伝統とモダンが融合するハイファイ真空管マイク MANLEY Referenceシリーズ

アメリカはカリフォルニア州のチノを拠点とするメーカー、MANLEY。アウトボードやコンデンサー・マイクなどのレコーディング用機器を手掛ける同社は、その製品に真空管を使用しているのが特徴だ。今回はMANLEYの社長であるエヴァンナ・マンリー氏へのインタビューと、日々MANLEYの製品を愛用するエンジニアの林田涼太氏(いろはスタジオ)のユーザー・レポートを通じて、チューブ・マイクのReference GoldとReference Cardioid、そして近年発売されたReference Silverの魅力に迫っていこう。

Reference Gold
オープン・プライス(市場予想価格:580,000円前後)

gold マルチパターン設計に対応した、フラッグシップ・モデル。12AT7管を採用し、出力段にはハム・ノイズなどを防ぐためにミュー・メタル・メースで覆われたMANLEY製トランスを搭載している。指向性はオムニ/カーディオイド/フィギュア8の間で無段階設定が可能。−10dBのPADスイッチも搭載する。

Specifications
■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:17mV/Pa
■ノイズ:−120dB EIN ■最大音圧レベル:150dB SPL
■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約1.02kg(本体)

Reference Cardioid
オープン・プライス(市場予想価格:328,000円前後)

cardioid Reference Goldと同様の電気回路と真空管を採用した、単一指向性のチューブ・マイク。ダイアフラムの厚さもReference Goldと同じで、マイク本体の下部にはPADスイッチ(−10dB)も装備する。ヨーロッパ製のビンテージ真空管マイクの新品時をほうふつさせる、サウンドを有しているという。

Specifications
■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:17mV/Pa
■ノイズ:−120dB EIN ■最大音圧レベル:150dB SPL
■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約1.02 kg(本体)

Reference Silver
オープン・プライス(市場予想価格:450,000円前後)

silver

1977年に発売された真空管マイクSONY C-37Aに触発されたチューブ・マイク。プリ部に5670管を内蔵し、出力段はMANLEY製トランスが担う。付属の専用キーをカプセルに差し込んで回すことで、指向性をカーディオイドから無指向まで無段階で調節可能(電源オフ時のみ)。ローパス・フィルター(−3dB@55Hz)も搭載する。

Specifications
■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:7mV/Pa
■ノイズ:−108dBV(A-Weighted) ■最大音圧レベル:150dB SPL
■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約680g(本体)

President Interview
エヴァンナ・マンリー

evanna

チューブ・マイク用の真空管は
最も静かな個体を厳選して使っています

Interpretation:Mariko Kawahara

サウンドとデザイン、共に洗練されているMANLEYの真空管マイク。その理念と物作りにかける情熱について、同社社長であるエヴァンナ・マンリー氏に聞いた。

─ MANLEYではマイクをいつからラインナップしているのでしょうか?
マンリー Reference GoldとReference Cardioidは、1990年にAESショウでデビューを飾った、MANLEYの最初期からある製品です。マスタリング・エンジニアの巨匠であるダグ・サックス氏と共にマスタリング・ラボで働いていたエンジニアのスティーヴ・ハセルトン氏が、デイヴィッド・マンリーと共にマイクのオーディオ回路を設計しました。

─ デイヴィッド・マンリー氏はどのような人なのでしょうか?
マンリー MANLEYの共同設立者です。ですが1996年に突然アメリカを去ってしまいました。その後から、私がMANLEYの舵を取っているわけです

─ 2機種のマイクが誕生してから27年を経て、Reference Silverが発売されました。
マンリー 真空管ブランドGROOVE TUBESの創設者である、今は亡きアスペン・ピットマン氏(編注:今年8月に他界)の“SONY C-37Aカプセルを再現する”という夢を実現したのです。私はReference Goldのカプセルを作成していたJOSEPHSONのデイヴィッド・ジョセフソン氏をピットマン氏に紹介しました。<

─ そこから順調にいったのでしょうか?
マンリー いいえ。それからずっと後になっても、ジョセフソン氏は自身のブランドであるJOSEPHSONのために、相変わらずC-37Aカプセルを開発していました。それを知った私は、サンプルを送るようジョセフソン氏に頼み、MANLEYでの製品化に向けて追求を始めたのです。

─  Reference Silverではスイッチング電源が採用されていますね。
マンリー このパワー・サプライは、これまでにないアップグレードと言い切れます。地球上で最も素晴らしいオーディオ・エンジニアである、ブルーノ・プッツェイス氏がMANLEYのために開発したものです。最初はCoreのために、それからForce、Elop+、Nu Muなど、MANLEYの最新機器に使用されています。その結果、過去に使用してきたリニア・サプライより安定していてかつ静かで、優れたサウンドであることが証明されました。2020年を迎える前に、MANLEYで現在ラインナップしているマイクは3種とも、スイッチング電源を採用する予定になってます。

─  マイクの開発で最も大事にしていることは何ですか?
マンリー それぞれに独特の味わいがありながらも、幅広い音源や楽器に役立つ必要があると考えています。トータル・バランスの良いマイクは、多くの問題を解決できるからです。MANLEYではアフター・ケアも大切にしています。近年小さなプライベート・スタジオのオーナーやミュージシャンが、問題が生じた際にメーカーのバックアップを得られ、何十年も使えるクオリティの高い製品を求めていることが見受けられます。非の打ちどころの無い機材を求めている方に、我々はそれを提供すべく努力していきます。

─  品質管理で大切にしていることを教えてください。
マンリー 回路が正常に作動していることと、カプセルがその設計にぴったり合ったサウンドであることはもちろん、我々が非常に留意しているのはノイズ・パフォーマンス。Reference GoldとReference Cardioidの回路には低ノイズな真空管が必要なので、真空管をテストを行った中で最も静かだった個体を厳選して使用しているんです。

突き抜けるハイエンドと
リッチな低域が共存するマイクです

ryota

User Report
林田涼太
Photo:Takashi Yashima

ここからはいろはスタジオの代表兼レコーディング・エンジニアである林田涼太氏に、彼の愛機であるReference Goldについて語ってもらおう。今回はReference CardioidとReference Silverも試用してもらい、それらのインプレッションも伺った。

設立10周年を迎えるいろはスタジオ。その歴史を共に歩んできたReference Goldは、主にボーカル・マイクとして使っているそうだ。

「男女どちらにも対応できるマイクで、ロック・シンガーにもアイドルにも幅広く使っています。声の細いボーカリストでも、声が身体に響いている感じをしっかりキャプチャーしてくれます。バイオリンやアコギにも合いますね」

音色の特徴について林田氏が語る。

「Reference Goldは突き抜けるハイエンドと、リッチな低域が共存する、派手なマイクです。全帯域にわたってグイグイ前にくる感じで、おいしいポイントを引き出してくれます。2ミックスに混ぜても埋もれないので、目立たせたいパートには適任です。低域が特徴的で、ここまでファットに収音できるチューブ・マイクもなかなか無いと思います」

今回試してもらったほかのマイクについても伺った。

Reference Cardioidは3機種の中で一番ナチュラルなので、いろいろなソースに使えそうですね。同じ電子回路が使われているReference Goldより低域は控えめで、ボーカル録音への対応力が高そうです。Reference Silverはビンテージ指向のマイクだと思いました。中域に張り出し感があるのが特徴で、低域のもっちり感はReference Goldと似ています。高域成分が抑えめでファットなサウンドなので、ほかの2種類よりターゲットを選びそうです。ドラムで試してみましたが、トランジェントをしっかり保ったまま収音してくれますね。バンジョーも録ってみたところ、ほかのマイクだと録れないような低域までしっかり収めてくれました。今ラインナップされている3種類はすべて違うキャラクターですが、ハイファイでありながら自己主張がある特徴は共通しています。ステレオ・コンプレッサーのStereo Variable Mu Limiter Compressorも同様の印象で、MANLEYのカラーなのかなと思います」

3機種を試してみた結果、やはり所有しているReference Goldが一番好きだと林田氏は熱弁する。

「フラッグシップ・モデルだけあって、ボーカルの存在感が大きく感じます。声のザラザラしている感じもしっかり収音してくれるんです。見た目も音も派手なReference Goldは、ボーカリストのモチベーションを上げて、パフォーマンスを最大限引き出してくれる最高のマイクだと思っています。初めて使った人のほとんどが、“歌がうまく聴こえる”と言ってくれるんです。コンデンサー・マイクの定番機はナチュラルな特性のモデルが多いですが、このような派手な特性のマイクもレコーディング・スタジオに適していると思います」

Reference Cardioid
限定100台のアニバーサーリー・モデルが登場

cardioid_xxxMANLEY設立30周年を記念して、Reference Cardioid XXX Anniversary Limited Edition(2,999ドル)の発売が決定。ボディは光沢のあるパール・カラーがあしらわれ、Reference Silverと同様のスイッチング電源を採用したモデルとなる。

問い合わせ先:フックアップ ☎03-6240-1213 https://hookup.co.jp/

201912サウンド&レコーディング・マガジン2019年12月号より転載