▪動作電圧:100〜240W(50〜60Hz) ▪外形寸法:114.3(φ)×246.4(H)mm(マイク)、127(W)×82(H)×198(D)mm(Manley Power) ▪重量:約1.02kg(マイク)、1.05kg(Manley Power)
MANLEY Reference Gold 製品情報
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